萩原朔太郎「沼澤地方」&朔太郎の朗読 | 「月球儀」&「芭蕉座」  俳句を書くメゾソプラノ山本 掌のブログ

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第四句集『月球儀』
「月球儀」俳句を支柱とした山本 掌の個人誌。

「芭蕉座」は芭蕉「おくのほそ道」を舞台作品とする
うた・語り・作曲・ピアノのユニット。
    



俳句を金子兜太に師事。「海程」同人・現代俳句協会会員。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

萩原朔太郎「沼沢地方」は

初出は「改造」で、その後度々手をいれて、

『定本青猫』そして『宿命』に載っています。

 

 

先日の吉松剛造さんは<浦>について

「うらうら、うねうね、猫町の<U町>あるいは占いのうら」

などと考えられるし、

「<沼沢地方>は小さな風土でなく、

 

<太古の宇宙>。


純度の深い<憤怒>があって、

<朔太郎は幻視者>」と言われていた。


国立国会図書館デジタルコレクション。

  http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3571577


 


  沼澤地方

蛙どものむらがつてゐる

さびしい沼澤地方をめぐりあるいた。

日は空に寒く

どこでもぬかるみがじめじめした道につづいた。

わたしは獸(けだもの)のやうに靴をひきずり

あるひは悲しげなる部落をたづねて

だらしもなく 懶惰のおそろしい夢におぼれた。



ああ 浦!

もうぼくたちの別れをつげやう

あひびきの日の木小屋のほとりで

おまへは恐れにちぢまり 猫の子のやうにふるえてゐた。

あの灰色の空の下で

いつでも時計のやうに鳴つてゐる

浦!
ふしぎなさびしい心臟よ。

浦! ふたたび去りてまた逢ふ時もないのに。