(9月16日、新国立劇場オペラパレス)
「LE PROMESSE(レ・プロメッセ)」とは、イタリア語で「約束された者たち」のこと。新国立劇場はオペラ研修所開所20周年を記念して、若手オペラ歌手によるガラコンサートをオペラパレスで開催した。
指揮はダグラス・ボストック。オーケストラは藝大フィルハーモニアが2017年修了公演『コジ・ファン・トゥッテ』以来、新国立劇場に登場。
若手オペラ歌手として世界から東京・初台に結集したのは、ロンドン、ミラノ、ミュンヘンの著名な歌劇場オペラアカデミーの精鋭たち。日本からは、プロ歌手として国内外で活躍する新国立劇場オペラ研修所の修了生、加えて、2016年に創立された「ANAスカラシップ」による海外研修の成果を携えた現役の研修生たちが登場。合唱は約40名の合唱団。
【指 揮】ダグラス・ボストック (※飯守泰次郎より変更。)
【管弦楽】藝大フィルハーモニア管弦楽団
【合 唱】新国立劇場合唱団 二期会合唱団 藤原歌劇団合唱部
R.ワーグナー『タンホイザー』より「この聖なる殿堂には」/新国立劇場オペラ研修所研修生、新国立劇場合唱団、二期会合唱団、藤原歌劇団合唱部
G.ヴェルディ『シモン・ボッカネグラ』より「このほの暗い夜明けに」/サラ・ロッシーニ(ミラノ・スカラ座アカデミー)
G.ドニゼッティ『ルチア』より「我が祖先の墓よ~やがてこの世に別れを告げよう」/城 宏憲(第10期修了)
S.ラフマニノフ 『アレコ』より「みんな寝ている」/マイケル・モフィディアン(ロンドン・JPYAP)
G.プッチーニ『ラ・ボエーム』より「冷たき手を」/チャン・ロン(ミュンヘン・バイエルン州立歌劇場オペラ研修所)
G.プッチーニ『ラ・ボエーム』より「私の名はミミ」/セレーネ・ザネッティ(ミュンヘン・バイエルン州立歌劇場オペラ研修所)
F. チレア『アドリアーナ・ルクヴルール』より「苦しみの快楽」/清水華澄(第4期修了)
V. ベッリーニ『ノルマ』より「ご覧ください、ノルマ様」/サラ・ロッシーニ、アンナ・ドリス・カピテッリ(ミラノ・スカラ座アカデミー)
A.ドヴォルザーク『ルサルカ』より「月に寄せる歌」/安藤赴美子(第3期修了)
G.プッチーニ『トスカ』より「テ・デウム」/桝 貴志(第5期修了)、新国立劇場オペラ研修所研修生、新国立劇場合唱団、二期会合唱団、藤原歌劇団合唱部
G.ヘンデル『リナルド』より「風よ、竜巻よ」/パトリック・テリー(ロンドン・JPYAP)
G.ビゼー『カルメン』より「一仕事思いついたんだ」/清水華澄(第4期修了)、新国立劇場オペラ研修所研修生
C.F. グノー『ファウスト』より「清らかな住家」/チャン・ロン(ミュンヘン・バイエルン州立歌劇場オペラ研修所)
G.ロッシーニ『チェネレントラ』より「悲しみと涙に生まれ育ち」/アンナ・ドリス・カピテッリ(ミラノ・スカラ座アカデミー)、新国立劇場オペラ研修所研修生
新国立劇場合唱団、二期会合唱団、藤原歌劇団合唱部
G.ヴェルディ『ドン・カルロ』より「友情の二重唱」
城 宏憲(第10期修了)、桝 貴志(第5期修了)、新国立劇場オペラ研修所研修生
新国立劇場合唱団、二期会合唱団、藤原歌劇団合唱部
C.M.v.ウェーバー『魔弾の射手』より「すぐに眠れたものなのに」
セレーネ・ザネッティ(ミュンヘン・バイエルン州立歌劇場オペラ研修所)
W.A.モーツァルト『コジ・ファン・トゥッテ』より「厚かましい娘ね」
マイケル・モフィディアン(ロンドン・JPYAP)、安藤赴美子(第3期修了)、新国立劇場オペラ研修所研修生
G.ヴェルディ『ファルスタッフ』より「世の中すべて冗談だ」
出演者全員
飯守泰次郎が体調不良で欠場したが、急な代役のスイス・ハルウィル音楽祭の音楽監督を務めるダグラス・ボストックが見事な指揮を見せた。柔軟で流れの良い指揮は、正直な感覚としては飯守泰次郎よりも手慣れているように感じられた。
出演歌手の中では、G.プッチーニ『ラ・ボエーム』より「冷たき手を」を歌ったテノールのチャン・ロン(ミュンヘン・バイエルン州立歌劇場オペラ研修所)が最も印象に残った。立体的に響く強靭さがあり、かつリリカルな面も聴かせる。
次はS.ラフマニノフ 『アレコ』より「みんな寝ている」を歌ったバリトンのマイケル・モフィディアン(ロンドン・JPYAP)が、重厚な歌を聴かせてくれた。
* JPYAP=ジェッテ・パーカー・ヤング・アーティスト・プログラムの略。
G.ヴェルディ『シモン・ボッカネグラ』より「このほの暗い夜明けに」を歌ったソプラノのサラ・ロッシーニ(ミラノ・スカラ座アカデミー)が、少し硬いが力のある歌唱。
G.プッチーニ『ラ・ボエーム』より「私の名はミミ」を歌ったソプラノのセレーネ・ザネッティ(ミュンヘン・バイエルン州立歌劇場オペラ研修所)のたっぷりとした歌声。G.ヘンデル『リナルド』より「風よ、竜巻よ」のカウナター・テナー、パトリック・テリー(ロンドン・JPYAP)は出だしは不安定だったが、徐々に調子を取り戻した。
G.ロッシーニ『チェネレントラ』より「悲しみと涙に生まれ育ち」を歌ったメゾ・ソプラノのアンナ・ドリス・カピテッリ(ミラノ・スカラ座アカデミー)は安定していた。
一方賛助出演したオペラ研修所修了生で、いまや日本のオペラ界を担う中堅、ベテランとなった安藤赴美子(第3期修了)、清水華澄(第4期修了)、桝 貴志(第5期修了)、城 宏憲(第10期修了)は、日本の歌手に共通する弱点を感じた。それは発声法だ。海外の若手は全員身体全体をリラックスさせ、お腹から無理なく発声するのに対し、日本の歌手は力みかえり肩に目いっぱい力が入ったように、無理やり大きな声を出そうとする。それは半ば叫び声のように聞こえるときもある。
なぜあのように力みかえるのか。声が美しくないのか。不思議で仕方がない。何か日本の教育のやり方が間違っているか、過去からの誤った伝統が根付いているとしか思えない。本当はOBではなく、新国立劇場オペラ研修所研修生の現役生を主役に立ててほしかったとも思った。
藝大フィルハーモニア管弦楽団は東京藝大の演奏研究員(非常勤講師)によって組織されているプロオケで、ポストックの指揮のもと軽快な演奏を聴かせていた。