こころに刃 鈍き夜砂を漉す 掌
◆無季の句になります。
こころに刃 鈍き夜砂を漉す 掌
◆無季の句になります。
身熱もてはらはらほろほろ散る銀杏 掌
◆銀杏散る・銀杏落葉
街路樹は銀杏がもっとも多く、
トルコ帽子の朔太郎
萩原朔太郎『月に吠える』
「探偵」が登場する詩を二篇。
朔太郎の探偵は<玻璃>の衣装を着て、
<青ざめた>五月に憂い顔。
その題「干からびた犯罪」、そして「殺人事件」。
どうぞ、お読みください。
『月に吠える』口絵:田中恭吉
干からびた犯罪
どこから犯人は逃走した?
ああ、いく年もいくねんもまへから、
ここに倒れた椅子がある、
ここに凶器がある、
ここに屍体がある、
ここに血がある、
そうして靑ざめた五月の高窓にも、
おもひにしづんだ探偵のくらい顔と、
さびしい女の髪の毛とがふるへて居る。
殺人事件
とほい空でぴすとるが鳴る。
またぴすとるが鳴る。
ああ私の探偵は玻璃の衣裝をきて、
こひびとの窓からしのびこむ、
床は晶玉、
ゆびとゆびのあひだから、
まつさをの血がながれてゐる、
かなしい女の屍體うへで、
つめたいきりぎりすが鳴いてゐる。
しもつき上旬のある朝、
探偵は玻璃の衣裝をきて、
街の十字巷路を曲がった。
十字巷路に秋のふんすゐ。
はやひとり探偵はうれひをかんず。
みよ、遠いさびしい大理石の歩道を、
曲者はいつさんにすべつてゆく。
萩原朔太郎『月に吠える』 装画:田中恭吉
萩原朔太郎 詩集『月に吠える』
今年で刊行100年になります。
朔太郎31歳。
その「序」に詩への思い、
自身への言及が切々と綴られています。
抜粋して、こちらに。
『月に吠える』
萩原朔太郎
序
詩の表現の目的は単に情調のための情調を
表現することではない。
幻覚のための幻覚を描くことでもない。
詩の本来の目的は人の心の内部に蠕動する感情そのものの
本質を凝視し、かつ感情をさかんに流露させることである。
詩とは感情の神経を掴んだものである。
すべてのよい叙情詩には、理屈や言葉で説明することの
出来ない一種の美感が伴ふ。
これを詩のにほひといふ。
詩の表現は素朴なれ、詩のにほひは芳純でありたい。
詩の表面に表はれた概念や「ことがら」ではなくして、
詩の核心である感情そのものに感触してもらひたいことである。
私の心の「かなしみ」「よろこび」「さびしみ」「おそれ」
その他言葉や文章では言ひ現はしがたい複雑した特種の感情を、
私は自分の詩によつて表現する。
思ふに人間の感情といふものは、極めて単純であつて、
同時に極めて複雑したものである。
人間は一人一人にちがつた肉体と、
ちがつた神経とをもつて居る。
人は一人一人では、いつも永久に、永久に、
恐ろしい孤独である。
私のこの肉体とこの感情とは、もちろん世界中で
私一人しか所有して居ない。
またそれを完全に理解してゐる人も
私一人しかない。
これは極めて極めて特異な性質をもつたものである。
けれども、それはまた同時に、世界の何びとにも共通なもので
なければならない。この特異にして共通なる感情の焦点に、
詩のほんとの『よろこび』が存在するのだ。
詩は一瞬間に於ける霊智の産物である。
ある種の感情が、電流体の如きものに触れて
始めてリズムを発見する。
この電流体は詩人にとっては奇跡である。
私は詩を思ふと、烈しい人間のなやみと
そのよろこびとをかんずる。
詩は神秘でも象徴でもない。
詩はただ、病める魂の所有者と孤独者との
寂しいなぐさめである。
過去は私にとつて苦しい思ひ出である。
過去は焦燥と無為と悩める心肉との不吉な悪夢であつた。
月に吠える犬は、自分の影に怪しみ恐れて吠えるのである。
疾患する犬の心に、月は青白い幽霊のやうな不吉の謎である。
犬は遠吠えをする。
私は私自身の陰鬱な影を、
月夜の地上に釘づけしてしまひたい。
影が、永久に私のあとを追つて来ないやうに。
「月に吠える」のころの朔太郎
昨日ご紹介の伊豫田晃一さんに
個人誌「月球儀」の装画を手懸けていただいています。
その6号は伊豫田晃一「月球儀少女」の
新装画での上梓となり、
題字、装幀、裏表紙(アンティークな月球儀)まで、
すべて伊豫田晃一さんによるもの。
「月球儀」は<俳句を支柱とした>
山本掌の個人誌。
いままでに刊行したのは6冊。
印刷・製本以外は
企画、編集、校正、発行、など
ひとりでやっているので、
ほぼ2年ごとでしょうか。
今回の特集はこのふたつ。
◆小松健一 写真&文
「見果てぬ夢よ、風よ、雲よーー探検家矢島保冶郎 」
◆特集 俳句の愉しみ 俳句を詠み、読む
萩原朔太郎 萩原朔太郎の俳句
清水哲男 朔太郎俳句を読む
「探険家 矢島保治郎-見はてぬ夢よ、雲よ、風よ」
小松健一撮影によるチベット写真をドーンと16ページ。
いままでひとりの各ジャンルの作家をとりあげ、
巻頭に載せていましたが、
今回はカラー、ページも増やし、さらに文を掲載。
萩原朔太郎は特異な感覚の
新しい口語の近代詩、象徴詩の世界をひらいた詩人。
その朔太郎に俳句があるのをご存知でしょうか?
全29句を発表順に紹介し、
その俳句鑑賞(読み)は詩人・清水哲男さんに。
俳句の人気サイト「増殖する俳句歳時記」の
主宰をされていた。
清水さんが朔太郎俳句をどう読んでいるか、ご覧ください。
◆<うたい語る「おくのほそ道」>
毎号掲載の<うたい語る「おくのほそ道」>、
コンサートで上演するごとに改訂をし、
新たな曲を書き下ろしている。
その野澤美香作曲の楽譜も載っています。
他に6号では「俳句の愉しみ 俳句を詠み・読む」とし、
金子兜太・安西篤・池田澄子・鳴戸奈菜、各氏による
山本掌の句の鑑賞。
そして、連作俳句「非在の蝶 」「蝶を曳く」。
裏表紙 「アンティークな月球儀」
ご興味があるな、という方はメッセージを。
伊豫田晃一作品集「ASTROLABE」
刊行され、それを記念した展示が、
神戸のロイユにおいて催されている。
空想上の12星座を描いた連作「アストロラーベ」をはじめ
未発表新作の鉛筆画・水彩画・銅版画・オブジェ等の展示。
◆神戸ギャラリーロイユ
g-loeil.com/product-page/astrolabe …
11月25日(土)~12月16日(日)水木休廊
作品集「ASTROLABE」、
昨日のオープンですでに特装本は完売とか。
お近くの方はお出かけください。
◆特装本
角背布装幀(表紙題字、表紙絵銀箔押、三方銀、215mm×225mm)
鉛筆画26点収録
オリジナル銅版画1葉付(前見返し2ページ目に挟み込み)
布クロス貼函入
製本・製函 須川バインダリー 印刷 株式会社山田写真製版所
【Aタイプ】 No.1~No.10までの10部
特装本及びオリジナル銅版画12葉(布製たとう入り)の2冊組
頒価 105,000円(税別)
【Bタイプ】 No.11~No.30までの20部
特装本単品
胸に砂しんしんとわれは中洲 掌
◆無季の句になります。
神社や寺の境内には巨木が多い。
秋、黄金色に黄葉した姿も美しいが、
その落葉も美しい。
秋すでに散り始めるが、
冬の降霜期に入るとその数を増し、
やがてすっかり葉をふるい落とし、
街路や境内は黄金色のじゅうたんでも
敷きつめたようになる。
森澄雄 「日本大歳時記」