久しぶりに通常のブログ再開です。1ヶ月半に渡って更新しました女子戦記シリーズですが、思ったほど読む方も少なく、それでもロシアのサイトやYouTube動画など、あらゆる資料を調べて書き上げた満足感はあります。まるで神話のようなこのシリーズでしたが、もちろん読む方によって賛否両論があるでしょう。特に女子高射砲連隊の話は異なる2つの説があって、私の持っている独ソ戦の本には先鋒の装甲部隊が全く抵抗を受けずに敵砲兵を撃退と書かれていました。現場に着いてみると高射砲を地上軍に対してどう扱っていいのか解らない十代の少女兵達が戦死していた・・、というのです。ところが第16装甲師団が大損害を出して司令官が更迭されたというのは事実で、これはいろんな資料に共通して書いてありました。私の方はロシアの赤軍系アーカブスサイトと欧米の動画でこの連隊の活躍ぶりを確認しました。また映画化もされていましたので、ドイツ軍戦車83両撃破というのが事実、と解釈しました。戦場での白兵戦では大柄な正規軍の男性兵士と小柄な女子兵士では差があるのは当たり前ですが、彼女達も強力な武器を手にすれば男性と同等以上に活躍した、というのは事実でしょう。スターリングラード戦では30万人以上のドイツ兵が戦死しました。女子戦闘機パイロット達も数千回の出撃での撃墜戦果は38機(殆どが輸送機か爆撃機)と少なかったのですが、地上軍への機銃掃射で相当な数の車両を破壊し1万人以上のドイツ軍兵士を殺傷していたようです。当時は女性兵士が大変珍しい存在でしたが、現代では当たり前のように戦闘部隊に配置されている訳ですから、男女同等も随分進んだものです。戦闘場面などの記述の中で女子兵士達の口調を、現代の日本の女子の口調に置き換えてみました。少しリアルな感じがでるかなと思いました。「ウラ―!(直訳で万歳)」を「イェ~!」とか「マラディエッツ(直訳でよくやった!)」を「やったね!」などいささか間の抜けた感じになってしまっていたらそのあたりはご容赦下さい。こうした現場でのやり取りなどは、かなり詳しく調べていくと本人や同僚の回想録などの引用から引っ張り出す事もできました。ただしそういう資料がない場合は推測で書かせて頂いた部分もあります。80年前のヒロインものということでお楽しみ頂ければと思います。

さて、明日からはウクライナ支援の進捗状況など書きたいと思います。

     3月14日から始まりました、今回のシリーズも最終回となります。

残念ながらPVは毎度20程ですので誰にも読まれていないと思いつつ、殆ど自己満足でここまでやってきました。

思い起こせば、今シリーズに登場してきた女子兵士達はウクライナの方が多く、あのパブリチェンコさんもキイフ出身でした。

ウクライナ軍には現用の凄腕女性狙撃手がいるそうで、2014年から東部での内戦に参戦し数多くのロシア兵を殺害してきたとのことで、42歳の美しい大人の女性です。

現代にもそんな人がいるんだと思いました。

ウクライナのオデッサやセヴァストポリはソ連軍とドイツ軍の間で熾烈な戦闘があった場所です。

ソ連側にとっては撤退させられた負け戦なのですが、そんな中でパブリチェンコさんは500名以上の(未確認含む)ドイツ兵を殺害し一躍有名になりました。

今日ご紹介するのは、そんな名狙撃手のパブリチェンコさんに負けないどころか、彼女以上の損害をドイツ軍に与えた20歳の少女機関銃射手ニーナ・アニロワさんです。

 

1921年4月10日、ニーナはオデッサ州の素朴なウクライナの農民の家に生まれました。

幼い頃、父親を亡くしたニーナは孤児院で育ちます。

そして、オデッサの夜間中学と職業訓練校を出てオソアヴィアキムの射撃クラブで勉強しました。

クラブの代表である元赤軍の指揮官は彼女の武器選びに驚くばかりでした。

 

「ライフルじゃなくて、わたしは機関銃が撃ちたいのよ!」

しかし、機関銃兵は大きな機銃本体や弾薬、銃身に冷却用の水などを運ばなければならず、とても女子には無理だったのです。

「わたしにはできる!」

ニーナはそう確信していました。

「それに、“チャパーエフ”という映画に出てくるマシンガンのアンカはどうなの?」

「彼女も女の子じゃない?」

実は、彼女は1934年に作られたロシアの内戦を描いた映画作品のヒロインにとても憧れていたのです。

このアンカというヒロインの少女は赤軍の機関銃手で、隊列を組んで進軍してくる白軍の兵士をマキシム機関銃でバタバタと薙ぎ倒して大活躍するという描写が出てきます。

ニーナはそんなアンカのような機関銃手に自分もなりたいと強く感じていたのです。

しかし、劇中のアンカのように撃てば、戦闘開始5分でマシンガンが使えなくなります。

オーバーヒートしてジャムる・・・、という訳です。

所詮は映画なのですから現実とは程遠い設定になっているのです。

ところが、ニーナは本物の機関銃の撃ち方を教えてほしい、と軍事教官にしつこく懇願するのでした。

このシリーズに登場してきた多くの女子兵士達はナチスへの恨みや憎しみ、怒りを抱えて従軍していましたが、

ニーナはそんな女子達とは違って、ヒロインへの願望が非常に強かったのです。

1940年に戦争が始まると彼女は早速赤軍への入隊を志願しました。

1941年の8月にニーナは前線に赴きます。

元々彼女は第25狙撃兵師団の第54砲兵連隊で衛生兵として配属されていました。

「わたしは、機関銃が操作できます!」

「わたしはナチスを大勢撃ち殺したいんです!」

上官に懇願する彼女でした。

指揮官にオソアヴィアキムでの訓練の事を伝えると、試しに機関銃射手として初任務に就くことになったのです。

これでニーナは映画の中でアンカが所属していたチャパーエフ師団の機関銃手として敵と実際に闘う念願が叶ったのです。

 

オデッサでの防衛ラインでの塹壕戦。

彼女の初戦は夜でした。

“ヴォーン!”

“ヴォーン!”

「敵の迫撃砲が着弾し始めたわ。」

「きっと、やつらの攻撃はすぐに始まるわ。」

「いよいよわたしの出番だわ。」

「今日は思いっきり暴れてやるんだから。」

彼女が胸に秘めた闘志は並々ならぬものがありました。

暗闇の中、ドイツ軍歩兵部隊が隊列を組んで前進してきます。

「まだよ、まだまだ・・。」

「もっと近づいてきなさいよ。」

指揮官からはとっくに射撃命令が出ていました。

ところが、彼女は射撃を始めようとはせずに、じっと待っているのでした。

「もっと、引き付けなきゃ。」

「ニーナ!早く撃て!」

同僚の男性兵士が彼女に怒鳴ります。

しかし、全く動じない彼女。

たまりかねた老兵の1人が彼女の所に行こうとします。

ドイツ兵達との距離が数十メートルに近づいた瞬間でした。

「今だわ!」

「それ~!」

“ドドドドドドドドドドドドドッ!”

凄まじい勢いでニーナのマキシム機関銃が火を噴きます。

「え~い!」

“ドドドドドドドドドドドドドッ!”

漆黒の闇にオレンジ色の鋭いラインが切れ目なく突き抜け、すぐ前方の一団に向かって吸い込まれていきます。

いきなり始まったニーナの射撃ショーに逃げ場のないドイツ兵達は折り重なるようにバタバタと倒れていきます。

「それっ、皆殺し~!」

“ドドドドドドドドドドドドドッ!”

実際には数分だったのでしょう、ドイツ軍部隊を全滅させるのに要した時間は僅かでした。

沈黙と共に夜が明けると、そこは累々と横たわるドイツ軍兵士達の死体で埋め尽くされていました。

ニーナは満足そうな笑みを浮かべながら戦友達に言いました。

「これはわたしにとって、ほんの始まりだわ。」

「こんなの、まだ序の口よ!」

彼女の射線の中に散らばっているドイツ兵の死体の数は48名でした。

初めての戦闘でドイツ兵を山のように殺した彼女はすぐにオデッサの街で一躍有名になりました。

その後も彼女は・・・。

 

「まとめて撃ち殺してやる!」

「それ~!」

“ドドドドドドドドドドドドドッ!”

翌々日の戦闘でも彼女はドイツ軍の進撃を撃退します。

この時は約50名の敵がニーナの弾丸の犠牲になりました。

 

翌週には態勢を立て直したドイツ軍が再び攻撃を仕掛けてきます。

「面白い!まるで射的だわ!」

「ナチどもめ、食らいなさい!」

“ドドドドドドドドドドドドドッ!”

進軍してくるドイツ兵を30名程血祭りにあげると、彼女は塹壕から飛び出します。

彼女の銃弾を浴びて地面に這いつくばるドイツ兵達にトドメを刺しに行ったのです。

「トドメよ!」

“ババババッ!”

サブマシンガンで足元のドイツ兵に次々と短い連射を撃ち込む彼女。

情け容赦なく彼女の虐殺劇は続きます。

「楽にしてあげるわ。」

「ありがたく思いなさい!」

“ババババッ!”

「ほらほらっ!」

うつ伏せになっている兵士は足で踏み付けて確かめます。

「まだ、生きてるのかよ?」

更にブーツのつま先で顔を突いてみます。

少しでも動けば彼女は逃しませんでした。

「くたばれ、ケダモノめ!」

“バババッ!”

負傷して動けない兵士を十数名始末すると、足取りも軽く陣地に戻る彼女でした。

 

実は以前からニーナは上官から何度も注意を受けていました。

「ニーナ、もっと距離を保ってから射撃しなさい!」

「君には常に大きなリスクがあるんだ。」

「はい、同志上官殿。」

「わたしにはわたしのやり方があります。」

「できるだけ引き付けて皆殺し、」

「これがわたし流なんです。」

このニーナの“わたし流”はドイツ軍に大きな損害を与え続けました。

 

この当時の機関銃手の常識的な戦術は敵との距離を保って威嚇射撃を始めるのが鉄則でした。

できるだけ遠くに敵を釘づけにして弾幕を張って自軍の陣地に近づけないようにするのが彼らの役目だったのです。

また、機関銃手はその絶大な破壊力ゆえに真っ先に敵に狙われるリスクがありました。

接近してくる敵が近ければ手榴弾を投げ込まれるリスクが増大するのです。

更に、当時のマキシム機関銃は連射を続けるとジャムって停止してしまうリスクがありました。

大勢の敵を前に機関銃が沈黙することは自軍が全滅する危険性をはらんでいたのです。

しかし、ニーナの“わたし流”はそんな事はお構いなしにとにかく至近距離まで引き付けて敵を全滅させる事に執着していたのです。

その代わり、彼女の射撃は非常に正確でとにかく1人も逃さず射ち倒しました。

自軍側に引き返そうと逃げ出す敵を逃さず背中めがけて銃撃を加え撃ち殺していきました。

戦闘が終わった後に、敵の敗残兵や負傷兵を片付けるためにサブマシンガンで殺して歩くのも彼女の“わたし流”だったのです。

この彼女の常識外れの戦術は、多大な戦果を積み上げる結果となって、もはや上官も口出しできない状態になっていました。

ある時ニーナは町の住民達への講演を依頼されます。

ドイツ兵を大勢撃ち殺して有名になったクリミアの少女を一目見ようと多くの人々が集まりました。

 

「わたしは・・。」

「話をするのが、あまり得意ではありません。」

「でも機関銃を使ってドイツ人達と楽しくおしゃべりするのは得意なんです。」

「いつもわたし、おしゃべりし過ぎちゃうんです。」

「しかも、わたしの一方的なおしゃべりなんですよ。」

「ドイツ人達は沈黙したまま、わたしはおしゃべりを終えるんです。」

「すると、わたしの前には大勢のドイツ人達が横たわっていました。」

「今日もしゃべり過ぎちゃって、ホントごめんなさい!」

会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれます。

まだわずか20歳の少女がドイツ国防軍を相手に奮戦する姿は人々に勇気と希望を与えました。

このオデッサ防衛戦で彼女が殺害したドイツ兵はわずか2ヶ月の間に約350名に達していました。

そんな彼女にも上官が恐れていた事が起こります。

 

「わたしはアンカ!」

「かかって来なさい!」

“ドドドドドドドドドドドドドッ!”

今日もいきなり十数名のドイツ兵を薙ぎ倒して調子に乗る彼女。

すると・・

“ヴォーン!”

“ウッ!”

頭から出血してその場でうずくまる彼女。

敵兵の投げ込んだ手榴弾の破片がニーナの頭と耳を直撃したのです。

幸い命に別状はなく病院に運ばれたニーナ。

およそ1ヶ月間、戦列から離れることになりました。

 

1941年11月、部隊に復帰したニーナはセヴァストポリの防衛戦に参加します。

11月14日の朝、彼女は自軍塹壕内にいました。

ドイツ軍が戦車を先頭に彼女に向って進撃してくるのが見えました。

「戦車だわ。」

「どうしよう、わたしのマキシムでは歯が立たない。」

「まずは戦車をやっつけなきゃ。」

彼女の手元には対戦車手榴弾も無く、火炎瓶が2本あるだけでした。

前方の敵の様子を伺う彼女。

「何とか戦車に近づけないかしら。」

するとその時風向きが変わります。

先程の敵による砲撃で破壊された味方の砲兵陣地の火災の煙が辺り一面に立ち込め視界を遮ります。

「今だわ。」

「それっ、頑張れ、わたし!」

彼女は自分自身を鼓舞しながら火炎瓶をベルトに挟み込みサブマシンガンを手に塹壕内から這い出します。

慎重に這っていくと敵戦車の右側に窪地を見つけその中に転がり込みます。

見上げるとドイツ軍戦車のグレーの車体が見え、その背中には装甲擲弾兵が4名乗っていました。

勇気を振り絞って硝煙の中からいきなり立ち上がって戦車のエンジンルーム目掛けてモロトフカクテルを投げつける彼女。

「エイッ!」

「ソレッ!」

“ジュヴォッ!”

“ジュヴォッ!”

彼女の投げつけた火炎瓶は2つとも見事に命中します。

“ウぅ~!”

戦車に乗っていた擲弾兵達は炎に包まれて転がり落ちます。

火に包まれてもがき苦しむ4名のドイツ兵。

「いい気味だわ。」

「それっ、トドメよ。」

“ババババババッ!”

4人の敵兵をマシンガンで始末するニーナ。

更に戦車の中から戦車兵達が逃げ出し始めます。

「わたしと対面ね。」

「運が悪いこと。」

“バババッ!”

「お前もだ!」

“バババッ!”

「お次は?」

“バババッ!”

中から這い出してくるドイツ兵を数メートルの距離から狙い撃ちにして楽しむ彼女。

「もうこれで終わりかよ?」

“バババッ!”

最後の1人を撃ち殺すと足早に自軍塹壕内に戻る彼女。

「さあ、来るなら来なさい!」

「わたしが相手になってあげるわ。」

後方から進撃してきたドイツ軍歩兵部隊は戦車によってソ連軍陣地は粉砕されたものだと思っていたようです。

煙の中を数十人単位で固まって進軍してくるドイツ兵達がニーナの視界に入ってきました。

「もっと近づきなさい!」

「わたしの正義の銃弾を、たっぷりご馳走してあげるんだから。」

焼けただれた味方の戦車と無残に撃ち殺された味方の8名の死体を確認した時には既に遅かったのです。

ドイツ軍歩兵部隊は全員ニーナの射線に入っていました。

「いいこと。」

「始めるわよ!」

「ソレ~!」

“ドドドドドドドドドドドドドッ!”

マキシム機関銃の防護板の中央の覗き穴から見えるドイツ兵達はまるでダンスでも踊るように次々と薙ぎ倒されていきます。

「楽しい!」

「最高だわ!」

“ドドドドドドドドドドドドドッ!”

「ホラッ、もっと殺してやるよ!」

“ドドドドドドドドドドドドドッ!”

「この瞬間がたまらないわ!」

「ホラホラッ!」

「もっとわたしのおしゃべりを聞きなさい!」

“ドドドドドドドドドドドドドッ!”

先程彼女が破壊した戦車に当たって跳ね返った銃弾までもが哀れなドイツ兵達の体を撃ち抜いていきます。

「まだまだよ!」

「1人も生きて返さないからね。」

“ドドドドドドドドドドドドドッ!”

彼女のマキシムはジャムる事もなく快調にドイツ兵達を仕留めていきます。

逃げ出そうとするドイツ兵も逃しません。

「ほら、そこっ、逃げんじゃないわよ!」

“ドドドドドドドドドドドドドッ!”

背中から無残に撃ち抜かれて倒れる3名のドイツ兵。

「アッハッハ、やったね!」

もはや鬼畜となった20歳の少女は笑いながら虐殺を楽しみます。

「ふふふっ、頭吹っ飛ばすわよ!」

“ドドドドドドドドドドドドドッ!”

最後の連射が終わると辺りは静けさに包まれます。

彼女が撃ち殺しまくったドイツ兵の総数は120名に上りました。

わずかに銃口から煙を噴き上げるマキシム機関銃の射線内には無数に横たわるドイツ兵の死体で埋め尽くされていました。

「ホント、気分爽快!」

「わたし、まだ殺し足りないかも。」

山のように殺されたドイツ兵士達の死体の後方ではニーナによって破壊された戦車がまだくすぶり続けていました。

この日の多大なる戦果によって彼女は赤旗勲章を授与されました。

 

そして翌1942年2月27日、ニーナは数名の兵士達とドイツ軍の機関銃陣地の排除に向かいます。

ニーナ達の小隊は運悪くドイツ軍機関銃兵に見つかってしまい銃撃を受けます。

“ババババババババッ!”

2名の友軍兵が殺されニーナは森に一旦身を潜めます。

何とか敵の陣地に向かって迂回する彼女。

示し合わせた時間に逆方向に残った戦友が敵陣地に銃撃を加えます。

そちらの方に気を取られた瞬間に手榴弾を投げ込む彼女。

「エイッ!」

“ヴォーン!”

3名のドイツ兵が爆死します。

その彼らの陣地内に躍り込むニーナ。

敵の機関銃は幸い無傷でした。

ドイツ軍の機関銃を操作し構える彼女。

50mほど離れた所にあったもう一つのドイツ軍機銃陣地に向けて発砲を始めました。

「友達の仇よ!」

“ドドドドドドドドドドドドドッ!”

味方陣地からまさかの銃撃を食らいバタバタと撃ち倒されるドイツ兵達。

敵の3名はあっという間に彼女に撃ち殺されました。

 

ドイツ軍機関銃陣地を2か所破壊したニーナは基地に戻ります。

そしていよいよドイツ軍が大軍でソ連軍陣地に攻め込んできたのです。

1942年3月1日。

ニーナは自軍内の味方兵士が次々と倒れていく間もドイツ軍の進撃を撃退し続けます。

「ここは渡さない、絶対に!」

「わたしがいる限り!」

“ドドドドドドドドドドドドドッ!”

相変わらず彼女の射撃は冴えわたりドイツ兵は死体の山を築きます。

そんな獅子奮迅ぶりの彼女。

最後は左肩を負傷し、右手一本でドイツ兵を殺し続けます。

「わたしは負けないわ!」

「この~!」

“ドドドドドドドドドドドドドッ!”

彼女の放った最後の連射に10名以上のドイツ兵が倒されます。

しかし、手榴弾を投げ込まれた彼女は爆発とともに倒れ込みます。

まだ息のある状態で放置されていた彼女はその後押し戻してきた赤軍兵士によって助け出されます。

しかしながら、重傷を負った彼女は野戦病院内で1942年3月8日に息を引き取りました。

初めて前線に出て48名の敵を撃ち殺してからわずか7ヶ月目の事でした。

このセヴァストポリ防衛戦でニーナが殺害したドイツ兵の総数は500名以上でした。

短命な機関銃手としては7ヶ月間戦闘に参加し、ドイツ軍に与えた損害は総数で850名以上の殺害でした。

ニーナはセヴァストポリのコミュナーズ墓地で他の死んだ兵士と一緒に埋葬されました。

 

1965年5月14日付けのソビエト連邦最高会議の法令により、ニーナ・アンドレーヴナ・アニロワ上級軍曹は死後、ソビエト連邦の英雄の称号を授与されました。

ロシア軍帽姿のニーナさん。

軍帽にコート姿のニーナさん。

海軍陸戦隊のシャツを着たニーナさん。

6  ロシア女子戦記シリーズもあと2回となりました。 

さて、ロシア軍によるウクライナ侵攻もまだまだ継続していて、泥沼化しております。

キエフ近郊の街ブチャでは民間人が虐殺された模様です。

私もFacebookで殺害されたウクライナ市民の画像が流れてきて絶句しました。

その後、ロシア側からフェイク画像だという反論もあったようです。

本当のところは私にはわかりませんが、フェイクならば、あの亡くなった方達が今も存命でいる訳ですから、そうであればどんなに良い事かと思います。

ロシア軍の戦死者も1万人超えだそうです。

もはやロシア国内からの反戦運動でこの戦争を終わらせないかと願うばかりです。

私はこのシリーズを書いていて、10代の少女達がなぜ自らを犠牲にしてまで、ナチスと闘ったのかと思っていました。

それが独ソ戦から80年を経て、ウクライナの犠牲者達の惨たらしい姿をみると侵略者への彼女達の怒りと憎しみが解ったような気がします。

 

今回ご紹介するのは、カザフスタンの女の戦士、アリヤ・モルダグロワさんです。

カザフの英雄は当シリーズの第3回でご紹介しました機関銃手のマンシュークさんと並んでこのアリヤさんが有名です。

彼女の活躍ぶりは映画にもなっていてYouTubeでも見ることができます。(ロシア語)

 

アリヤ・モルダグロワは1925年10月25日、カザフスタンのアクトベ州ホブダ地区で生まれました。

1941年6月、独ソ戦が始まると、リア(アリヤ)はレニングラードに留まる事を決意します。

1941年9月8日、レニングラード攻防戦が始まりました。

彼女はすぐにでもドイツ軍と闘いたかったのです。

しかし16歳の彼女は赤軍への入隊はできず、その後17歳になって狙撃学校に入学します。

彼女は最前線に志願兵として赴く事を強く願いましたがそれは認められませんでした。

その後リアは狙撃学校で技術を磨き、優秀な成績により個人用ライフルを授与されました。

そして1943年7月、まだ17歳のリアはやっとのことで狙撃兵として第54歩兵旅団に配属されました。

まだ17歳の少女リアは部隊に配属されるとすぐにその実力を発揮します。

 

ドイツ軍機甲師団が前進してくるレニングラード戦線でのことです。

彼女のいるソ連軍の塹壕陣地が砲撃に晒され、味方の死傷者が続出していました。

彼女にとっての最初の戦闘でした。

 

“ヴォーン!”

“ヴォヴォーン!”

「リア、伏せろ!」

彼女の上官が叫びます。

砲弾は彼女のすぐそばに着弾し、リアは土まみれになってしまいます。

「よくもやたったわね!ナチスめ。」

「今に見てなさい!」

「わたしが、たっぷり教えてあげるわ!」

彼女の塹壕の数十メートル前方にドイツ軍戦車が迫っていました。

対戦車手榴弾を手に肉弾攻撃を敢行する味方の兵士達。

戦車の機銃でバタバタと倒されていきますが、死に際に1人の兵士が投げた手榴弾が戦車に命中します。

“ヴォーン!”

ドイツ軍戦車のエンジンから出火し、中から戦車兵達が次々に出てきます。

「わたしの出番だわ!」

「覚悟しなさい!」

「それっ!」

“バシュン!”

「もう1人!」

“バシュン!”

「逃がさないわ!」

“バシュン!”

黒い制服姿のドイツ軍戦車兵達が次々とリアに狙い撃つされて殺されていきます。

いきなり狙撃され地面に伏せた兵士も逃さず撃ち殺します。

「隠れても無駄よ、ムダ!」

“バシュン!”

「やったね!4人仕留めたわ!」

恐るべき17歳の少女は、いとも簡単に逃げ惑うドイツ兵を4人撃ち殺したのです。

アジア系の黒髪に黒い瞳の可愛らしいきゃしゃな女の子がいきなり大胆な狙撃で戦果を上げます。

そんな彼女は仲間達から一目置かれる存在となりました。

その後も彼女はドイツ兵を求めて前線で狩りに出かけます。

 

「今日は練習だわ。」

「2・3人片付けてやりたいな。」

「ドイツの奴らいないかしら?」

破壊された戦車の影で待ち伏せするリア。

「いたわ、わたしの獲物よ。」

ドイツ兵2人がやってくるのが見えました。

「まずは、コイツから・・。」

“バシュン!”

十数メートルの至近距離から最初の犠牲者は額を撃ち抜かれて倒れます。

「やった!」

「最高の気分。」

「もう1人はどうやって始末してやろうかしら。」

いきなりリアによって戦友が射殺されたドイツ兵は恐怖で錯乱状態になり辺りにマシンガンを撃ちまくります。

「わたしを狙ってるのかしら?」

「見当はずれもいいとこだわ。」

「わたしが、教えてあげるわよ!」

「それっ!」

“バシュン!”

男の手元を狙って狙撃してみると、マシンガンを地面に落として右手を抑えるドイツ兵。

「お楽しみはこれからなんだから。」

手を負傷して無抵抗になったドイツ兵の前に現れたのは17歳のあどけない少女でした。

「あなたの友達を撃ち殺したのは、このわたし!」

「あなたもわたしに撃ち殺されるのよ。」

“バシュン!”

今度は男の左足の太ももを撃ち抜く彼女。

「ふふっ!」

「痛かった?」

「ごめんなさい!」

「簡単には死なせないわよ。」

「もっといたぶってあげるわ。」

「それっ!」

“バシュン!”

今度は彼の右肩を2メートルの距離から撃ち抜く彼女。

“ウ~!”

3発目の銃撃にひっくり返る男。

まだ20代の若い兵士でした。

仰向けの状態から銃を構えるリアを見上げる彼。

左手で顔を隠しながら手の平を左右に振って命乞いをします。

「わたし、あなたに恨みは無いけど・・。」

「ナチは許せないの!」

“バシュン!”

情け容赦なく引き金を引くリア。

彼女の銃弾は男の左手を撃ち抜いて顔面を直撃しました。

「ごめんね。」

「わたしに見つかったのが運の尽きだったわね。」

 

彼女が前線に配属された8月から10月までの間に、リアは32人のドイツ兵を撃ち殺していました。

わずか17歳の少女は恐れを知らない大胆不敵な狙撃で戦果を上げていきます。

 

そしてある時、リアは女子狙撃兵で戦友のジーナとナディアとでドイツ兵狩りをしていました。

ちょうど独ソ両軍の中立地帯でのことです。

ドイツ軍歩兵分隊の5名が女子狙撃兵3名に気付いて待ち伏せしています。

 

「リア、今日はわたし達、1人づつ仕留めたわね。」

「わたし、まだ殺し足りないかも・・。」

「ジーナは、もっと殺したいのよね。」

「ちょっと待ってて!」

「どうしたのリア?」

「あそこで何か動いたわ。」

「よ~し、何がいるか確かめてやる。」

リアは物陰に隠れて慎重にスコープを覗きます。

前方約100mの廃墟に人影が見えたのです。

「ドイツ兵どもよ!」

「いるいる。」

「ジーナ、あなたの分もいるわよ。」

「わたし達の事、待ち伏せしてるのかしら?」

「こうなったら、全滅させてやるわ。」

「ジーナは右から、ナディアは左からよ!」

「わかったわ!」

「2人とも配置についたかしら?」

「まずは、わたしから。」

「思い知らせてやるわ。」

「それっ!」

“バシュン!”

「やったね!」

“バシュン!”

“バシュン!”

「それ、やったね!ジーナ、ナディア!」

まずリアが1人撃ち殺すとジーナとナディアも1人づつ射殺しました。

正面と両サイドからの狙撃に慌てるドイツ兵達。

「あらっ、両手あげてるわ?」

「降伏?」

「つまんないの。」

彼女達を待ち伏せしていたドイツ兵は3名殺されてあっさりと降伏しました。

武器を捨てて両手をあげて立ち尽くす2人の元に女子達が足早にやってきます。

「リア、こいつら、どうする?」

「この場で、殺しちゃおうか?」

「なら、わたしにやらせてよ。」

「ジーナ、だめよ!」

「彼らは、本部に連れて行くわ。」

2人のドイツ兵に憎しみのまなざしを向けるジーナとナディア。

そんな2人を思いとどまらせて、捕虜として連行することにするリア。

「もうこの間みたいな処刑なんて、するべきじゃないわ。」

心の中で、先日なぶり殺しにした若いドイツ兵の事を思い出すリア。

17歳の少女は、あんな残酷な殺し方は二度としないと心に決めていたのです。

 

1943年12月13日、彼女は親族に宛てた手紙でこう書いています。

「わたしは今、多くの木々に囲まれた深い塹壕の中でこの手紙を書いています。」

「わたし達はドイツ軍と対峙しているのです。頭にはヘルメット、腰には手榴弾、手にはライフル...。」

「わたしが殺した大勢のドイツ人に同情する気はありません。」

「朝、整列時に指揮官から“3歩前に出ろ”と言われました。」

「わたしは3日間で、14名のドイツ兵を殺害しました。」

「この戦果に、司令官が感謝の意を表したんです。」

「わたしは人前で司令官にキスをされ、恥ずかしくて赤面してしまいました。」

リアは前線に出てわずか4ヶ月で67名のドイツ兵を殺害していました。

 

1944年1月11日、レニングラード・ノヴゴロド作戦で、彼女の第54狙撃旅団はノヴォソコルニキ市まで進み、敵の防衛線を突破して市の北側に前進しました。

彼女の部隊はナスバ駅近くに到着し、敵の強力な砲火に遭遇します。

夜間にドイツ軍の防衛ラインを占領した彼女達は、1日14日の夜明けに攻撃を開始しました。

彼女達は駅を通ってカザチハ村を占領する任務を負っていました。

すでに第一次防衛線の突破に成功していたにもかかわらず、敵の強力な応戦によって攻撃は失敗してしまいます。

その時、リアは立ち上がって背筋を伸ばして叫びます。

「兄弟よ、兵士よ、祖国のために、わたしに続きなさい!」

リアを先頭に赤軍兵士達がドイツ軍陣地に総攻撃を仕掛けます。

リアも狙撃銃を手に突撃します。

「こんな劣勢、挽回してみせるわ!」

「わたしに続きなさい!」

「この~!」

“バシュン!”

「それっ!」

“バシュン!”

「死ね!」

“バシュン!”

突撃しながら目に入るドイツ兵を狙い撃ちにするリア。

彼女の正確な射撃に次々と撃ち殺されるドイツ軍兵士達。

「え~い!」

“バシュン!”

“バシュン!”

“バシュン!”

彼女の勇猛果敢な突撃と銃撃に歯向かおうとした11人のドイツ兵が彼女に殺されました。

リア達の総攻撃によりドイツ軍部隊は防衛陣地から敗走します。

そして占領した塹壕に陣取るリア達でした。

「敵はまたここを取り返しに来るわね。」

「今度はわたし、マシンガンで応戦するわ。」

もはや、両軍が突撃を繰り返す塹壕戦では狙撃銃よりも機関銃の方が有効でした。

「これで大勢殺せるわ!」

「やってやるわ。」

サブマシンガンの予備の弾倉を並べてドイツ軍の来襲に備えるリア。

そしてドイツ軍は防衛線を取り戻すために隊列を組んで総攻撃を仕掛けてきました。

「来たわね。」

「思い知れ!」

“バババババババババッ!”

突撃してくるドイツ兵の一団に向かってサブマシンガンで銃撃を加える彼女。

あっという間に5人が薙ぎ倒されます。

「もっとかかって来い!」

「それっ!」

“ババババババババッ!”

目の前のドイツ兵に容赦なく銃弾を浴びせ更に7名を撃ち殺します。

「わたし達は一歩も引かないわ!」

「覚悟しなさい!」

「それ~!」

“バババババババババッ!”

次から次へと突撃してくるドイツ兵達をマシンガンで殺しまくるリア。

この日、ドイツ軍は3回に渡って攻撃してきました。

攻撃の度に勇敢に応戦するリアは、28名のドイツ兵をマシンガンの銃撃で射殺していました。

「まだまだよ、こんなもの!」

「やつらが諦めるまで、わたしは殺し続けるわ!」

しかし両サイドから攻め込むドイツ軍は赤軍陣地内に肉薄し、塹壕内で激しい白兵戦が始まります。

マシンガンを持ったリアに襲い掛かるドイツ兵。

「何よ、こいつ!」

“ババババッ!”

とっさに身をかわして敵を撃ち殺す彼女。

さすがに小柄なリアは大柄なドイツ兵との白兵戦には不利でした。

そこで、一旦塹壕内から這い出す彼女。

地表から塹壕内を見渡すと至る所で銃剣を使った殺し合いが行われていました。

そんな彼女の足元に塹壕内にいた1人のドイツ兵が顔を向けます。

「アラッ!」

「コイツめ!」

「エイッ!」

“パコーン!”

一瞬目が合ったドイツ兵の頭を渾身の力を込めて蹴り上げる彼女。

リアのブーツが男の顔に見事なまでにヒットし、ヘルメットは吹っ飛び男は塹壕内に転がります。

「今よ!」

“バババッ!”

倒れた男に銃弾を浴びせる彼女。

「こいつもよ!」

“バババッ!”

「死になさい!」

“バババッ!”

地表から塹壕内のドイツ兵達を狙い撃ちにするリア。

「面白い!」

「殺し放題だわ!」

「ほらっ!」

“バババッ!”

ドイツ兵を8名ほど血祭りに上げた直後でした。

1人のドイツ軍将校がリアに向かって拳銃で発砲します。

“パン!”

“ウッ!”

「よくも、わたしを・・。」

“ババババッ!”

男の銃弾を浴びてしまったリアは振り向きざまに引き金を引きます。

彼女のマシンガンの銃撃をもろに受けたドイツ軍将校はそのまま声も上げずに倒れました。

この将校はリアの殺害した最後のドイツ兵となったのです。

負傷したリアはその後病院に搬送されますが、この傷が致命傷となって息を引き取ります。

享年18歳のリアが狙撃銃で殺害したドイツ軍兵士の総数は78名。

機関銃で殺した数も含めると130名を軽く超えていました。

アリヤ・モルダグロワはプスコフ州ノヴォソコルニキ地区のモナコヴォ村に埋葬されています。

1944年6月4日、彼女は「ソビエト連邦の英雄」の称号を授与されました。
2021年1月12日、アスカル・マミン首相は、JSC「アクトベ国際空港」にアリヤ・モルダグロワの名を冠する政令を発布しました。

 

アリヤ・モルダグロワさん


狙撃兵になる前のアリヤさん(右)

アリヤさんの銅像

アリヤさんを題材にした1985年のソ連映画“狙撃手”でリア役を演じたアイトゥルガン・テミロワさん。