句集『朱夏の柩』評 安部完市 | 「月球儀」&「芭蕉座」  俳句を書くメゾソプラノ山本 掌のブログ

「月球儀」&「芭蕉座」  俳句を書くメゾソプラノ山本 掌のブログ

第四句集『月球儀』
「月球儀」俳句を支柱とした山本 掌の個人誌。

「芭蕉座」は芭蕉「おくのほそ道」を舞台作品とする
うた・語り・作曲・ピアノのユニット。
    



俳句を金子兜太に師事。「海程」同人・現代俳句協会会員。



朱夏の柩




句集『朱夏の柩』、

俳人・安部完市による評。

金子兜太主宰「海程」に掲載された。


                         安部完市


 鎖骨美し月光のはりさけん

鎖骨――肋骨でも四肢骨でも、まして背骨もないーーを思う。

月光がとどいて、ふと「はりさけるよ」と思う。

思いが散乱して、イメージがばらばらに光って、

乱れて、豊かで、虹彩陸離である。


そして、そのイメージは散って、

きらきらしてまとまってしまわず、

一点に集中しない。

光が散って、

光が一塊一点に集中するその直前のかがやきを見せて、一句。
 

この作者の好む色はーー黒と銀とのこと、なにか合点できる。
 

そしてこの作者に、

  
  しなしなとゆびほぐれずやいぬふぐり

  
  眼をのこし衣脱ぐ蛇のかまえ

  
  天幕のおとこの寝息夏はじめ

  
  煮えたぎる水するどくて霧籠



などの、ひどく自然で、直感すぐさまの

一句一句も示し得ている。

いぬふぐり、の一語をよく解きほぐす一感覚。

蛇のかまえ、強さよわさ。

おとこの寝息へのやさしさ。

水への新しい一直線。

佳いと思う。



 


◆阿部 完市(あべ かんいち、1928年1月25日 - 2009年2月19日)

俳人、精神科医。東京生まれ。
金沢医科大学付属医学専門部(現金沢大学医学部)卒。

1950年より勤務先の病院の俳句グループで作句をはじめる。
1951年、日野草城の「青玄」入会、
1952年西村白雲郷の「未完」入会、
1953年高柳重信の「俳句評論」入会。
1962年、金子兜太の「海程」4号より入会、同人。
1965年第2回海程賞、
1970年第17回現代俳句協会賞。
1974年より「海程」編集長。
現代俳句協会、国際俳句交流協会、日本ペンクラブ会員。
現代俳句協会では1997年から2008年まで副会長を務めた。

句集『無帽』『絵本の空』『純白諸事』『軽のやまめ』
評論『俳句幻形』『俳句心景』など。

 
 少年来る無心に充分に刺すために

 ローソクもつてみんなはなれてゆきむほん

 栃木にいろいろ雨のたましいもいたり

 精神はぽつぺんは言うぞぽつぺん

 きつねいてきつねこわれていたりけり


有季定型や客観写生に縛られない独特の韻律で、
内容的に意味の取れないような句もしばしばある。

意味性以前の言葉の無意識性にまで遡ろうとする
前衛的な句風である。

医師であった完市は30代のころ、
LSDを服用してその様子を自己観察し、
その上で俳句を作るという実験も行った。

このときの体験は完市にとって
「無意識」を実感させた一大事件であったという。
このときの句は未刊句集『証』として全句集に収録されている。

                      (ウキペディア)