音楽大学オーケストラ・フェスティバル(第5回) 東邦音楽大学/東京音楽大学 | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

2014127日日曜日 東京芸術劇場コンサートホール)

「音楽大学オーケストラ・フェスティバル」の4回目。
前半は田中良和指揮、東邦音楽大学オーケストラによるブラームスの交響曲第4番。後半が川瀬賢太郎指揮、東京音楽大学ソンフォニー・オーケストラによるR.シュトラウスの「英雄の生涯」。

ブラームスの4番は第3楽章のスケルツォが活気と集中がありよかった。第4楽章は難しい。聴かせどころの第12変奏のフルートは出だしがよかったものの徐々にテンポが遅くなり音楽の流れが止まってしまう。第1415変奏のトロンボーンもテンポ感がなくなり次へのつながりが停滞、指揮の田中は続く16変奏のシャコンヌ主題の再現でテンポを速めもとに戻すというようにこの楽章の流れはスムーズではなかった。コーダは重くならず一気に決めた。
14型のオーケストラで、ホルンはまずまずの出来。ヴァイオリン群はもうすこし豊かな響きがほしい。田中良和の指揮は全体に堅実なもの。


後半の川瀬賢太郎指揮東京音楽大学ソンフォニー・オーケストラによるR.シュトラウスの「英雄の生涯」は、今回聴いた音楽大学オーケストラ・フェスティバル9公演のなかで、もっとも印象に残る演奏だった。
1部「英雄」での川瀬賢太郎の指揮はダイナミックなだけではなく、細やかな表現まで丁寧に描き分け、これが大学のオーケストラとは信じられない高度で充実した響きの演奏になっていた。
その演奏は颯爽とした若き英雄の登場を見事に表現したものであり、川瀬賢太郎の才能と指揮者としての統率力がいかんなく発揮された。学生たちも川瀬に応えて集中力のある演奏を展開した。
2部「英雄の敵」ではバンダのトランペットをはじめ、テューバや木管が見事。第3部「英雄の伴侶」のコンサートマスター、福田俊一郎のソロは切れ味のあるすばらしいもので、艶やかであるとともに、鋼の強さが出ていた。終演後川瀬賢太郎が真っ先に立たせたのも当然だろう。オーボエのソロもなかなかのもの。

逆に、力が余ったのか、熱演が過ぎたのか、第4部「英雄の戦い」はいくらなんでも打楽器群と金管が大きすぎたのではないだろうか。バランスが大きく崩れるとともに、音楽が安っぽくなってしまった。そのため、英雄の動機が再現する高揚感はとってつけたようになり音楽のつながりがこわれていた。

しかし、その後の第5部「英雄の業績」、第6部の「英雄の隠遁と成就」はバランスを失うことはなく、第6部の「英雄の隠遁と成就」での後半のホルンのソロはプロ顔負けのうまさで、終演後思わずブラヴォを叫ぶ。


川瀬賢太郎と東京音楽大学ソンフォニー・オーケストラは直前の定期公演でも「英雄の生涯」をとりあげており、充分に練習を積み重ねた成果が表れたものではあるが、今回の名演は川瀬賢太郎の指揮者としての能力の素晴らしさを聴く者の脳裏に刻み込む演奏であり、東京音楽大学ソンフォニー・オーケストラの川瀬に対する信頼と結びつきの強さを表した稀有な名演といえるだろう。