仏陀 あるいは世界の謎
萩原朔太郎
赭土の多い丘陵地方の
さびしい洞窟の中に眠つてゐるひとよ
君は貝でもない 骨でもない 物でもない。
さうして磯草の枯れた砂地に
ふるく錆びついた時計のやうでもないではないか。
ああ 君は「真理」の影か 幽霊か
いくとせもいくとせもそこに坐つてゐる
みいら
ふしぎの魚のやうに生きてゐる木乃伊よ。
このたへがたくさびしい荒野の涯で
海はかうかうと空に鳴り
おほつなみ
大海嘯の遠く押しよせてくるひびきがきこえる。
君の耳はそれを聴くか?
くをん
久遠のひと 仏陀よ!
◆朔太郎の第二詩集『青猫』より
1923年・大正12年刊。
後年詩を入れ替え、『定本 青猫』として刊行。
◆曲は石渡日出夫による。
スケールの大きな曲。