朔太郎の肉声です! 「乃木坂俱楽部」「火」「沼澤地方」 | 「月球儀」&「芭蕉座」  俳句を書くメゾソプラノ山本 掌のブログ

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第四句集『月球儀』
「月球儀」俳句を支柱とした山本 掌の個人誌。

「芭蕉座」は芭蕉「おくのほそ道」を舞台作品とする
うた・語り・作曲・ピアノのユニット。
    



俳句を金子兜太に師事。「海程」同人・現代俳句協会会員。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朔太郎の詩の自作朗読は3篇あります。

その最初がこの「乃木坂倶楽部」

 

 

朔太郎のじつに独特なイントネーションで、

 

自作を読んでいます。


http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3571577
    ( 国立国会図書館デジタルコレクションより) 



詩人・吉増剛造さんの<gozo Cine>のなかで、

朔太郎の写真と

この詩が通奏低音のように流れて。

 
 

乃木坂倶楽部  
                        萩原朔太郎

十二月また来れり。

なんぞこの冬の寒きや。

去年はアパートの五階に住み

荒漠たる洋室の中

壁に寝台(べっと)を寄せてさびしく眠れり。

わが思惟するものは何ぞや

すでに人生の虚妄に疲れて

今も尚家畜の如くに飢えたるかな。

我れは何物をも喪失せず

また一切を失い尽せり。

いかなれば追わるる如く

歳暮の忙がしき街を憂い迷いて

昼もなお酒場の椅子に酔わむとするぞ。

虚空を翔け行く鳥の如く

情緒もまた久しき過去に消え去るべし。


十二月また来れり

なんぞこの冬の寒きや。

訪うものは扉(どあ)を叩(の)っくし

われの懶惰を見て憐れみ去れども

石炭もなく暖炉もなく

白亜の荒漠たる洋室の中

我れひとり寝台(べっと)に醒めて

白昼(ひる)もなお熊の如くに眠れるなり。




(青空文庫「氷島 萩原朔太郎」より。

新かな・新漢字での表記)