
平安時代、紫式部と同時代に宮廷で生きた赤染衛門、
その赤染衛門は 和歌の名手、
日本初の女性による女性のための歴史物語『栄花物語』の書き手。
「史書」でなく、「物語」でなく、「歴史物語」を手掛ける。
この小説はあの道長と三条天皇、
それぞれの人物像、その確執が
あますところなく描かれる。
そのなかに藤式部も『源氏物語』の作者として登場、
<物語論>もかわされて。
その最後に眼と耳をわずらい余命いくばくかの三条帝の御製
心にも あらでうき世に長らへば
恋しかるべき夜半の月かな
中宮妍子は「古今和歌集」から返歌
天の河 雲の水脈にてはやければ
光とどめず月ぞながるる
絶望、懊悩の天皇の和歌に、
いつかは必ず晴れると返したその切々とした、想いが突き刺さる・・・
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紫式部が生きた時代の豪華絢爛宮中絵巻の作者である
朝児(あさこ 赤染衛門)からみた宮廷はどんな姿をしていたのか?
宮中きっての和歌の名手と言われる朝児(あさこ)は夫を亡くしたばかり。
五十も半ばを過ぎて夫の菩提を弔いながら余生を過ごそうとしていたが、
ひょんなことから三条天皇の中宮妍子(けんし)の女房として
再び宮仕えをすることになる。
宮中では政権を掌握した藤原道長と、
あくまで親政を目指す三条天皇との間には緊張が入っていた。
道長の娘の妍子が、将来天皇となるべき男児を出産することが、
二人の関係に調和をもたらす道だった。
しかし、女児が生まれたことで、道長は三条天皇の排除を推し進めていくことになる。
朝児は、目の前で繰り広げられるきらびやかながらも残酷な政争に心を痛める。
なぜ人は栄華を目指すのか。
いま自身が目にしていることを歴史として書き記すことが自らの役目ではないのか。
そこで描かれるのは歴史の勝者ばかりではない。
悲しみと苦しみのなかで敗れ去った者の姿を描かねばならない。
その思いの中で朝児は筆を取る。