サマーミューザ 飯守泰次郎 東京シティ・フィル ブルックナー《ロマンティック》 | ベイのコンサート日記

ベイのコンサート日記

音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

(8月7日・ミューザ川崎シンフォニーホール)
ワーグナー「タンホイザー」序曲冒頭の「巡礼の合唱」の旋律では、ドイツの深い森の奥から響いてくるようなホルンを期待したが、余り奥行きが感じられなかったのは少し残念。しかし、次にチェロが奏でるタンホイザーの悔悟の動機は厚みがあった。「ヴェーヌス讃歌」が大きく盛り上がった後の「巡礼の合唱」が「ヴェーヌス讃歌」を凌駕していくクライマックスはシティ・フィルの渾身の弦の上に金管が勝利の凱歌をうたいあげた。

 

ホルン交響曲ともいえるブルックナー「交響曲第4番《ロマンティック》」(ハース版)では、肝心のホルンが不調だったのが気の毒だった。出だしは好調だったが、気が緩んだのか、その後に続く低い音をはずした他、全曲の中で何度も出るソロでヒヤヒヤする場面があった。ただ全体的には健闘しており、終演後飯守が真っ先に立たせて、労を労っていた。
 

ホルンの瑕を除けば、演奏は大変立派なもので、このコロナ禍にあって、よくぞブルックナーを取り上げてくれたという感謝の気持ちでいっぱいになった。
 

12型の弦が14型あるいは16型になれば更に厚みが出ただろうが、今の状況ではそれは詮なきこと。それよりもシティ・フィルの熱演を讃えるべきだろう。コンサートマスター戸澤哲夫以下弦の踏ん張りは感動的だった。

ヴィオラの首席は元N響首席の小野富士(ひさし)。荒井英治、戸澤哲夫、藤森亮一とともにモルゴーア・クァルテットのメンバーであり、戸澤とは長年の信頼関係で結ばれている。第2楽章の副主題で充実した響きを生み出すなど、ヴィオラ・セクションをよくひっぱっていた。

 

ブルックナーの交響曲の肝である金管も全開で大健闘。各楽章のクライマックスは期待を満たす素晴らしく充実した分厚い音に満足した。

 

飯守のブルックナーは、全体像がしっかりとして、確信に満ちている。音楽の悠々とした運び方、ひとつひとつのフレーズの重み。ブルックナーの音楽が持つ崇高さが良く伝わってくる。80歳という円熟の年齢にふさわしい名演だった。

飯守は股関節の手術をしたとのことで、歩行が大変そうだったが、指揮台では全曲立って指揮した。楽員がステージから去っても飯守への熱い拍手が長く続き、ソロ・カーテンコールになった。

飯守泰次郎©東京シティ・フィル