今回紹介すろ作品は
1957年(昭和32年)新東宝
「リングの王者 栄光の世界」
石井輝男監督


あらすじ
魚河岸で働く塚本新一郎(宇津井健)は、足の病気の妹の治療費の為にボクサーになる決心をする。

カルト映画の巨匠と言われた石井輝男監督のデビュー作です。

石井さんは新東宝発足時に入社しましたが、同期が次々と監督昇進するのに、依然として助監督のままでした。
その訳は、石井さんは師匠の成瀬幹己喜男監督や清水宏監督の様な、文芸作品や社会派作品の脚本を会社に提出し続けましたが、大蔵社長体制では取り上げられず、見かねた佐川 滉プロデューサーが、ボクシング映画の企画を持ちかけて説得し、ようやく監督昇進しました。



主人公・塚本新一郎(宇津井健)
妹の治療費の為にボクサーになる設定は、清水監督的な社会派ですね。



ヒロインの京子(池内淳子)
魚河岸の大衆食堂女店員役ですが、ちょっとイモっぽい感じがリアル感がありました。



妹・敏子(福田則子)と東洋新聞の畑記者(伊沢一郎)
伊沢さんが宇津井さんにボクサーを奨め、劇中でも重要な役割になります。
伊沢一郎さんは、川谷拓三さんのおじさんです。



岩崎健次(中山昭二)
元ボクサーで宇津井さんのトレーナーになります。
中山さんは後に石橋正次さん主演のボクシング映画「あしたのジョー」に出演しました。



キャバレーマダムのルリ子(若杉嘉津子)

デビューして連戦連勝の宇津井さんでしたが、トレーナーから「ボクシングの邪魔になる」と池内さんとの付き合いを止められ、しょげてる所に「強い男」が好きな若杉さんが誘う。

この辺りは石井輝男テイストが発揮されています。



キャバレー歌手に旗照夫さん
ここで歌ったシャンソン風の曲が中々良いんです。

旗さんはこの映画では歌っただけですが、以前紹介した「女体桟橋」では俳優として登場します。



宇津井さんのボクシングシーン

う~ん、もうちょっと減量出来ますね(笑)



対戦相手の三田村(細川俊夫)
宇津井さんは若杉さんにのぼせたせいでTKO負けします。
ていうか、細川さんの技量が圧倒的ですね。

細川さんは当時41歳になっていましたが、贅肉の無い素晴らしい体型。
スピード感もあり、本物のボクサーで通用しそうです。
細川さんはマラソンや競歩を経験したアスリートで、喧嘩の方も映画界でトップクラスだったそうです。

そして、この人もデビュー作です


花売り娘で登場した星輝美さん音譜
といっても正式なデビューではなくハプニング出演でしたが。

ここで星輝美さんのプロフィールを少し紹介します。
本名は鎌倉はるみ
金城学園中学部2年の時、名古屋から大阪に向かう近鉄特急車内で新東宝の佐川プロデューサーに「映画やってみる気ありませんか」とスカウトされます。

佐川プロデューサーと手紙のやり取りをした後、夏休みに佐川さんから「ちょっと東京に遊びに来て、撮影を見にいらっしゃい」と云われて行ったら、急遽「花売り娘で歩きなさい」って云われてワンシーン出演させされたそうです。

しかし、台詞もありましたので佐川プロデューサーは初めから出演させる気だったのでしょう。

その台詞は「ねぇ、お花買って。ねぇ、買ってよ!」とタメ口調でした(笑)
宇津井さんに「要らないったら!」と言われて、あっさり帰ってしまうだけの役でしたが。

クレジットにも名前がなく、おそらくギャラも貰っていないと思いますが、彼女にとって貴重な体験だったでしょう。

しかし、輝美さんの正式なデビューは新東宝ではなく日活になるのです。



その後細川さんにリベンジして王者になった宇津井さん。
チャンピオンベルト姿は結構似合ってますね。



鉄道シーンはD52形蒸気機関車
効果的にこのシーンを入れただけで、映像は他の作品の使い回しでしょう。


旗照夫さんは81歳になった今も現役の歌手で活躍しています。
動画は昨年10月31日に「Because of you」を歌った模様です。




今回紹介する作品は
1968年(昭和43年)日活
「青春の風」
西村昭五郎監督


あらすじ
神戸の女子短大を卒業した仲良し3人組は、それぞれの故郷に帰ったが、1年後に神戸で再開する。
「青春のお通り」の京都伸夫さんが書いた「花の三銃士」の映画化ですが、ストーリーが酷似しております。



ラブちゃん(和泉雅子)ピカちゃん(吉永小百合)ネコちゃん(山本陽子)
フェンシング部だった事を除けば、「青春のお通り」のケロリン・チャッカリ・キドリンとほぼ同じキャラ設定です。

「二匹目のドジョウ」を狙った映画だな思いましたが、「花の三銃士」は「青春のお通り」の10年前に書かれていて、「青春のお通り」の方がアレンジした作品だった事が分かりました。

私的には重大な発見でした。



ピカちゃんこと楠本光子(吉永小百合)
画家の父親(小沢栄太郎)らと小豆島に引っ越したけど、神戸の元住んでた家にハウスキーパーする事になりましてん。
ショートヘアも勝気な性格もチャッカリと全く同じですわ。
「浪花節」が好きなのはチャッカリと違いますな。

そやけど私はこのキャラが大好きですねん。
勝気やけど、自然体で石坂洋次郎作品の様な理屈っぽい所があらへんし、関西弁を使う所もめっちゃ親近感湧きますわ音譜



ネコちゃんこと小林峯子(山本陽子)
キドリンと同じく愛媛の旅館の娘でピカちゃんのライバルですねん。

キドリンよりも積極的なんやけど、私的にはキドリンの巧妙なおしとやかさの方が好きでしたわ。
本当は松原智恵子さんにやって欲しかったけど、松原さんは併映の「残雪」で舟木一夫さんの相手役してますねん。



ラブちゃんこと風見愛子(和泉雅子)
こっちもケロリンの浜川智子さんからチェンジしとー※神戸弁(笑)
そのせいやろかケロリンよりも、うんと出番増えましたわ。

和泉さんが吉永さんと同級生は珍しいわ、二人が共演の時はほとんど妹キャラやったのに。
神戸駅近くで「レンタカーホステス」してますねん。
レンタカーホステスなんて聞いたことあらへんけど、セールスレディみたいなもんですわ。



風見圭介(浜田光夫)
ラブちゃんの兄で、ピカちゃんが好きです。
啓太君同様、やや優柔不断ですが、こちらの方が一途な性格です。
浜田さんはこの頃俳優の地位が低下気味ですが、この役は浜田さん以外務まりませんね。



ハウスキーパー先のエリザベス婦人(イーデス・ハンソン)
ピカちゃんの元家ですが、場所は住吉川上流の住吉山手付近と思われます。



「青春のお通り」にないシーンでは、ハウスキーパー先のジョージ君とのふれあいは良かったです。



杉良太郎さんが、「放浪画家」岩上岩太役で出演
杉さんは神戸出身なのに関西弁は喋りませんでしたわ。



圭介君を巡って遂にピカちゃんとネコちゃんがフェンシング対決
劇中ほとんどフェンシングの話はありませんが、少しは入れて置かないとね(笑)

「花の三銃士」ではフェンシングの話題が沢山あったのかも知れませんね。



冒頭に映る国鉄三ノ宮駅旧駅舎
神戸市電やEF57?電気機関車も映ってます。



最後に、めっちゃローカルな話ですが、「全但バス」の神戸駅行き路線バス
全但バスですが、但馬方面に向かう高速バスや観光バスは知っていますが、神戸市内に路線バスがあった事は知りませんでした。



あとがき
この作品もそうですが、この頃の日活は協賛企業の商品等をこれ見よがしに見せつけるのが気になります。
日活は昭和40年代に入ると観客数がガタ減りして、協賛企業に媚びなければならなかったのですね。

吉永小百合さん主演の映画紹介は日活最後の主演作「花ひらく娘たち」で最後にしようと思いましたが、やっぱりこの作品は紹介したかってん。
読者の皆様は「もう、お腹いっぱい」かもしれませんが。



「青春の風」オープニング動画と


「青春のお通り」劇中動画を貼り付けましたので、見比べて下さい







今回紹介する作品は
1970年(昭和45年)大映製作 ダイニチ映配配給
「女秘密調査員 唇に賭けろ」
村山三男監督


あらすじ
アポロ電機から依頼された塩沢香織(江波杏子)率いる産業スパイ達は、ターゲットのヒカリ産業に潜入したり盗聴を仕掛けたが、ことごとく失敗した。

当時「女賭博師シリーズ」で人気の江波さんが、新たに「産業スパイ」として挑んだのですが…



産業スパイのメンバー
左から茂山(炎三四郎)麻生(平泉征)塩沢香織(江波杏子)笠原(長谷川明男)
しかしながら正攻法での腕前は、とても一流とは言えないメンバーです。
というか、相手側のヒカリ産業の方が一枚上手なのですが。



正攻法で上手く行かないなら、やっぱり「女の武器」を使う事になります。
そのターゲットはビックリマーク


ヒカリ産業秘書・平山芳枝(赤座美代子)
実は赤座さんはレズだったのです。



江波さんと踊る赤座さん。 赤座さんのうっとりした目に注目を。
劇中で二人は二度もベッドインします。



さらに情報を取る為に、井上課長(木村元)を誘い、睡眠薬を飲ませて、機密書類のある金庫の鍵を奪います。

相手はもう眠っているのに、わざわざお風呂に入る江波さん。
ダイニチ映配なのでこういうシーンは必要なのでしょうね(笑)



鍵を奪う事に成功して、隣のヒカリ産業ビルに侵入しようとする江波さんと長谷川さん
江波さんは「お風呂上り」なのに綱渡りをします。 まあ代役でしょうが。

しかし、この作戦も失敗します(泣)



江波さんはクラブ歌手になって潜入もします。
ここで挿入歌「眠れぬ夜の為に」を歌います。



クラブの客として、川崎敬三さんがカメオ出演
何故このシーンが必要だったのか謎です。



ヒカリ産業・梅田調査室長(成田三樹夫)
江波さんらの仕掛けをことごとく見破ります。

産業スパイを扱ったドラマ「土曜日の虎」では、成田さんが社長で江波さんは秘書でしたので、成田さんにかなわないのは無理もないか(笑)



中盤から謎の男として登場した、沖達也(藤巻潤)
実は江波さんそっくりの姉の恋人で、ヒカリ産業に恨みがありました。

途中、江波さんが拉致されたり紆余曲折がありましたが、藤巻さんと協力してようやくヒカリ産業の機密をゲット。



江波さん達に依頼したアポロ電機・松本次長(名古屋章)
せっかく機密が手に入ったが時すでに遅く、左遷が決定してしまい、腹いせに機密書類をヒカリ産業に売り飛ばそうとした所、江波さんらに発見され、江波さんに蹴られてしまいました。

ちょっと可哀想な名古屋さんでした。



あとがき
大映が得意な産業スパイ物に江波さんを起用して、せっかく面白くなりそうな企画なのに、滑ってしまったのは、「エロ」に拘りすぎた為に、江波さんが正攻法の産業スパイとして活躍出来ない様にしたのが問題だったと思います。

ダイニチ映配ではなく、以前の大映ならば、「シリーズ化」も可能だったかもしれませんね。



江波さんが劇中で歌った「眠れぬ夜のために」はありませんでしたが
カップリング曲「さよならも云えなくて」がありましたので、貼っておきます。








新東宝で活躍した女優の魚住純子さんが、13日午前9時20分、肺炎のため都内の病院で死去しました。

14日の朝、Yahoo!ニュースに魚住さんの訃報が出ていまして、驚いて検索すると、新東宝では主に脇役出演、倒産後もそんなに活躍していない女優さんなのに、アクセス件数が非常に多く(一時検索トップ)、これにも驚きました。

しかし、ツイート等を見ると、魚住純子さんを本当に知っている方はそんなに多くなく、写真検索しても、新東宝時代の写真は「女王蜂の逆襲」の物だけだったので、魚住さんの活躍を載せたいと思い、今回は予定を変更して、新東宝時代の魚住さんの出演作品5作を紹介します。

魚住純子
松竹音楽舞踊学校入学後スカウトされ1952年に東映入社、翌年綜芸プロに移籍、56年に新東宝入りしました。その後61年の倒産まで活躍。



1957年「危し!伊達六十二万石」 花魁・高尾太夫
綜芸プロ以来アラカンさんに可愛がられ、新東宝入社初期は主にアラカン主演の時代劇に出演しました。



高尾太夫は恋人が居た為、「廓育ちは意地と張りが命でありんす」と伊達綱宗の身請けを断り、綱宗に手討ちにされます。

登場時間は短いですが、魚住さんにとって思い出の役でしょう。



1959年「影法師捕物帖」 腰元・お縫
これもアラカン主演時代劇。腰元ですが、実は田沼意次の間者
見事に目的を達しますが、証拠隠滅で田沼に殺されます。



1959年「貞操の嵐」 高杉彩子
主人公(高倉みゆき)を弟から略奪した兄(細川俊夫)の愛人
しかし、細川さんが破産すると「金の切れ目が縁の切れ目」でサッサと別れます。

この頃から悪女役が多くなります。



1960年「女と命をかけてブッ飛ばせ」 トミ
主人公(宇津井健)の敵役(芝田新)の愛人で、宇津井さんを自分の陣営に取り込む命令を受けます。
トミはスポーツカーを乗り回すスピード狂です。



宇津井さんを誘惑する魚住さん



しかし、宇津井さんを好きになってしまい、最後は芝田さんを裏切ります。
新東宝での魚住さんの代表作は「トップ屋を殺せ」での主人公(天知茂)の相手役ですが、この作品はそれに次ぐ大きな役です。
魚住さんの隣は三条魔子さん



1961年「恋愛ズバリ講座 好色」 詐欺師の妹
主人公(沖竜次)の妹と称するが実は愛人。
結婚詐欺で婚約者に生命保険を掛けて殺すが、最後には沖さんに殺されてしまいました。

魚住さんは殺される役が多かったですね。
悪女役も多かったですが、新東宝ではスタイリッシュな女優さんでした。

尚、「女と命をかけてブッ飛ばせ」と「恋愛ズバリ講座」は星輝美さん特集で後程紹介します。


謹んで魚住純子さんのご冥福をお祈り申し上げます。




今回紹介する作品は
1961年(昭和36年)日活
「あいつと私」
中平康監督


あらすじ
大学での授業中、高野教授(浜村純)が小遣いの金額と使い道について学生にアンケートをとっているとき、黒川三郎(石原裕次郎)は労働者の1ヵ月分の小遣いをもらって、酒を飲んだり賭け麻雀をしたり、ヌードショーを観たり、偶には夜の女を買ったりする、と喋ったため、女生徒たちから強い反撥を受けてプールに突き落とされた。

お馴染み石坂洋次郎原作作品ですが、裕次郎さんがスキーで骨折後の復帰作品だった為か、かなり豪華な出演陣です。

でも、当ブログは芦川いづみさん中心に書きますので(笑)



主人公・黒川三郎(石原裕次郎)
母親の気まぐれで生を受け、その後も母親の独特な教育方針で育てられる。

私は先にTV版の「あいつと私」を観たので、どうしても見比べてしまいますが、、やはり川口恒さんより裕次郎さんの方が合っていますね。
不良っぽい中に少し弱弱しさがある感じが裕次郎さんにピッタリでした。



浅田けい子(芦川いづみ) 浅田家4姉妹の長女
明るくて優しく、そして清楚。
まさに当時のいづみさんの役にピッタリ!

でも欠点が無さすぎるのかも。
TV版の松原智恵子さんは、かなりの怒りんぼだったので。



学友に、笹森礼子 中原早苗 いづみさん 高田敏江 



中平康監督は非常にテンポ良く撮りましたが、悪ふざけが過ぎるシーンもありました。

バンビ(笹森礼子)が婚約発表して皆で胴上げされるシーン
笹森さんはこの高さから地面に叩き付けられ、そのまま入院したそうです。



吉行和子さんと標滋賀子さんの喧嘩シーン
標さんの腰が、ちゃぶ台に強か打ち付けられています。



浅田家の食卓
いづみさんの横は次女ゆみ子(吉永小百合)と母(高野由美)

映画版の方がTV版よりも断然良いのですが、唯一の欠点は浅田家が登場するシーンが少なすぎる事ですね。
折角吉永さんが出演しているのに、ほとんどチョイ役でした。



三女たえ子(酒井和歌子)と四女ふみ子(尾崎るみ子)
酒井和歌子さんは劇団若草に所属で、これが映画初出演。当時12歳



裕次郎さんを見送る浅田一家
ただでさえ出番が少ないのに和歌子さんは最も扱いが悪かったです。

しかし、この当時から和歌子スマイルは健在でした。



嵐の別荘でいづみさんは、松本みち子(渡辺美佐子)と対面する。
彼女こそ母親の命令で裕次郎さんの「性の世話」をした方で、その後裕次郎さんはその事をカミングアウトします。

カミングアウトは石坂作品の定番ですね。



いづみさんは裕次郎さんを詰りますが、その後二人は初キスをします。
写真はキス後のいづみさん。
最もハイライトシーンです。



デザイナーのモトコ・桜井(轟由起子)

旧姓を名乗り、夫(宮口精二)が居ながら仕事仲間の男(庄司永健)を愛人にして堂々と家に連れ込み、「強い男」の子供が欲しい理由で、阿川(滝沢修)と浮気して裕次郎さんが生まれる。

石坂洋次郎さんはフェミニストですが、こんな女王蜂の様な方が理想だったのでしょうか。
だだ、カラッとテンポよく話が進みますので、そんなに不快感はありませんでしたが。



轟さんはいづみさんに裕次郎さんの出生の秘密を話しますが、裕次郎さんに聞かれてしまいました。
※TV版は知らずに終わります。

その後、突然裕次郎さんは、いづみさんの口を塞ぎ婚約発表します。
口を塞がれながら振り回される、いづみさんの姿が印象的でした音譜


YouTubeにはありませんでしたが、 Dailymotionに「あいつと私」の予告編動画がありましたので
URLを貼っておきます。

http://www.dailymotion.com/video/xl57mn_あいつと私-aitsu-to-watashi-1961-trailer-nakahira-ko_shortfilms