これまで指揮者の山田和樹、ヴァイオリニストの松田里奈など現在大活躍しているアーティストを輩出してきた実績のある「フレッシュ・コンサート」。
今回は3人のソリストと、神奈川フィルが誇る若いホルン奏者4人による珍しいヒューブラーの「4本のホルンによるオーケストラのための協奏的作品」を聴いた。
神奈川フィルを指揮するのは松尾葉子。ゲスト・コンサートマスターは東京交響楽団のアシタント・コンサートマスターであり、大阪フィル、京響、仙台フィルにも客演する廣岡克隆。
最初はフルートの福島さゆりがモーツァルト「フルート協奏曲第1番」を披露した。主な受賞歴は第18回日本フルート・コンヴェンションコンクール第番4位、第34回かながわ音楽コンクール第1位。
きれいな音、繊細な表現の楚々とした演奏。第1楽章展開部は生き生きとしており、カデンツァを磨き上げたクリアな音で丁寧に吹いた。上品この上ない演奏だが、全体に同じような表情で、もうひとつ踏み込んでデュナーミクに変化をつけてもいいのではと思った。
次はピアノの黒木雪音(くろきゆきね)。ハノイ国際ピアノコンクール、カザフスタン国際青少年フェスティバルコンクール優勝、ピティナ・ピアノ・コンペティションG級(22歳以下)金賞という受賞歴。
黒木雪音のラフマニノフ「パガニーニの主題による変奏曲」がこの日一番エキサイティングだった。有名な第18変奏までは、突っ込み不足やオーケストラとのタイミングのずれなど、オーケストラとの共演不足も感じたが、有名な第18変奏では豊かな音響でスケール大きく旋律を歌わせる技を聞かせ、これは、と思わせる。そのあとは、第22変奏の激しいカデンツァから第24変奏まで凄まじい追い込みを見せた。これには静かだった客席も大喝采。
黒木は「のだめカンタービレ」の主人公、野田恵を思わせる雰囲気と度胸の良さ、堂々としたステージマナーがあり、スター性もあると思う。楽しみなピアニストだ。
ヒューブラーの「4本のホルンによるオーケストラのための協奏的作品」は、豊田美加、坂東裕香(以上首席)、田中みどり(契約団員)の順で並び4番ホルンを熊井優が吹いた。
飛びぬけてヴィルトゥオーゾ的な演奏ではないが、4人のアンサンブルは安定しており、神奈川フィルはホルンの人材が豊富であることを印象付けた。
最後はヴァイオリンの滝千春。チューリヒ芸術大学、ハンス・アイスラー音楽大学ベルリンを卒業。ダヴィッド・オイストラフ国際ヴァイオリンコンクール第3位。デビュー10周年の記念コンサートを昨年行うなど、活動歴としてはベテランと言ってもいいアーティストだ。
メンデルスゾーン「ヴァイオリン協奏曲」では、第1楽章のカデンツァの高音フラジオレットも正確であり、技術的には安定していた。音色も潤いがあり、ロマン派作品にふさわしい様式美もある。ただ彼女も、メリハリ、デュナーミクの変化、さらに深みのある表現、個性というソリストに求められる要素を充分満たしてはいない。
このことは今日の出演者全員に当てはまる。しかし誰しも自己の演奏のスタイルを確立するまで、数多くの演奏経験を重ねていくわけであり、これからの彼らの活躍を温かく見守るとともに、彼らの健闘を祈りたいと思う。