赤江瀑『星踊る綺羅の鳴く川』2000年刊 講談社
ひさしぶりに手に取った赤江瀑。
その衝撃的デビュー作「ニジンスキーの手」から、
どの作品もほぼ読んできた作家。
暗黒の深海のような闇にうかぶ柩。
中空に浮かぶ柩の中身は鶴屋南北の亡骸か!?
というこの物語は
「数百年の時を隔てて、幻と現つ、ふたつの芝居の国の間に、
束の間、回廊が拓かれ、きらびやかに、冷ややかに、
精霊たちの宴が繰り広げられる。
鯉の腹の中眠りから、光に封じこめられた魔界が出現する...。」
と、紹介にある。
江戸の芝居の太夫たち、
そこに現代の女優らがこの魔界を探し、訪ねてからむ。
言の葉がひるがえり、
魔がゆきかう。
さながら戯場国の幕内、舞台の内外。
ストーリーをたどるというより、
科白、台詞がみだれ飛び、
そのセリフがなんとも粋で伝法で綺羅綺羅しい。
「おぼろ霞に雪洞(ぼんぼり)つらねた𠮷原桜の仲町も、
いやさあの木挽町(こびきちょう)、堺町やら、葺屋町(ふきやちょう)の、
押すな押すなの人の花、色ぞめきに匂い立つ芝居桜の賑わいも、
ここを先途のいま花ざかり・・・」
「弥生櫓(やよいやぐら)の太鼓が、ソレ鳴る、ソレ打つ、
ソレソレ遠音が弾む・・・」
きらびやかな鯉が大暗黒に舞う、
装幀は横尾忠則
◆赤江瀑1933年下関生まれ。
1970年『ニジンスキーの手』で小説現代新人賞、
74年『オイディプスの刃』で角川小説賞、
84年『海峡』『八雲が殺した』で泉鏡花文学賞を受賞。
著書に『獣林寺妖変』『罪喰い』『金環食の影飾り』『春泥歌』『花酔い』
『妖精たちの回廊』『ガラ』『香草の船』『弄月記』『霧ホテル』など多数。
また京都小説集『風幻』『夢跡』、山陰山陽小説集『飛花』、
エッセイ集に『オルフェの水鏡』『戯場国の森の眺め』などがある。