偉大な演奏!ルイージ指揮N響 マーラー「一千人の交響曲」(12月17日・NHKホール) | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。



ファビオ・ルイージがきっちりとまとめ上げた密度の濃いマーラー「一千人の交響曲」。ソリストが粒ぞろい。NHK児童合唱団が大健闘。新国立劇場合唱団は120名強。引き締まった合唱だが、NHKホールという巨大空間ではもっと人数が必要かもしれない。

N響はルイージの指揮のもと、精緻な演奏を展開した。

 

NHKホールではこれまで「一千人の交響曲」を、シノーポリ(フィルハーモニア管)、デュトワ、ヤルヴィ(以上N響)の指揮で聴いたが、ルイージ指揮が一番まとまりの良い演奏に思えた。

 

もしこれが、サントリーホール、あるいは東京芸術劇場くらいのホールであったなら、どれほど良かったことだろう。

 

第1部「讃歌《来たれ、創造主である聖霊よ》」の展開部の最後、合唱とソリストが『より遠くへ敵を追いやり、尽くさず平和を与えたまえ』と壮麗な二重フーガを展開し、さらに《来たれ、創造主である聖霊よ》が再現するクライマックスは、「偉大な演奏」と評したくなる規模の大きさと格調があった。

 

また第1部の最後、『父なる主に栄光あれ、蘇りし御子に、聖霊に栄光あれ、世々に至るまで』とソリスト、合唱が歌い上げるコーダは、熱気が頂点に達した。

 

第2部「《ファウスト》の終幕の場」

第1部分ポーコ・アダージョ。冒頭のシンバルのシャンとピアニッシモで鳴らされる音はその後も何度も登場し、場を浄めるような効果を発揮する。弱音器付きのヴァイオリンのトレモロは聞こえるか聞こえないかくらい。管弦楽による部分はチェロとコントラバスのピッツィカートが良く響く。練習番号8からのチェロの激しい旋律も力強い。

 

木管の神秘的な音とピッツィカートの上で歌われる「合唱とこだま」、合唱がピアニッシモで歌う最後の歌詞『清められた場所を、清らかな愛の隠れ家を見つける』の神聖な雰囲気が素晴らしかった。

 

バリトンのルーク・ストリフによる「法悦の教父」はなかなか聴かせる。ソリスト陣はこれまでのデュトワやヤルヴィとは異なりオーケストラ後方で歌うため、巨大なNHKホールでは声が前に飛んでこない。ソリストにとってはハンディがある。ただルイージはその分N響をよくコントロールしていたと思う。

 

 

バスのダーヴィッド・シュテフェンスの歌う「瞑想の教父」は若々しい声。ただ彼も巨大なホールではハンディがある。

 

「天使の合唱」ではNHK東京児童合唱団が健闘。発音がよく切れもあった。

女声合唱と児童合唱が続き、「マリア崇拝の博士」のテノールのミヒャエル・シャーデがマリアを讃える長いソロを歌っていく。シャーデは2016年のヤルヴィN響でも同じ役を歌ったが、今回の方が調子は良かった。

 

ハープの分散和音で第1部分が終わり、第2部分に入り、その分散和音に乗って第1ヴァイオリンが奏でる主題は天国的だ。二部に分かれた合唱が歌う中に、「一人の贖罪の女」役第2ソプラノのヴァレンティーナ・ファルカシュが加わり、さらに「罪深い女」(グレートヒェン)の第1ソプラノ、ジャクリン・ワーグナーが加わる。第1部では好調だったが、ここでは少し疲れが見えた。「サマリア人の女」役の第1アルト、オレシア・ペトロヴァは声量があり、安定していた。「エジプトのマリア」役の第2アルト、カトリオーナ・モリソンは声がよく通る。

3人が歌う部分では、ジャクリン・ワーグナーが調子を戻した。

「昇天した少年たち」を歌うNHK東京児童合唱団が明るくクリアな発音で素晴らしかった。

 

「贖罪の女」(グレートヒェン)の第2ソプラノのファルカシュが最後に『気高い霊たちに囲まれ』と絶唱し、静かになると、オルガンの横で「栄光の聖母」のソプラノ三宅理恵が『お出でなさい!より高い天空へお昇りなさい!』と歌う。ここだけの出番のために待ち続け、ピアニッシモで声を前に飛ばすのは難しいと思うが、もうひとつ強さを秘めて歌ってほしかった。

 

「マリア崇拝の博士」のテノールのミヒャエル・シャーデが『救い主の眼差しを見上げよ』と高らかに歌い上げ、さらに『処女よ、御母よ、女王よ。女神よいつも恵み深くあってください』と結ぶと合唱がそれに続き、高揚していった。

 

弦のフラジョレット、高音のフルート、ピッコロで場が浄められ、最後の「神秘の合唱」が『すべての過ぎゆくものは比喩に過ぎない』とピアニッシッシモで始まる。

 

第1ソプラノのワーグナーが『永遠に女性的なるものが私たちを引き上げる!』と感動的に歌い、第2ソプラノ、ファルカシュが続く。

ここから最後までのソリスト、オーケストラ、合唱の集中力は凄かった。

ソリスト全員、合唱、児童合唱全員が加わり、オルガンと全オーケストラとともに『すべての過ぎゆくものは比喩に過ぎない。永遠に女性的なるものが私たちを引き上げる!』と壮大に歌い上げ、2階席のバンダの金管とともに最大の管弦楽の頂点を築いて、ルイージは最後を締めくくった。

 

昨年9月のN響首席指揮者就任記念公演、ヴェルディの《レクイエム》でも感服したが、超大作を完璧なまでにまとめ上げるルイージの力量を改めて思い知らされた。

この成功を機に、ルイージとN響の絆が深まることは間違いないだろう。

 

NHKホールで近年聞く最大の「ブラヴォ」「ブラヴィ」は凄まじい。NHK東京児童合唱団にも多くの声援が飛んでいたことが印象的だった。延々と続くカーテンコールは何分続いたのだろうか。最後はルイージコンサートマスターの篠崎史紀を伴って現れ、ようやく長い、長いカーテンコールが終わった。