萩原麻未&ヴォーチェ弦楽四重奏団 スペシャル・コンサート Special Guest 成田達輝 | ベイのコンサート日記

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萩原麻未&ヴォーチェ弦楽四重奏団 スペシャル・コンサート ~若きヴィルトゥオーソによるフランス音楽の粋~Special Guest 成田達輝
114日、ヤマハホール)

 2006年ジュネーヴ国際音楽コンクール最高位入賞のヴォーチェ弦楽四重奏団と2010年同コンクールピアノ部門第1位の萩原麻未に、ロン=ティボー国際音楽コンクール、エリザベート王妃国際音楽コンクール、仙台国際音楽コンクール各第2位入賞の成田達輝が加わった、文字通り若きヴィルトゥオーソたちによるフレッシュで活力に満ちたコンサート。

 

 後半全員が出演したショーソン「協奏曲(ヴァイオリンとピアノと弦楽四重奏のための協奏曲)ニ長調Op.21」がこの日の演奏のハイライトだった。ショーソンが意図したのは協奏曲(コンチェルト)というより合奏(コンセール)だと解説(関野さとみ氏)にあったが、実際に6人が合奏するさいの迫力たるや圧倒的であり、室内オーケストラを思わせる規模の大きな音楽が展開された。

 

 特に萩原麻未とヴォーチェ弦楽四重奏団はがっぷりと四つに組み、太い梁を組み上げていくような堂々とした演奏を繰り広げた。ヴァイオリンのソロで出番の多い成田達輝は、彼らに較べるとやや線が細い。一人でピアノと弦楽四重奏を相手にするのは多勢に無勢であり、その点を指摘するのは酷かもしれない。ただ成田も演奏が進むにつれ、残りの5人と対等に渡り合うような強さを出してきたので、底力はあるはずだ。

 

 この作品の魅力は「情熱的」なこと。第1楽章の第1主題は循環主題として第3,4楽章にも登場するが、暗く強い憧れに満ちた旋律は頭から聴く者を捉えて離さない。第1楽章では6人による主題の再現で独奏ヴァイオリンとピアノに続き、弦楽四重奏が4オクターヴに渡り急速で主題を奏でるところでひとつの山を築いた。

 

 第2楽章シシリエンヌは一転優美な世界へ誘う。第3楽章のピアノの半音階が不思議な雰囲気を醸す。

 

第4楽章では萩原を中心に成田とヴォーチェが活発な音楽を奏でて行く。ショーソンの師匠フランクのヴァイオリン・ソナタに似た情熱と濃厚な愛を感じさせるが、フランクよりもっと若い情熱が感じられる。その音楽の若さと、萩原、成田、ヴォーチェの6人の若いパワーがぴったりと合致して、冒頭の主題が回帰して終わる最後はまぶしいほどの輝きと生きる喜びをもたらした。

客席は大いに盛り上がり、アンコールに第2楽章シシリエンヌが演奏された。

 

 前半最初は萩原麻未によるドビュッシー「2つのアラベスク」。ベーゼンドルファーによる萩原の演奏はいかにも若々しく新鮮だが、さらなる弱音の繊細さとレガートな歌いまわしがほしい。

 

 前半2曲目はヴォーチェ弦楽四重奏団によるドビュッシー「弦楽四重奏曲ト短調Op.10」。この演奏も若さの勢いがある。4人は良く聴きあい、自発的な演奏を繰り広げる。第1ヴァイオリンのサラ・ダイヤンがリードするのではなく、4人が対等にアンサンブルをつくっていく。響きは明るく明快だが、ドビュッシーの弦楽四重奏曲に対する個人的なイメージからすると、もう少し柔らかく幻想的な響きも聴かせてほしいと思った。