「ばくてりやの世界」「卵」を朗読いたします。
11月29日(金) 14時開演
高崎シティギャラリー コアホール
萩原朔太郎『月に吠える』より
ばくてりやの世界
ばくてりやの足、
ばくてりやの口、
ばくてりやの耳、
ばくてりやの鼻、
ばくてりやがおよいでゐる
あるものは人物の胎内に、
あるものは貝るゐの内臓に、
あるものは玉葱の球心に、
あるものは風景の中心に。
ばくてりやがおよいでゐる。
ばくてりやの手は左右十文字に生え、
手のつまさきが根のようにわかれ、
そこからするどい爪が生え、
毛細血管の類はべたいちめんにひろがっている。
ばくてりやがおよいでゐる。
ばくてりやが生活するところには、
病人の皮膚をすかすやうに、
べにいろの光線がうすくさしこんで、
その部分だけほんのりとしてみえ、
じつに、じつに、かなしみたえがたく見える。
ばくてりやがおよいでゐる。
卵
いと高き梢にありて、
ちいさなる卵ら光り、
あふげは小鳥の巣は光り、
いまはや罪びとの祈るときなる。
萩原朔太郎『月に吠える』 扉 画:田中恭吉