「ばくてりやの世界」「卵」、この詩を朗読します Ⅱ | 「月球儀」&「芭蕉座」  俳句を書くメゾソプラノ山本 掌のブログ

「月球儀」&「芭蕉座」  俳句を書くメゾソプラノ山本 掌のブログ

第四句集『月球儀』
「月球儀」俳句を支柱とした山本 掌の個人誌。

「芭蕉座」は芭蕉「おくのほそ道」を舞台作品とする
うた・語り・作曲・ピアノのユニット。
    



俳句を金子兜太に師事。「海程」同人・現代俳句協会会員。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ばくてりやの世界」「卵」を朗読いたします。

11月29日(金) 14時開演

高崎シティギャラリー コアホール


萩原朔太郎『月に吠える』より


    ばくてりやの世界

ばくてりやの足、

ばくてりやの口、

ばくてりやの耳、

ばくてりやの鼻、


ばくてりやがおよいでゐる


あるものは人物の胎内に、

あるものは貝るゐの内臓に、

あるものは玉葱の球心に、

あるものは風景の中心に。


ばくてりやがおよいでゐる。


ばくてりやの手は左右十文字に生え、

手のつまさきが根のようにわかれ、

そこからするどい爪が生え、

毛細血管の類はべたいちめんにひろがっている。


ばくてりやがおよいでゐる。


ばくてりやが生活するところには、

病人の皮膚をすかすやうに、

べにいろの光線がうすくさしこんで、

その部分だけほんのりとしてみえ、

じつに、じつに、かなしみたえがたく見える。


ばくてりやがおよいでゐる。



   卵

いと高き梢にありて、

ちいさなる卵ら光り、

あふげは小鳥の巣は光り、

いまはや罪びとの祈るときなる。

 

 

 

 

    

     萩原朔太郎『月に吠える』 扉 画:田中恭吉