思い出のコンサート アルベルト・ゼッダのロッシーニ(2011年9月16日、17日) | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

マエストロ、ゼッダのレクチャーは、ロッシーニの第一人者ならではの貴重な話が満載だった。

 

2011916日金曜日午後3時 レクチャー・コンサート

2011917日土曜日午後2時 本番

新百合ヶ丘 テアトロ・ジーリオ・ショウワ

指揮:アルベルト・ゼッダ 管弦楽:テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ

コンサートミストレス:瀬川光子

 

レクチャー・コンサート:

ロッシーニ:《どろぼうかささぎ》序曲

ロッシーニ(レスピーギ編):バレエ音楽「風変わりな店」

 

本番:

ロッシーニ(ブリテン編):大編成オーケストラの為の音楽の夕べ

ロッシーニ(コレギ編):フルート・ソロ、女声、弦楽の為のドードー組曲

ロッシーニ(レスピーギ編):バレエ音楽「風変わりな店」

アンコール;ロッシーニ:《どろぼうかささぎ》序曲

 

この二日間で、ロッシーニがとても身近になったことを感ずる。

巨匠アルベルト・ゼッダは、1928年イタリア、ミラノ生まれの81歳。年齢がにわかには信じられないほど、指揮ぶりはかくしゃくとしており、その音楽はまさに生命に満ち溢れている。ロッシーニの批判校訂版楽譜の編纂、世界中のオペラハウスでのロッシーニ演奏で名声を博し、今回は藤原歌劇団の「セビリャの理髪師」指揮のため来日。海外では指揮台に登壇するだけで拍手がやまないという巨匠中の巨匠だ。

 

レクチャー・コンサートでは、最初に《どろぼうかささぎ》序曲を通して演奏。エネルギーの塊のような音楽の奔流に圧倒された。そのあとのマエストロのレクチャーは、ロッシーニの第一人者ならではの貴重な話が満載だった。

 

以下、マエストロの言葉を箇条書きします。

・《どろぼうかささぎ》序曲の解釈はトスカニーニ、アバドのように明るく陽気にやるのが一般的だが、私の解釈は違う。このオペラの本質は明るいところと悲劇的な面がある。オペラ全体を理解して序曲を演奏しなければならない。このオペラには悲劇的な面が多々ある。

 

・ロッシーニは悲劇的なドラマを理解して演奏に臨むべき。喜びと悲劇の両面を演奏に出すべき。ここにロッシーニを演奏するさいの「秘密」と「核心」がある。

 

・ロッシーニの場合、喜劇と悲劇の境界線が非常に狭い。その両方を表現しないといけない。

 

・ロッシーニの音楽自体(楽譜自体)には「意味」がない。その音型は無色透明。短い音型を続けることで一つの音型ができている。

 

・従って演奏者に求められるのは、音に意味づけをすることである。プッチーニ、ヴェルディは音符そのものに全てのドラマが語りつくされている。ロッシーニの場合、歌手は彩り、色彩感を語りかけによって出さなくてはならない。演奏者、指揮者はリズムが重要。リズムの緻密な設計図がロッシーニの解釈には大切。

 

・ロッシーニの音楽はリズムがリズムを生む。呼吸するようにリズムが高まっていく。ロッシーニのリズムはその時その時で変化する。ひとつとして、同じリズムはない。

 

・そのリズムの変化、「ルバート」についてはロッシーニの場合は表現が難しい。ロマン派の音楽のようにわかりやすくない。少し早い、少し遅い、というひとつひとつのフレーズを判断し続けること。リズムが旋律を生んでいくこと。リズムに乗って呼吸するように音楽をつくっていかなければならない。

 

以上、すべて目からウロコの話だった。

 

本番で聴いた曲目はいずれも初めて聴くものばかり。

ブリテン、コルギ、レスピーギともにロッシーニに魅せられ、ロッシーニの埋もれた作品から掘り起こした小品を編んでこれらの作品を作った。コルギは1937年生まれのイタリアの作曲家。

コルギとレスピーギは、ロッシーニが65歳を過ぎて折々に書き溜めていった小品集「老いの過ち」から編曲した。

 

一言で感想をまとめると、ロッシーニ(ブリテン編)「大編成オーケストラの為の音楽の夕べ」は日本の抒情歌のような旋律も出てくるところもあれば、イタリアの民謡舞踊もあるといった現代的で多彩な作品。コルギは室内オーケストラにメゾソプラノ、フルートが交互に演奏する風変わりで、どこか懐かしい作品。

 

ロッシーニ(レスピーギ編):バレエ音楽「風変わりな店」は、レスピーギの選曲と編曲の妙が味わえる色彩豊かな音楽。
 

しかし、これらすべてを凌駕して、アンコールで演奏された《どろぼうかささぎ》序曲は、音楽の充満ぶり、生命力、ロッシーニ・クレッシェンドがすべて網羅され、レクチャーの言葉通り「ロッシーニの光と影」が渾然となった感動的な名演だった。

 

テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラは、昭和音楽大学の卒業生を中心とした若い弦・管・打楽器奏者のためのキャリア教育と、オーケストラプレイヤー育成のため昨年結成されたばかり。学生OBオーケストラとはいえ、すでに藤原歌劇団公演などプロデビューもしており、プロ顔負けのすきのない演奏を繰り広げ、マエストロの信頼を勝ち取っていた。

 

余談だが、コンサート終了後、大学構内、テアトロ・ジーリオ・ショウワ前のイタリアンレストラン「リストランテ・イル・カンピエッロ」で食事した。店内に入ると、マエストロ、ゼッダと夫人、昭和音楽大学の関係者が打ち上げの食事会をしていた。帰りがけに、マエストロに「ブラヴィッシモ!!」と声をかけ、プログラムにサインしていただいた。このレストラン、前菜もパスタ(自家製)も、チーズも絶品!おすすめです。人気店なので予約必須です。

http://r.tabelog.com/kanagawa/A1405/A140508/14009319/