Right!
Now
行くぜ
今だ
I Am An Antichrist
I Am An Anarchist
俺は反キリスト
俺は反権威主義者
Don't Know What I Want
But I Know How To Get It
I Wanna Destroy Passerby
何を求めているのか分からないが
手にする方法なら分かってる
道行く奴らをぶっ潰したい
'Cause I Wanna Be Anarchy
No Dogsbody
何故なら俺は無秩序でありたいから
尻尾なんか振るかよ
Anarchy For The U.K.
It's Coming Sometime And Maybe
I Give A Wrong Time, Stop A Traffic Line
Your Future Dream Is A Shopping Scheme
イギリスに大混乱を
そんな時がいずれきっとやってくる
時間を狂わせて交通を止めてやる
買い物さえ夢の話になる将来
'Cause I, I Wanna Be Anarchy
In The City
何故なら俺は無秩序でありたいから
この街で
How Many Ways To Get What You Want
望みを叶える手段は一体どれだけあるのか
I Use The Best
I Use The Rest
I Use The Enemy (NME)
I Use Anarchy
俺は一番の手段を使うぜ
残された手段も
敵だって利用してやる
滅茶苦茶な状況もな
'Cause I Wanna Be Anarchy
It's The Only Way To Be
何故なら俺は無秩序でありたいから
それしかない
Is This The MPLA?
Or Is This The UDA?
Or Is This The IRA?
これはMPLA (アンゴラ解放人民運動) か
それともUDA (アルスター防衛同盟) か
あるいはIRA (アイルランド共和軍) か
I Thought It Was The U.K.
Or Just Another Country
Another Council Tenancy
U.K. (イギリス) そのものだろうが
それかまったく別の国か
別のカウンシルテナント (公営住宅) か
I Wanna Be Anarchy
And I Wanna Be Anarchy
Know What I Mean
And I Wanna Be Anarchist
俺は無秩序でありたい
何からも支配されないでいたい
分かるか
俺は反権威主義者でありたい
I Get Pissed, Destroy
酒にまみれて
ぶっ壊してやるぜ
Anarchy In The U.K. By Sex Pistols
Released In 1976
Written By John Lydon / Steve Jones / Glen Matlock / Paul Cook
●歌と訳について
今回はSex Pistolsの「Anarchy In The U.K.」を和訳(私訳)しました。
この曲も、どのように解釈するかで訳が異なってくる詞がそれなりにあると思います。
そのため、今回も、自分が何故そのように訳したか、順を追って書いていこうと思います。
第一に、
Right!
Now
ですが、ここは曲の雰囲気やイメージを考慮して
行くぜ
今だ
と訳してみました。
第二に、
I Am An Antichrist
I Am An Anarchist
ですが、1行目は特に悩むことなく訳しましたが、2行目の訳に悩みました。
「anarchist」を辞書で調べると、「無政府主義者」「無政府主義を支持する人」「アナーキスト(そのままだな)」といった言葉が出てきます。
そこで、最初はそのまま
俺は無政府主義者
と訳そうかとも思いましたが、「無政府主義(アナキズム)」について、もっとよく調べてみることにしました。
すると、訳す上で参考になる情報がいくつか見つかったので、要約したものを少し箇条書きしていこうと思います。
アナキスト、アナーキーもありますが、まずはアナキズムについてです。
・アナキズムとは、支配されない状態を目指す考え方である。
・アナキズムは、元はギリシャ語からきていて、支配や権威、根拠がないことを意味している。「無支配」「反権威」「無根拠」ということだ。
・アナキズムは、「無政府主義」と訳されることもあるが、政府だけを批判するわけではない。
・アナキズムは、「人間の人間に対する一切の強制的権威を否認する思想的系譜」であるとするような定義がより適切である。
・アナキズムは、あらゆる権力・君主・支配・ヒエラルキーを否定し、それらを解消しようとする社会・政治思想をまとめたものである。
次に、アナキストについてです。
・アナキストは、反権威主義者である。誰も他者を支配するべきではないと信じているからだ。
・アナキストは、ルールを破ることや秩序を壊すことを好む人を指す場合もある。
最後に、アナーキーについてです。
・アナーキーとは、「無政府状態」「無秩序」「混乱」のことである。
・アナーキーとは、本来、「権威に基づく統治の体制が存在しない」という意味である。
・アナーキーは、「支配者がいない」、もしくは「権力がない」という意味であり、この意味でアナキストはこの言葉を使い続けてきた。
・アナーキーは、「秩序や秩序を保つ権威から自由であること」を指す場合もある。
・アナーキーは、秩序を守らずルールを無視した行動をする人のことを指す場合もある。
簡単ではありますが、ざっとこんな感じです。
これらを参考に、自分の「anarchist」の訳の候補は、一般的な「無政府主義者」、他の人の和訳サイト載っていた「反体制主義者」の他に、「反権威主義者」も加え、この中から考えていくことにしました。
まず、
I Am An Antichrist
の訳は、
俺は反キリスト
とすることにほぼ決めていたので、
I Am An Anarchist
の訳も、反から始まる「反体制主義者」か「反権威主義者」がいいと考えました(そんな絞り方かよ)。
自分は「無政府主義者」でもいいと思っていますが(やはり辞書にもそう載っているので)、あらゆる権力や支配からの脱却を目指す、人間の人間に対する権威を認めないという意味では「反権威主義者」もいいかなと思っていて、「反体制主義者」とは迷いましたが、結局
俺は反権威主義者
と訳しました。
・アナキストは、反権威主義者である。誰も他者を支配するべきではないと信じているからだ。
という一文が強く印象に残っていました。
ちなみに、「anarchist」の意味に、「暴力的破壊者」「暴力革命家」を載せている辞書もありましたが、今回それらの訳は見送りました。
第三の、
Don't Know What I Want
But I Know How To Get It
I Wanna Destroy Passerby
は、ほぼそのままの意味で通過します。
第四に、
'Cause I Wanna Be Anarchy
No Dogsbody
ですが、1行目をどう訳すか迷いました。
先ほど箇条書きしたことも踏まえ、自分は
何故なら俺は無秩序でありたいから
と訳しましたが、これは「秩序を守らず滅茶苦茶でありたい」と「秩序や秩序を保つ権威から自由でありたい」という二つの意味を一言で表現するもりで書きました。
「無秩序になりたい」ではなく「無秩序でありたい」としたのは、後者の方が語感が良く、曲の雰囲気やイメージにも合うと感じたためです。
2行目は、「dogsbody」が「下働き」「下っ端」「雑用係」という意味で、
下っ端じゃないんだぜ
下っ端でたまるか
辺りにしようと思っていましたが、ここは前から、少し意訳した
尻尾なんか振るかよ
もいいかなと思っていて、悩んだ末、そう訳すことにしました。
第五に、
Anarchy For The U.K.
It's Coming Sometime And Maybe
I Give A Wrong Time, Stop A Traffic Line
Your Future Dream Is A Shopping Scheme
ですが、ここは4行目を少し工夫して
買い物さえ夢の話になる将来
と訳しました。
3行目までのようなことが現実になれば、人々は安心して出歩くことすらできなくなり、買い物を計画することくらいが将来の夢になるといったイメージで訳しました。
第六に、
'Cause I, I Wanna Be Anarchy
In The City
ですが、ここの1行目も先程と同じく
何故なら俺は無秩序でありたいから
と訳しました。
第七の、
How Many Ways To Get What You Want
は、ほぼそのままの意味で通過します。
第八の、
I Use The Best
I Use The Rest
I Use The Enemy (NME)
I Use Anarchy
ですが、ここもほぼそのままの意味で訳しました。
3行目は、「Enemy(敵)」と「NME(イギリスの週刊音楽雑誌)」が掛詞になっていて、どちらで表記しようか迷いましたが、結局どちらも書くことにしました。
訳は、「Enemy」を採って
敵だって利用してやる
としましたが、「NME」の方で訳すなら
メディアだって利用してやる
という感じにしていたと思います。
第九の、
'Cause I Wanna Be Anarchy
It's The Only Way To Be
は、1行目はこれまでの訳、2行目は
それしかない
と訳しました。
第十に、
Is This The MPLA?
Or Is This The UDA?
Or Is This The IRA?
ですが、調べると、「MPLA」は「アンゴラ解放人民運動」、「UDA」は「アルスター防衛同盟」、「IRA」は「アイルランド共和軍」という、過去に内戦やテロを行っていた組織のことのようで、その通りに訳しました。
英語版Wikipediaには、これらの略語は1970年代の主な内戦の引用で、イギリスで起こり得ることを示唆している、といった感じの記述があります。
また、ロシア語版Wikipediaには、詞中でイギリスは当時存在していた過激派組織と比較されている、といった感じの記述があります。
第十一に(今更ながら多いな)、
I Thought It Was The U.K.
Or Just Another Country
Another Council Tenancy
ですが、ここが訳に最も悩んだところです。
英詞そのものはシンプルですが、前後の繋がりや曲の背景、その国特有の表現などを意識しないと訳しにくいと思います。
「Alternatives to State-Socialism in Britain」という本には、前の節からこの節にかけて、イギリスの本質に疑問を投げ掛けていると書いてありました。
1行目を直訳すると、
イギリスだと思った
という感じだと思いますが、前の節からの流れを意識すると、MPLA、UDA、IRAなどといった過激派組織に思えてしまうほどU.K.(政府)はひどいということかもしれません。
また、前の節の「これはMPLAか」を「ここはMPLAか」と訳すと、「(ここは)U.K.だと思ってた」というように、皮肉っぽいニュアンスを強調して訳すこともできると思います。
自分は洋楽の歌詞を訳す時、外国人が歌詞の意味について議論するサイト「SongMeanings」を読んで解釈の参考にすることがありますが、前の節は、体制に対するパンクの「闘争」を、「解放」と「抵抗」の戦争になぞらえている、と書いている人がいました。
そのように考えると、これまでの自分達の過激な言動をテロ組織にたとえて、それを「U.K.の(やってきたような)ことだろうが」と捉えることもできそうです。
他にも、あるサイトには、前の節からこの節にかけて2つの意味が込められていると書かれていて、1つ目は、政府への嫌悪によってアナキストグループがいかに増加しているかについて、2つ目は、彼らがそれら(MPLAなど)のステップに従っているように見えるため、この先イギリスで起こり得ることについて言っていると書かれていました。英語版Wikipediaとほぼ同じ見方です。
これらを踏まえ、自分としては、「(ここは)U.K.だったはずだろ」とか「U.K.のことだろうが」と訳したい気持ちもありますが、ある程度どの解釈にも対応できる
U.K. (イギリス) そのものだろうが
と訳すことにしました。
U.K. (イギリス) だろうが
と迷いましたが、上の訳の方が詞のリズムに噛み合うと思えたことから、こちらを採用しました。
こうすると、MPLA、UDA、IRAなどといった過激派組織に思えてしまうほどU.K.はひどいという意味でも、自分達の過激な言動をテロ組織にたとえて、それをU.K.のやってきたようなことだろうがという意味でも捉えることができると思います。また、この先イギリスで起こり得ることの示唆としても受け取ることができると思います。
加えて、ここはU.K.だと思っていた、というニュアンスも込めたつもりです。U.K.そのものだろうが(U.K.だったはずだろ)という感じです。
ちなみに、MPLA、UDA、IRA、U.K.と、どれも略称ですが、これは韻を踏むと同時に、もはやU.K.は単なる頭文字の一つに過ぎない(ほど落ちぶれた)というニュアンスもあると言っている外国人もそこそこいました。「Making Thatchers Britain」という本にもそのようなことが書いてあります。それが、
Or Just Another Country
に表れているのかもしれません。この頃のイギリスは、いわゆる「英国病」と呼ばれた状況にあり、オイルショックの影響もあって、経済力が低下、物価の上昇が起き、長引く不景気と失業者の増加、ストライキなどにより、人々の不満や社会不安が高まっていました。その中で、人種差別や宗教間の対立も深まっていました。
「SongMeanings」や「Genius」によると、この箇所は、イギリスが「別の国」になった(成り下がった)ため、もはやイギリス人であることを誇りに思うことは何もないということを示唆しているとか、イギリスでの生活は当時の若者にとってどれほどひどいものになったのか、自分達は別の国に住んでいるのか、といったニュアンスがあるようです。
先程の訳に「ここはU.K.だと思ってた」というニュアンスも込めたつもりと書きましたが、それを受けるとしたら「(U.K.だと思っていたら)まったく別の国だった」「(U.K.だったはずなのに)まったく別の国なのか」といった感じでしょうか。
そして、3行目の
Another Council Tenancy
ですが、「Council Tenancy」はイギリスで「公営住宅」を意味するようで、経済的、社会的に苦しい人の溜まり場というか吹き溜まりというか、そういったことを住宅の観点から言及したのかもしれません。
公営住宅とは、政府が貧困層向けに賃貸する住宅のことです。「Council Estate」「Council Flat」「Council House」などとも呼ばれ、地方自治体(カウンシル)が管理している低所得者向けの公共住宅、公営団地を指します。
「SongMeanings」には、見込みのない若者のほとんどは、公営住宅、衰退し投資不足の地域に住んでいたと書いてありました。
イギリス全体がそういったものに思えるほど廃れてしまっているとか、一つになっていない国を有象無象の暮らす活気のない建物に見立てたとか(当時の公営住宅は苦しい暮らしを象徴するようなものではなかったと言っている人もいましたが)、あるいは単に韻を踏んだとか語呂の問題とか、そういった感じなのかもしれません。
また、少し上の方でも書いた「Alternatives to State-Socialism in Britain」という本には、後のサッチャー政権における公営住宅に関する政策についても書かれていて、その観点からの解釈も書いてありました。
訳は、日本語で公営住宅とすると曲の雰囲気やイメージに合わないと思っていたので、ここは大きく意訳することも考えましたが、「Council Tenancy」がイギリスで「公営住宅」を意味することがおそらくあまり知られていないこと、さらにそれを意訳すると意味が分からなくなってしまうかもしれないと思ったことから、公営住宅という言葉はあえてそのまま使うことにしました。
しかし、本当にそのまま
別の公営住宅か
としてしまうと、やはりどうしても不自然な感じというか、直訳感が出てしまうと思い、ここは「カウンシルテナント」という言葉を使い、括弧内に公営住宅と表記することにしました。
第十二に、
I Wanna Be Anarchy
And I Wanna Be Anarchy
Know What I Mean
And I Wanna Be Anarchist
ですが、2行目は、アナーキーには「権威に基づく統治の体制が存在しない」「秩序や秩序を保つ権威から自由であること」「支配者がいない」「権力がない」などといった意味があるということから、
何からも支配されないでいたい
と訳しました。
1行目と4行目はこれまでの訳、3行目はほぼそのままの意味で訳しました。
ちなみに、3行目は
Oh What A Name
と表記されている歌詞サイトも結構ありました。
最後に、
I Get Pissed, Destroy
ですが、「Get Pissed」には「頭にくる」「腹が立つ」という意味がありますが、イギリスでは「酔っ払う」という意味で使われるようで、「Council Tenancy」をイギリスでの意味で訳したように、ここもイギリス英語として訳すことにしました。
ただ、曲の雰囲気やイメージに合うのは「頭にくる」「腹が立つ」の方だと思っていたので、どちらの意味で訳すかかなり迷ったところです。
しかし、「SongMeanings」にも似たようなことが書いてありましたが、酔っ払うということは、自分を解放することを意味すると思います。飲酒は、抑圧された感情を解放するための手段です。
そのように考えると、我を忘れて、自制心をなくして、理性を失って、欲望のままに、などといった感じで解釈することもできると思います。
そう捉えると、曲の雰囲気やイメージにも合い、おまけに「頭にくる」「腹が立つ」の意味からも離れすぎない言葉で訳すことができると思いました。もしかしたら、「Enemy」と「NME」のように、ここも掛詞というか、ダブルミーニングを狙って書かれているのかもしれません。
以上のことと、そのまま「酔っ払って」だと、日本語として何となく間の抜けた感じというか、締まりがない感じがすると思ったことから、自分は
酒にまみれて
ぶっ壊してやるぜ
と訳すことにしました。
「酔いどれて」も候補の一つでしたが、「酒にまみれて」の方が言葉の続き具合が良く思えたことから、こちらを採用しました。
また、「(酒に)潰れて」という意味で
ぶっ潰れて
ぶっ潰してやるぜ
とか、
酔い潰れて
ぶっ潰してやるぜ
でも面白いかなとも思いましたが、やめておきました。
長くなりましたが、こういった感じで全文を訳していきました。
当時のイギリスの社会的、経済的、政治的状況は、理想的ではありませんでした。
そんな中での「Anarchy」は、彼らにとって何かを変えられる可能性のあった唯一の手段であり、また、究極の自己統治、独立宣言でもあったのかもしれません。
●単語や慣用句の意味
①anarchy=無政府状態、(政府の不在による)政治的混乱、(一般的な)混乱、無秩序
②U.K.=グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国(イギリス)
③right now=今すぐに、たった今、現時点では
④antichrist=反キリスト、キリスト反対者
⑤anarchist=無政府主義者、暴力的破壊者、暴力革命家
⑥destroy=破壊する、駄目にする
⑦passerby=通行人、通り掛かりの人
⑧dogsbody=下働き、下っ端、雑用係
⑨sometime=いつか、そのうち
⑩traffic line=動線、人または物の動く流れ
⑪scheme=計画、構想
⑫way=道、かなり、方法、手段
⑬rest=休息、停止、残り
⑭enemy=敵
⑮NME=ニュー・ミュージカル・エクスプレス(イギリスの週刊音楽雑誌)の略称
⑯MPLA=アンゴラ解放人民運動
⑰UDA=アルスター防衛同盟
⑱IRA=アイルランド共和軍
⑲council tenancy=貧困層向けの公営住宅
⑳get pissed=頭にくる、腹が立つ、酔っ払う