【乱読NO.2755】「縄文の思考」小林達雄(著)(ちくま新書) | D.GRAY-MANの趣味ブログ

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[ 内容 ]
縄文土器を眺めると、口縁には大仰な突起があり、胴が細く、くびれたりする。
なぜ、縄文人は容器としてはきわめて使い勝手の悪いデザインを造り続けたのか?
本書では土器、土偶のほか、環状列石や三内丸山の六本柱等の「記念物」から縄文人の世界観をよみとり、そのゆたかな精神世界をあますところなく伝える。
丹念な実証研究に基づきつつ、つねに考古学に新しい地平を切り拓いてきた著者による、縄文考古学の集大成。

[ 目次 ]
日本列島最古の遺跡
縄文革命
ヤキモノ世界の中の縄文土器
煮炊き用土器の効果
定住生活
人間宣言
住居と居住空間
居住空間の聖性
炉辺の語りから神話へ
縄文人と動物
交易
交易の縄文流儀
記念物の造営
縄文人の右と左
縄文人、山を仰ぎ、山に登る

[ 問題提起 ]
考古学資料から縄文時代の豊かな精神世界の形成を説明していく。

素材を割ったり削ったり磨いたりして最終的な形態をつくりだす「引き算型造形」から、素材を継ぎ足してつくる「足し算型造形」になったのというのが縄文土器の特徴だそうだ。

岡本太郎がその美を再評価した火焔土器や土偶の造形は、モノの出し入れの邪魔になる不要な突起に満ちており、無駄の塊である。

この無駄こそ精神性の高さであり文化の発現だった。

縄文の精神世界の急速な発達は何に起因するものなのか。

著者は壁や屋根のある閉鎖的な居住空間(イエ)やその中で家族が囲んだ炉が大きな役割を果たしたのではないかと論じている。

「壁で四周を囲まれて閉じられた住居は、縄文人が創り出した縄文人独自の空間である。その性質は他のいかなるものとも画然と区別され、固有の装置によって象徴的意味をもたらした。聖性を備え、家族の身と心を安堵させるイエ観念をはっきりと意識させたのだ。」

[ 結論 ]
自らの技術が作り出した居住環境のフィードバックを受けて、精神のあり方が変わっていく。

イエ(閉鎖居住空間)、ムラ(生活の根拠地)、ノラ(農地)、ハラ(周囲の自然)、ヤマなど、わかりやすい言葉で、縄文時代の精神世界が説明されている。

「火を囲んでただ座っているとお互いに息苦しくもなるから、場をなごますためにあれこれおしゃべりが口をついて出るようになり、そこから団らんというものが生じた」

この団らんの中でその日の現実に起こった体験を語るようになる。

毎日の飽きを克服するため、話を大げさにしたり他人の話を借りて膨らませたりするところから物語が発生する。

個人の物語が蓄積されて共有されムラの共同幻想としての抽象的世界が形作られる。代々語り継がれた物語はやがて伝説・神話となっていった。

環境の大きな変わり目という点では現代はネットの縄文時代かもしれない。

私たちはインターネットという仮想環境の中で長い時間を過ごすようになっている。

仮想空間、情報空間の中での過ごし方にも新しいタイプの団らんがあるし(チャットやTwitterなどがそうだ)、独特の話し方が生まれてきている。

[ コメント ]
ネット時代も新たな伝説や神話を発展させ人類の精神性を進化させたりすることもあるのだろうか。

[ 読了した日 ]
2009年9月16日