ダニエル・ハーディング指揮マーラー・チェンバー・オーケストラ ブルックナー《ロマンティック》 | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

311日、すみだトリフォニーホール)

 ハーディングは右足を押さえ少し引きずるように歩く。昨年1212日パリ管とのツアーの札幌で右足首を骨折してから3ヶ月でたったが、まだ完治していないようだ。幸い指揮には影響はないようだ。

 

1曲目のエルガー「ニムロッド」は1945310日東京大空襲と2011311日東日本大震災の犠牲者への祈りがこめられた。
 マーラー・チェンバー・オーケストラ(MCO)の演奏は骨太でハーディングの指揮は威厳があった。ヴァイオリンを支えるチェロの旋律がよく響く。演奏後のハーディングは微動だにしない。祈りのための静寂は30秒以上続いた。

 

2曲目のシューベルト「交響曲第3番」は若鮎が跳ねるような新鮮な演奏だった。ハーディングは拍節をはっきりとつける。第2楽章の中間部のクラリネットのソロは飛びぬけてうまい。第3楽章のトリオはほのぼのとしている。第4楽章の若さあふれる勢いはMCOの真骨頂。シューベルト自身がこういう演奏を聴いたら歓喜するのではないだろうか。

 

ブルックナー「交響曲第4番《ロマンティック》」は力感に満ちた運動的な演奏の極致。主題が繰り返され力を増して行くブルックナー独特の展開の妙をハーディングとMCOは確信をもって描いていった。

12型対向配置の規模だが、メンバー一人一人の技量とパワーが並外れており、その充実感たるやものすごいものがある。

 

ホルン首席は、ソロカーテンコールでハーディングが彼の肩を抱いて現れたが、これ以上ないほど見事だった。それ以外の金管のパワーもブルックナーにふさわしい。そして木管!クラリネット以外にもフルート、オーボエ(吉井瑞穂)、ファゴットの強力なこと。音が前に向かって来る。

弦は本当に素晴らしい。トレモロも強烈で金管のfffをものともしない。ヴィオラ首席の生き生きとした表情を見ているだけで楽しくなる。

 

第4楽章は全く隙がない。コーダに向かって力をたくわえていき、びくともしない強靭で強大な終結部を築き上げた。

 

ハーディングは自分の理想とも言えるマーラー・チェンバー・オーケストラとともに、自分のやりたいことを全てやりつくした。両者の絶対的な信頼関係、強固な結びつきを強烈に印象付ける演奏であり、昨年のパリ管に続きハーディングの才能と実力を徹底的に思い知らされた気がする。

 

写真:ダニエル・ハーディング(c)Harald Hoffmann