芙蓉の間の怪異現象　～千切れた制服の釦～

僕は論語に言う「子不語怪力亂神（怪力乱神を語らず）」がモットーである。

つまり「理屈では説明できないような現象や存在について語らない」という意味の故事成語だ。原文は「論語」の「述而」。「子」はもちろん孔子を指す。「師は怪力乱神のごとき不思議な・超自然的なことに言及することは決してなかった」と弟子たちが記録したものである。つまり士大夫たるもの「オカルト的な話をするな」という訓戒だ。

「怪力」と言ってもブルーノ・サンマルチノでもドン・レオ・ジョナサンでも、ましてや豊登でもない。そして「かいりき」じゃなくて「かいりょく」と読んでね。理屈で説明できないオカルティックな現象全般を「怪力乱神（かいりょくらんしん）」というそう。

まぁ僕は士大夫じゃないし「中岡俊哉世代」でもあるし嫌いじゃないのだが「オカルトは猥談」と心得ている。つまり大きい声でするものじゃないし、時と場合と相手を選ばなければならない、と。

しかし今日はその禁を破らせていただく。

話は6/15、16と開催した「オオタスセリワンマンライブ」に関してのことである。。

最終回である６月16日(日)の18時開演の回はスセリさんの中学の同級生が何人か集まった。スセリさんの同級生ということは僕の同級生。「国立市立国立第一中学校」という間違い探しみたいな校名の学校。

最終回は打ち上げ付き。僕も参加させていただいた。大いに語り、大いに笑い、そして大いに歌った。

翌朝、スセリさんと僕で「楽しかったねー」「でもそれなりに近所迷惑だったよね」、などと言いながら会場の掃除をした。僕が冗談で「二人で近所にお詫びのご挨拶に回ろうか」と言ったら「うん、ギター持ってね」とスセリさん。それじゃ「門付け」だよ。お米もらったりしてね。

それはともかく部屋の掃除をしていたら部屋の隅にキラッと光るものが落ちていた。金属製のボタンだ。

拾い上げるとこれ、わが国立一中の制服のボタンだ。本の中に「中」の文字の校章。

学校のホームページにもちゃんと表示されている。

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男子の制服の詰襟の釦。ちなみに国立一中の制服はとうの昔にブレザーに替わっている。20年前のうちの子どもらの時代にはすでにブレザーに替わって相当の年月が経っていた。

なんでこんなものがこんなところに・・・。確かにギャラリービブリオは僕の育った家だが僕が出てから40年になろうとしている。そして両親が出てからも四半世紀が過ぎている。その後、いくつかの家族が住んだあと12年前からギャラリービブリオになった。あるわけがないのである。そしてこの「芙蓉の間」も始終、掃除をしている。あるわけがないのである。

スセリさんに見せたら「コメッチとチュウ君に聞いてみようよ」と。

確かに打ち上げに参加していたコメッチとチュウ君も半世紀前、同じ制服を着ていたが。コメッチ（仮名）は生真面目な人で宴席のネタを仕込むようなタイプではない。一方のチュウ君（仮名）は宴席のネタを仕込むタイプでこの日もタブレットに中学時代の写真をいろいろ格納してきた。それだけに逆にわざわざ仕込みで持ち込んだネタを披露し忘れて置いて帰るなんてありえない。

僕の推理は以下のとおりである。

同級生が集まって懐かしい話をしていたら若くして物故した同級生の魂が「芙蓉の間」に現れた、というもの。呼んじゃったのだな。かと言って話に加わることはできないのでここに来た証としてBDバッヂならぬ国立一中釦をそっと置いて彼岸に帰って行ったのだろう。

スセリさんはなおも笑って「コメッチとチュウ君に聞いてみなよ」と言っていたが僕の推理は多分正しい。だからコメッチにもチュウ君にも聞かない。謎というのは解明するためにあるのではなく楽しむためにあるのである。

ちなみにその釦は大きさ的に袖の釦。