萩原朔太郎「風船乗りの夢」 @風のまち音楽祭 3日(土)、明日 | 「月球儀」&「芭蕉座」  俳句を書くメゾソプラノ山本 掌のブログ

「月球儀」&「芭蕉座」  俳句を書くメゾソプラノ山本 掌のブログ

第四句集『月球儀』
「月球儀」俳句を支柱とした山本 掌の個人誌。

「芭蕉座」は芭蕉「おくのほそ道」を舞台作品とする
うた・語り・作曲・ピアノのユニット。
    



俳句を金子兜太に師事。「海程」同人・現代俳句協会会員。



朔太郎




    風船乗りの夢
   
 
        くさむら     
夏草のしげる叢から

ふはりふはりと天上さして昇りゆく風船よ

籠には旧暦の暦をのせ

はるか地球の子午線を越えて吹かれ行かうよ。

ばうばうとした虚無の中を

雲はさびしげにながれて行き

草地も見えず 記憶の時計もぜんまいがとまつてしまつた。
          
どこをめあてに翔けるのだらう

さうして酒瓶の底は虚しくなり
               まぼろし     
酔ひどれの見る美麗な幻覚も消えてしまつた。

しだいに下界の陸地をはなれ

愁ひや雲やに吹きながされて

知覚もおよばぬ真空圏内にまぎれ行かうよ。
   がすたい 
この瓦斯体もてふくらんだ気球のやうに

ふしぎにさびしい宇宙のはてを

友だちもなく ふはりふはりと昇つて行かうよ。






◆『定本 青猫』より

前半、後半の軽快でリズミックなところと、
虚無と倦怠の中間部からなる。
これもスケールの大きな曲となっている。

作曲は「仏陀」とおなじ石渡日出夫。