望月哲也(テノール) 河野智美(ギター)シューベルト「美しき水車小屋の娘」(9月27日、近江楽堂)
ギターの伴奏で聴く「美しき水車小屋の娘」は、近江楽堂の心地よい響きと調和して、とてもいい雰囲気で聴けた。ギターはこれくらいのホールがぴったりだと思う。
望月哲也と河野智美の息は実に良く合っており、第12曲「休息」、第13曲「緑色のリュートのリボンに」のように、穏やかな旋律に乗せ、時に翳りある不安も込められた歌は、ギターの柔らかな響きと望月哲也の優しい声がぴったりと合い、深く心に響くものがあった。河野智美のギターは、伴奏に終わらない、音楽の深みとメッセージがあった。アンコールは「白鳥の歌」から「セレナーデ」が歌われたが、深いやさしさに包まれるようであった。
エルンスト・ヘフリガーの最後の東洋人弟子として、ヘフリガーからも信頼され、また2009年には王子ホールで「美しき水車小屋の娘」のリサイタルを成功させた望月哲也にはまことに失礼な感想になるが、さらにこの上を望むとすれば、日本人がドイツリートを歌うときのハンディの克服があるかもしれない。
望月の素晴らしくリリックな声と細やかな表現をもってしても、たとえはあまり良くないが、海外の歌手が日本の歌曲を歌うような、深く詩の世界に入っていけないもどかしさを感じた。ドイツ語が理解できない聴き手でも、微妙な違和感を覚えたことは確かだ。
しかし、天下のクラウス・フロリアン・フォークト*でさえ、声の美しさだけでは表現しきれなかった「美しき水車小屋の娘」(2013年3月17日東京文化会館小ホール)は、やはり難しい。この歌曲集の表現の奥の深さ、難しさを知らされるリサイタルになったとも言えるだろう。
*その時のレヴュー。
https://ameblo.jp/baybay22/entry-11499782259.html