【乱読NO.3482】「生き抜くための数学入門」新井紀子(著)/100%ORANGE(装画・挿画 | D.GRAY-MANの趣味ブログ

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[ 内容 ]
ヘンなことばっかのこの世界で、しゃきっと立っていたい。
だったら、数学だ。
根本から問いなおす。
クリアに整理する。
ねばって方法を探し出す。真っ向からの数学体験は、人生というバトルフィールドを行く君の力に、きっとなるから。
公式丸暗記でやりすごし、試験が終わればさようなら…なんて、もったいない。

[ 目次 ]
そもそも、それってなーに?
かけ算を宇宙人に教えよう
数学的な構えをチェック
俳句の可能性は無限大か?
億万長者になる方法
国語と数学のふかい関係
数直線は変な線
四角形って何だっけ
ゲームを定義する
かけ算の筆算はなぜ正しい?
累乗のこわさとおもしろさ
あんなグラフ、こんなグラフ、どんなグラフ?
計算できない関数
みんなだいっきらいな三角関数
博士の愛した数式に挑戦!
数学があきらかにするもの

[ 問題提起 ]
名著である。

「よりみちパン!セ」シリーズは基本的に中高生がターゲットだし(だから難しい漢字にはルビが振られている)、もちろん中学生の息子にも読ませたいと思ったが、大人が読んでも面白い。

いやむしろ、学校で習った数学が実生活にまったく生かされていないと嘆いているような大人にこそ読んで欲しい。

現代において騙されずに生きるために不可欠な論理的推論を学ぶという意味で、佐藤俊哉の『宇宙怪人しまりす 医療統計を学ぶ』(岩波書店)の前段階で、万人にとっての必読書である。

逆に、数学そのものの面白さに目覚めてしまったら、本書の次には、結城浩『数学ガール』がお勧めである。

扉にある漫画で、ロックな豚が「アイドントラブ~数学~、微分~積分~何になる~、それより自由が欲しいんだ!!」とシャウトするのに対抗して、著者が「ちがう! 自由に生きるために数学をやるのよ!!」と叫ぶのがいい。

そこから「授業の前に」として、著者は、自分は学校の算数も数学も好きな科目ではなかったけれども今では数学者になっていて、どうしてこういう本まで書くのかというと、「学校の数学に変わってもらいたい」「数学のための数学じゃなくて、芸術のための数学でもなくて、子どもがハッピーな大人になるために学校でどうしても習う必要があるような数学になろうよ」と説き起こす。

続いて「円周率とは何?」という問題に答えられない人が多いことを示して、『日本人は、どうも「とは」と「なぜ」の力を、学校でも社会でもちゃんときたえていないらしい。』から、本書によって、「とは」力と「なぜ」力をつけることが目標だという。

するっと入ってくる導入部である。

[ 結論 ]
次に連続講義形式の「もくじ」がある。

1回めの授業 かけ算を宇宙人に教えよう

2回めの授業 数学的な構えをチェック

3回めの授業 俳句の可能性は無限大か?

4回めの授業 億万長者になる方法

5回めの授業 国語と数学のふかい関係

6回めの授業 数直線は変な線(前編)

7回めの授業 数直線は変な線(後編)

8回めの授業 四角形って何だっけ

9回めの授業 ゲームを定義する

10回めの授業 かけ算の筆算はなぜ正しい?

11回めの授業 累乗のこわさとおもしろさ

12回めの授業 あんなグラフ,こんなグラフ,どんなグラフ?

13回めの授業 計算できない関数

14回めの授業 みんなだいっきらいな三角関数(前編)

15回めの授業 みんなだいっきらいな三角関数(後編)

16回めの授業 博士の愛した数式に挑戦!

最後の授業

数学があきらかにするもの

掛け算を宇宙人に教えるには?とか、「数学的な構え」を身に付けるとか(10個のチェックリストが笑える)、国語力の大事さとかいった設問の立て方が素敵だ。

通奏低音として風刺が利いているのもいい。

例えば、p.145の「じつは、21世紀に生きる私たちは、究極のわからずやといっしょに生きていかねばならないのです。その相手は、まちがいは起こさないのに、融通がきかなくて、人の気持ちをまったく理解しません。だれだかわかるかな?」に対して、ロックな豚が「うーん。ブッシュ?」とボケるのもいいし、ガリベン君が「ちがうよ。彼は年中まちがいを起こすからね。」とツッコミを入れるのもいい。

もちろん、「それは,コンピュータなのです」というのが答えで、アルゴリズムの必要性を説くのに無理のない導入になっていて見事だ。

惜しむらくは誤植が散見されたことか。

とくに中学生が読むことを考えたら、もう少し丁寧に校正して欲しかった。

気づいた誤植を以下にまとめておく。

p.88、L.10~11
(誤)では、今回も次回もはずれてしまう、つまり2度続けて2億円が当たる確率はいくつでしょう?

(正)では、今回も次回も当たってしまう、つまり2度続けて2億円が当たる確率はいくつでしょう?

p.97、L.2(枠内)

(誤)100÷14 270÷200

(正)100÷14 270÷200 274÷4

p.98、L.9

(誤)272÷4

(正)274÷4

p.115、 枠内

算数の教科書からの引用で、「ア、イ、ウのめもりが表す数を書きましょう」とあるのに、数直線上に「ア、イ、ウ」の記号がない。

p.235、L.5とL.12

(誤)イギリス

(正)イングランド

p.246、L.1

n乗根の中のaの書体が違っている。

なお、本書は、いろいろなテーマについて、数学の考え方をとても丁寧に説明しているのだが、内容によっては計算過程をまったく説明しないところもある。

例えば、p.83-84の「実際に6回さいころをふって、ちょうど1回だけ1の目が出る確率はつぎのどれだと思いますか? (1)100%、(2)90%くらい、(3)70%くらい、(4)60%くらい、(5)40%くらい」の答えが(5)であることについては、計算の仕方を省略している。

「ちょうど1回だけ1の目が出る確率」は「6回中の1回は1の目という確率1/6の現象が起こって、残り5回は1以外の目という確率5/6の現象が起こる確率」ということで、6回中の何回目に1の目が出たかで6通りの場合があるので、計算は6×(1/6)×(5/6)^5となる。

これを計算すると約0.4となる。

「6回中最低1回は1の目が出る確率」も説明なく約67%と答えを出しているが、これはその次に宝くじの例で説明されている考え方を使えば「1から,6回中1回も1の目が出ない確率を引いたもの」とわかるので、1-(5/6)^6で、約0.67となる。

簡単な計算なので解説してもよかったように思う。

p.208の開平法も筆算の例が1つ紹介されているだけで、アルゴリズムも論理も説明がない。

p.211-215で紹介されるニュートン法も、接線の式を出すために微分を使っているわけだが具体的な微分の仕方は説明されない。

三角関数のところではいきなりラディアン単位で説明されるが、今の学校教育では度でなくていきなりラディアンなんだろうか?

もしそうでないとしたら、180度=πから変換するようにという説明がないと中高生の読者は混乱するかもしれない。

[ コメント ]
もっとも、この程度は自分でなぜだろうと考えて自力で解いて欲しいということなのかもしれない。

それくらい自分で自分の頭を使いたくなったらしめたもので、本書の目的は達成されたといえよう。

だからまあ、ちょうどいい程度の説明だともいえる。

そういった意味で、やはり本書は名著と言わざるを得ないのだ。

[ 読了した日 ]
2010年2月12日