<萩原朔太郎を朗読する>
1917年刊の第一詩集『月に吠える』より
「地面の底の病気の顔」と「竹」。
詩集の巻頭に載っているのが、この詩。
地面の底の病気の顔
萩原朔太郎
地面の底に顔があらわれ、
さみしい病人の顔があらわれ。
地面の底のくらやみに、
うらうら草の茎が萌えそめ、
鼠の巣が萌えそめ、
巣にこんがらかつてゐる、
かずしれぬ髪の毛がふるえ出し、
冬至のころの、
さびしい病気の地面から、
ほそい青竹の根が生えそめ、
生えそめ、
それがじつにあはれふかくみえ、
けぶれるごとくに視え、
じつに、じつに、あわれふかげに視え。
地面の底のくらやみに、
さみしい病人の顔があらはれ。
竹
ますぐなるもの地面に生え、
するどき青きもの地面に生え、
凍れる冬をつらぬきて、
そのみどり葉光る朝の空路に、
なみだたれ、
なみだをたれ、
いまはや懺悔をはれる肩の上より、
けぶれる竹の根はひろごり、
するどき青きもの地面に生え。