今日は当ビブリオの看板シリーズの一つ「説経祭文」興行の一応の最終回にして「YO-EN東京・横浜ツアー2019霜月」の第4弾。「説経祭文あらため妖艶祭文 ~でもね、女はもっとつらいのよ!~」の当日。
大体のセッティングは昨日のうちに終わっている。「すなふきん」ライブが終わってから眠い目をこすって。というか興奮して寝付けなかったので。
朝から、2階からは姜信子さん監修、渡部八太夫師匠の指導での瞽女(ごぜ)唄に挑戦するYO-ENさんの歌声が聞こえてくる。その歌声は深い哀愁を帯びつつもそこはかとない色香を感じさせて…。これはすごいことになりそうな予感。
話は春に遡る。
YO-ENさんが「チャーマァ洋品店」の中のイベント「チャーマァの茶の間」へのゲスト出演を含むミニ東京ツアーでビブリオに滞在していた時。YO-ENさんは僕がブルースハープの松田アリ幸一さんから預かったまま放置していた「瞽女唄」のレコード3枚組を徒然なるままに聞いたらはまってしまったという。
リピート再生しているところにちょうど来られたのが姜信子さん。6月のビブリオライブのフライヤーを持ってこられたのだ。
そこで部屋にこもって聴いていたYO-ENさんを呼んで姜さんに引き合わせたのが始まり。それほど深い意味はない。言うまでもないが、姜信子さんといえば日本の語り芸や民衆音楽、放浪芸にすごく詳しい人。瞽女唄に興味を持ったなら姜さんとお話したらきっと新しい知見に出会えるだろうと。そうしたら期待以上にお二人で瞽女唄の話で盛り上がり、それが結果的にこの企画につながった。初夏に姜さん、八太夫さんが本拠を奈良に移したというのもうれしい偶然。大阪在住のYO-ENさんが行きやすくなった。
14時30分。まずは八太夫師匠が先着。ただちに第2部、つまりYO-ENさんとのコラボのリハーサル。
こういうのを聞けるのが席亭特権。聞くうちにすごいことになりそうな「予感」が「確信」に変わる。
姜さんが来られて第一部の映像のリハーサル。
17時30分開場。予約で満席になっているのだから当たり前だけどたちまち満席。前面の壁面全体をスクリーンにする演出をするために平常よりキャパを少なくせざるを得ないというのもある。お断りした方、ごめんなさい。予約なしの飛び込みで来られた方がいたが申し訳ないけどお引き取りいただいた。電話、メールでのお申し込みを満席でお断りした方がいる以上、ここはシビアに。というか席がないのだから仕方ない。無理に席を作って映像に頭の影が映り込んでは演出が台無しになる。
18時開演。
第一部は源氏説経「小栗判官照手姫 貞女鑑実道記」より、「本陣入小萩説話の段」
説経の演目の大定番の「小栗判官」。八太夫師匠の出自である薩摩派のテキストに従えばことは簡単なのだがそうはならないのが八太夫師匠の八太夫師匠たる所以。名古屋の甚目寺に残る「源氏説経祭文」で語る。薩摩派よりかなり庶民的というか時には下世話で薩摩派では「二度対面」の前半部分ともいうべきところが、おもしろおかしく一段分に増補されて、「本陣入小萩説話」なる段となっているという。
愛する夫・小栗判官は実の父親に毒殺されて地獄に落とされ、照手姫自身も川に流され、ようよう生きのび、あちこち転々、美濃の青墓の万屋長右衛門に買われて、水汲みの下女となっていたそのとき。
死んだ夫に操を立てる貞女をわざわざ指名して、酌をせよと言う男は何者か? 酌に出ざるをえなくなった照手の身にいったい何が起こるのか?
ド迫力の語り、重厚な三味線に圧倒される。で、いながら独特の軽みに転がされる至福のひと時。客席最後列端の椅子で真剣な表情で聞き入るYO-ENさん。
休憩を経て第2部。タイトルは「YO-ENちゃん×八太夫ちゃん」。
当初から「YO-ENが瞽女唄に挑戦」というプランはあったものの果たして当日まで仕上がるかどうかが不明だったのでフライヤーは上記のようになっている。
YO-ENさんは闇を思わせる漆黒のロングスカートと白いブラウスで登場。頭には白狐のお面をちょこんとつけて。白のブラウスももちろん白狐のイメージだ。
一曲目は民謡・俗謡の「磯節」。元は漁師や船頭の労働歌だったがお座敷でも多く歌われ瞽女唄にも採用されている。八太夫師匠の伴奏で。
「サイッショネー」の掛け声が色っぽくかわいらしい。
続いては演歌に挑戦。金田たつえの「瞽女の恋唄」をギター弾き語りで。
それに八太夫師匠が太棹とセリフで絡む。これは弾き語りのレパートリーに加えるべきだな。演歌だけどYO-ENさんが歌うから演歌にならない。
三曲目は大ネタ。ハンセン病国賠訴訟の原告団協議会会長で詩人の谺(こだま)雄二氏と母の物語と「葛の葉伝説」「信太妻伝説」を融合させた姜さんの詩「母を想えば」を語り用に再構築したもの。狐をイメージさせる今日のYO-ENさんの拵えの意味はこれ。「葛の葉伝説」「信太妻伝説」は陰陽師・安倍晴明の母は信太の森の千年狐で・・・というもの。
時折挟まれるYO-ENさんの「母は信太へ帰るぞええ」のセリフが哀切の極み。
この原詩は姜さんの著書『声 千年先に届くほどに』(ぷねうま社・1980円)収録。
最後はYO-ENさんのオリジナル「流星花」を弾き語りで。これに八太夫師匠が太棹で絡む。
かなり実験的な公演だったが見事に成功した。昨日は「すなふきん」で共演者を引っ張り座長の貫禄を見せたが、今日は名人に全力でぶつかった。物怖じせずに。お見事。そしてそれを真正面から受け、稀有な歌声の持ち主・YO-ENさんのポテンシャルを最大限引き出した八太夫師匠の横綱の貫禄もお見事。そしてそれらを演出して一つのものにまとめ上げた座付き作家・姜信子さんもお見事。3者が全力を出し切った。すごい人たちだなぁ。僕のような平凡な人間がこんなすごい人たちと仕事ができる幸運は感謝しないといけないな。
終演後はテーブルを並べて打ち上げ。より深い芸談をうかがうことができた。説経祭文語りや瞽女は「マレビト」として遇されていたことを教えていただいた。変化のない田舎の村に時折、芸能と新たな文化を運んでくれる存在だったと。
マレビト===時を定めて他界から来訪する霊的もしくは神の本質的存在を定義する折口学の用語。折口信夫の思想体系を考える上でもっとも重要な鍵概念の一つであり、日本人の信仰・他界観念を探るための手がかりとして民俗学上重視される。(ウィキペディア)
そして珍客。先日、僕の自宅から発掘された30年物の梅酒。いや、ツレは存在に気づきつつずっと見ないふりをしていたらしい。僕は忘れていた。
これを打ち上げに投入。まろやかでフルーティーと好評だった。
そして今宵のビブリオは臨時の瞽女宿として演者の皆さんにお泊りいただく。
これにて「説経祭文」シリーズは一応の最終回。「YO-EN東京・横浜ツアー2019霜月」ツアー。は8公演中4公演が無事に終了。でもツアーはまだまだ続く。
------追記--------
翌朝僕が「出勤」すると八太夫師匠は次の仕事先へ向けて出立しておられた。そして部屋のホワイトボードにはこんな書置きがあった。
よかった。またふたたび「マレビト」をお迎えできる日が来そうだ。
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