シルヴァン・カンブルラン 読響 アンドレイ・イオニーツァ(チェロ) オール・チャイコフスキー | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。


 (916日、東京芸術劇場コンサートホール)

 2010年に読響の常任指揮者に就任、フランス音楽や現代曲を積極的に取り上げ、ドイツ音楽を得意としてきた読響に新しい風を吹き込んだカンブルランも来年3月で読響を去る。

この日はオール・チャイコフスキー・プログラム。メインのチャイコフスキー「交響曲第4番」は、予想していた明るく色彩感豊かで開放的という演奏とは一味違うもので、正直驚いた。一言で言えば絶対音楽的で、交響作品としての構造を余すところなく明らかにする演奏だった。

 

1楽章はテンポを遅めにとり、緻密に音楽を積み上げていく。読響の響きは磨き抜かれ引き締まっている。第2楽章も情緒に流されることなく重みがある。第3楽章の「弦のピッツィカート」にはカンブルランらしい明るい響きがあったが、緊張感があるためウキウキとした気分にはならない。休むことなく入る第4楽章は明るく色彩的にも感じられるが、どちらかと言えば重厚で骨太。コーダはテンポを速めたが、派手に盛り上げるだけの演奏とは一線を画す。客席から興奮したブラヴォが飛び交うということはなく、聴衆はカンブルランと読響が真正面からチャイコフスキーに取り組んだ演奏に圧倒され、声も出ないという雰囲気さえ感じられた。

 

昨年2月にカンブルランは交響曲第5番を取り上げている。そのときのレヴュー(下記)を読み返してみたが、5番でもほぼ同じ印象だったので、カンブルランのチャイコフスキー解釈は、少なくとも交響曲に関しては一貫していると言っていいかもしれない。
https://ameblo.jp/baybay22/entry-12245142011.html

 

2015年チャイコフスキー国際コンクール優勝のアンドレイ・イオニーツァをソリストに迎えた「ロココ風主題による変奏曲」。公開リハーサルを見学した友人の話では、カンブルランは読響に対してかなり細かく指示を与えていたという。イオニーツァとカンブルランは昨年9月に初共演しており、カンブルランはイオニーツァの才能を高く評価している。リハーサルでカンブルランがイオニーツァに注文をつけることはほとんどなかったのではないだろうか。リハーサルの成果が演奏に反映され、カンブルランと読響のバックは繊細であり、優雅なこの変奏曲にふさわしいものがあった。

イオニーツァのチェロを聴くのは2度目。2016年のリサイタルのレヴューはここに。
https://ameblo.jp/baybay22/entry-12214796864.html

 

あれから2年。ひとまわり大きくなったようでもあり、変わらない部分もあるような。その変化はまだはっきりとはわからない。ただチェロのテクニックは相変わらず素晴らしく安定しており、演奏には余裕が感じられる。余裕を感じさせるのは少し進歩しているということかもしれない。

アンコールのJ..バッハ「無伴奏チェロ組曲から第1番プレリュード」は、ストレートに胸に飛び込んでくるようなシンプルさ、飾らない語り口があり、イオニーツァらしくて好感が持てた。

 

順序が逆になったが、最初に演奏された「幻想序曲《テンペスト》」は美しい旋律もあるが、演奏時間が18分と長いためやや冗長で、カンブルランと読響の演奏も珍しく少し粗さがあった。金管と弦のバランスも悪く、金管に傾きすぎているように聞こえた。

 

写真:カンブルラン(c)読響