フェスタサマーミューザKAWASAKI2 渡邊一正 神奈川フィル 黒木雪音 阪田知樹 清水和音 | ベイのコンサート日記

ベイのコンサート日記

音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。







(8月6日・ミューザ川崎シンフォニーホール)
「ベートーヴェン生誕250年 ベートーヴェン・ピアノ協奏曲づくし」と副題にあるように、第1番、第4番、第5番《皇帝》の3曲が15分の休憩をはさんで演奏された。

 

第1番を弾いた黒木雪音は以前聴いた気がすると思い、帰って調べたら昨年3月横浜みなとみらい大ホールの「フレッシュ・コンサート」で聴いていた。
そのときの感想はここにあるが、↓ 技術的にはより安定しており、オーケストラとの共演にも慣れてきたようだ。

https://ameblo.jp/baybay22/entry-12445999543.html

 

黒木はパリパリッとした思いきりのいいピアノを今日も披露したが、表情や音色が全体に一本調子で、技術ばかりが目立ってしまう。ただ、前回には感じられなかったコケテッシュな表情(たとえば第1楽章第2主題、同楽章展開部など)が時々感じられ、聴くものを惹き付ける。そうした面をもっと出してもいいと思うが、真面目なベートーヴェンということで、押さえたのかもしれない。
渡邊&神奈川フィルは、最初響きが硬かったが、終わりに向かって熱くなっていった。

 

阪田知樹の第4番は、さすがに音色のパレットが黒木より多く、潤いと艶がある。阪田は先日聴いたラフマニノフの第2番が平板に思え、ブログにも辛口を書いたが、今日の演奏はそれを完全に払拭する素晴らしいものだった。

プレトークで、神奈川フィルのソロ・コンサートマスターの﨑谷直人が、阪田の音楽性がこの曲に合っている、と語っていたが全く同感。第1楽章のカデンツァから終結部のアルペッジョは本当に美しいものがあった。
ソリストがいいと、オーケストラも触発されるのか、渡邊&神奈川フィルも音に潤いと奥行きが出て、阪田との一体感が感じられた。拍手もこの演奏が一番大きかった。ミューザの聴衆は音楽が本当に良く分かっている。


清水和音の第5番《皇帝》は、この曲を完璧に手中にした安定感抜群の演奏だったが、先日尾高忠明&新日本フィルとの共演で同じ曲を弾いた時にも感じたように、演奏に深みがない。短期間に二度続けて聴いてよくわかったが、清水の演奏は、「ルーチンワーク」になってしまっている。時々打鍵がぞんざいに感じられた。
 

彼は《皇帝》をこれまで150回!前後弾いているという。弾きすぎたことで、初めてこの曲を弾いたときの緊張感が薄れてしまったのかもしれない。


﨑谷直人がプレトークで『ベートーヴェンの音楽は作曲されたころ時代の最先端を走る<現代音楽>であり、当時の人々は驚きを持って聴いたはず。我々はベートーヴェンがどういう音楽か知りすぎてはいるが、自分がカルテット(ウェールズ弦楽四重奏団)でベートーヴェンを弾くときは、何か新しいものを発見したいし、聴衆にも初めて知るような驚きを与えたい』と話していたが、清水和音にもぜひそうなってほしい。
清水のもつ高い音楽性を存分に発揮して、聴き手をはっとさせる驚きに満ちた演奏を聴かせてくれることを期待したい。

 

阪田知樹©HIDEKI NAMAI、清水和音©Mana Miki、渡邊一正©Satoshi Mitsuta