萩原朔太郎「帰郷」、この詩を朗読しますⅢ 高崎演奏家協会ウインターコンサート  | 「月球儀」&「芭蕉座」  俳句を書くメゾソプラノ山本 掌のブログ

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第四句集『月球儀』
「月球儀」俳句を支柱とした山本 掌の個人誌。

「芭蕉座」は芭蕉「おくのほそ道」を舞台作品とする
うた・語り・作曲・ピアノのユニット。
    



俳句を金子兜太に師事。「海程」同人・現代俳句協会会員。

 

 

 

 

 

 

 

 

萩原朔太郎「帰郷」、

この詩は詩集『氷島』1934年刊に

収録されています。

「昭和4年、妻と離縁し二児を抱えて故郷に帰る」

この前書きが書かれたように、

朔太郎のじつに寂寥、

 

そして暗澹とした

心情があますところなく表現されています。



   帰郷

     昭和四年の冬、妻と離別して二児を抱えて故郷に帰る


わが故郷に帰れる日

汽車は烈風の中を突き行けり。

ひとり車窓に目醒むれば

汽笛は闇に吠え叫び

火焔(ほのほ)は平野を明るくせり。

まだ上州の山は見えずや。

夜汽車の仄暗き車燈の影に

母なき子供等は眠り泣き

ひそかに皆わが憂愁を探(さぐ)れるなり。

嗚呼また都を逃れ来て

何所(いづこ)の家郷に行かぬとするぞ。

過去は寂寥の谷に連なり

未来は絶望の岸に向えり。

砂礫(されき)のごとき人生かな!

われ既に勇気おとろへ

暗澹として長(とこし)なへに生きるに倦みたり。

いかんぞ故郷に独り帰り

さびしくまた利根川の岸に立たんや。

汽車は曠野を走り行き

自然の荒寥たる意志の彼岸に

人の憤怒(いきどほり)を烈しくせり。