素晴らしいコンサート。ヴィットが巨匠だが、まずは、ヤブウォンスキ。アンコールのショパンに涙した。ワルツ第2番は、優雅さと沸き立つ喜びの背後に哀しみが影を落とす。ノクターン第20番は、ショパンが一人ピアノに向かう光景と窓の外の寂しい冬景色が見える。一篇の詩を聞くようだった。こういうショパンを聴くと、ふだん耳にするショパンは、一体何なのかと思う。メインのショパンのピアノ協奏曲第1番は、名水のごとく純粋で滑らか。アルペッジョが美しい。ヴィットは繊細な指揮でピアノを包み込む。第2楽章冒頭の弱音や、ファゴットの響きのバランスなど、細やかに神経を通わせた。
指揮、ピアノ、オーケストラが一体となった理想的な協奏曲の演奏だ。
今日のプログラムは全てポーランド。作品、演奏家ともに。その血と精神と言うべき情熱的で愛国的な音楽は、モニーシュコの歌劇「パリア」序曲で、ヴィットが指揮台にかけ上がるや否や、即タクトを振り下ろすという勢いに象徴されていた。
シマノフスキの交響曲第2番は、リヒャルト・シュトラウスの交響詩を思わせるが、さらに気高い貴族的な気品と、ほとばしる情熱を注いだような作品だ。ヴィットの指揮は、この作品を知り尽くした確信に満ち、燃え盛る情熱は、作曲者をしのぐかのようだった。サイン会で、「昨日よりオケが良かった。もう一回演奏できないのが残念だ」と語るのを聞いて、作品への愛を実感した。
新日本フィルは素晴らしかった。このオーケストラは気品があると思う。そのキャラクターが今日は完璧に合っていた。指揮者とソリストとオーケストラ、そして作品の相性が最高だった。
写真:アントニ・ヴィット(c)J.Multarzynski、クシシュトフ・ヤブウォンスキ(c)Rafal Wegiel