歴史と科学、新発見と再評価 | 高校日本史テーマ別人物伝 時々amayadori

高校日本史テーマ別人物伝 時々amayadori

高校日本史レベルの人物を少し詳しく紹介する。なるべく入試にメインで出なさそうな人を中心に。誰もが知る有名人物は、誰もが知っているので省く。 たまに「amazarashiの歌詞、私考」を挟む。


○『広重ぶるう』


◇読売新聞 2024.3.10(日)朝刊
 15.くらしサイエンス 面「科想空感」より

〖 紺青の顔料  思わぬ使い道 〗

 古い町並みが残る東京都内某所に住んでいる。醍醐味の一つは、自宅付近が歴史小説や時代劇の舞台になることだ。当時の情景や風俗はどうだったのか。散歩しながら想像を膨らませる。
 江戸時代に描かれた浮世絵と現代を見比べるのも楽しい。歌川広重(1797~1858年)の代表作「名所江戸百景」は、桜を見下ろせる花屋敷など、情趣に富んだ風景が我が家の近くに広がっていたことを教えてくれた。

 広重の人生を題材にした小説「広重ぶるう」(梶よう子 著)は話題となり、今月テレビドラマが放送される。江戸百景の透明感ある「ぶるう」の空や川を可能にしたのは、人工顔料「プルシアンブルー(PB)」だ。18世紀はじめにベルリンで発見され、「ベロ藍」と呼ばれたPBは、広重や葛飾北斎らが描く浮世絵で、青をより青くみせるのに欠かせないアイテムだった。

 この顔料、意外なところで再評価が近年進んだ。2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故で広範囲に飛散した放射性セシウムの吸着材料としての使い道だ。ジャングルジムに似た格子状の構造をしていて、隙間にセシウムのような大きさの原子や分子を格納しやすい。
 東京大の坂田一郎教授らは、複合材の材料として注目されていたバイオ素材「セルロースナノファイバー」とPBを組み合わせてスポンジ状の吸着材料を開発。水に溶けやすいというPBの弱点を克服した。

 着想の裏側には浮世絵の存在があったという。「100年以上前に刷られた作品が、退色していない。和紙のセルロースとの相性でPBが水に溶けにくくなったことを、浮世絵は図らずも証明していた」と坂田さん。電極材料やアンモニアの吸着材などとしての応用研究も進み、伝統的な顔料が時空を超えて再び脚光を浴びつつある。
 未曽有の原発事故から13年。核燃料デブリの試験取り出しが再三延期になるなど、廃炉の行方は不透明で、なお避難生活を続ける被災者も数多くいる。澄み切った気持ちで、福島の紺青の空を見上げられる日はいつ来るのだろう。

(写真1:歌川広重の名所江戸百景「日本橋雪晴」。プルシアンブルーによる青色が印象的だ)

(写真2:プルシアンブルーを使ったセシウム吸着スポンジ)

 (執筆:野依英治)



 ふおおぉぉ、なんて懐深い文章なんじゃあ・・・!

 なんか渋いオッチャンがそぞろに歴史絡みの世間話をし始めたと思ったら、今月の特番ドラマの告知で。自然にその主題となる近世発の青色顔料に言い及んだと思ったら、いつの間にやら2011年の原発事故の話題に飛んでらぁ。
 さて後半は科学的な説明が並び、プルシアンブルーの基本構造を活かした新素材開発の紹介とその着想の浮世絵との関係を述べ、今なお放射性物質との戦いが続く福島の空に繋げてみせましたぜ。

 情報量が多すぎる・・っ!

 執筆者の読売新聞科学部記者・野依英治(のよりえいじ)さんの平明な語り口に乗せられてサラッと読んでしまいましたが。
 もっと詳しい科学的説明は下記サイト↓でどうぞ~。
*ちなみに「プルシアン」はドイツ近辺の旧名「プロイセン/プロシア」からと思われる。「“ベロ” 藍」はプロイセン首都「ベルリン」からかな?

◇産総研(産業技術総合研究所)マガジン:魅惑のプルシアンブルーに秘められた「未来を変えるチカラ」



○ 2011.3.11~

◇NHK Eテレ『サイエンスZERO』
 初回放送(日)23:00~
 再放送:(土)11:00~


◇「シリーズ原発事故2024 ①
 最新報告 汚染水・処理水との戦い」概要
 初回放送:2024年3月10日


 事故発生から13年をむかえる福島第一原発。その廃炉へ向けた取り組みと、科学の最前線を2回シリーズで伝える。
 第1回は海洋放出がはじまった “処理水” と、その発生源である “汚染水” をめぐる戦いにせまる。現場では1日90トン発生する汚染水を少しでも減らそうと模索が続く。さらに今、汚染水の処理過程でうまれる高濃度の放射性廃棄物 “スラリー” の問題が顕在化。
 はたして安全な処理・保管方法は確立できるのか?


◇「シリーズ原発事故2024 ②
 最難関 取り出せるか “燃料デブリ” 」概要
 初回放送:2024年3月17日
 再放送:同月23日(土)


 福島第一原発の事故から13年。去年、廃炉の本丸「燃料デブリの試験的な取り出し」が始まろうとしていた。しかし、堆積物に行く手を阻まれ、計画は大幅な見直しを迫られることに。廃炉はいつ達成できるのか?
 いま科学者たちも模索を続けている。メルトダウンの状況を研究室で再現し、燃料デブリの「未知の性質」を解明することで、安全な取り出し方法や保管技術につなげようとしている。
 燃料デブリとの戦い、その最前線を追う。




 映画『オッペンハイマー』では歴史人物の個人の視点や胸中の葛藤に焦点を絞っていて十分に明示されてはいませんでしたが。80年ほど前までは万能の科学技術と持て囃された原子力をめぐる現在の状況は、お世辞にも明るいものとは言い難いと思います。
 日本人にとっては特段の思い入れ深さ、ヒロシマ・ナガサキの原爆、ビキニ環礁水爆実験での第五福竜丸の被爆、時々の臨界事故、福島第一原発事故、そして現今世界の核兵器の脅威と。それでもなお効率的なエネルギー生産方法としての原子力発電への期待と依存、核保有国であるアメリカとの同盟関係。
 一つ確かなのは、原発事故はまだ終わってはいないということだけ。

 日々の新しいニュースに押されて徐々に風化していく被災地への関心とは裏腹に、今なお原発事故の現場で廃炉や排水処理の危険な任務に従事する作業者たちがおり、科学的に放射性物質・廃棄物を安全な形で除去・保管する方法を模索する研究者たちがいる。
 先鋭的な科学は人類の存続を脅かす悪魔の力となり得る、その一方で、行き過ぎを抑える叡慮と他者の苦痛への想像力があれば、科学は人々の困り事を解決し生活を豊かにする利器にもなり得る。
 果てしなく発展する科学技術の手綱を握るのは、最終的にはやはり人間の智恵と心持ちであると思う。


○再び『広重ぶるう』

 あっ、NHKの初回放送は〈BSP 4K〉だ。ウチ4K無いから視聴はもう少し先になりそう。くっ、行き過ぎた高画質放送技術の進歩め・・っ!

◇NHKドラマ『広重ぶるう』
〈BSP 4K〉
 2024.3.23(土)22:00~
〈BS〉
 2024.4.27(土)20:40~


◇『広重ぶるう』梶よう子
 新潮文庫 2024年(単行本 2022年)



○富雄丸山古墳

 さてここまで「歴史的物品の科学的再評価」の一例を見てきましたが。最近の「歴史上の大発見」といえば、続々と新発見が出ている「富雄丸山(とみおまるやま)古墳」でしょうか。

 奈良市にある富雄丸山古墳では令和に入ったごくごく最近、驚くべき発掘成果が相次いで報じられている。
 令和2年から行われてきた数次の発掘調査での出土品により、同古墳は4世紀中頃の築造であると推定されている。時代区分としては古墳時代前期の終盤に当たり、その頃から奈良・大阪周辺では大型古墳が造営され始めている。その古墳大型化の走りの時期に、日本最大規模の “円墳” として造られたのが富雄丸山古墳だ。

 その富雄丸山古墳から日本考古学史上でもビッグエポックと目される大発見が報じられたのが、つい昨年の事。令和4年からの第6次調査で、国内最古にして古代東アジア圏でも最長の「蛇行剣(だこうけん)」、他に類例のない形態の「ダ龍文盾形銅鏡(だりゅうもんたてがたどうきょう)」の2点が出土した。
 *「ダ」はなんか難しい漢字、「黽偏」で読みは「タ」みたいだけど変換できず。蛇のような怪異な神獣の姿形を表すそうで。

 更には現在行われている第7次調査において、上の2点の下に位置していた粘土槨(ねんどかく=粘土の覆い)の中の木棺(もっかん=木製のひつぎ)から、青銅鏡・漆塗の櫛・水銀朱(朱色の顔料)などの副葬品が出てきた。
 粘土に覆われていたことから木棺内が無酸素状態になっていたこと、また溶け出した青銅の殺菌効果などが作用してこれら出土品の保存状態は良好で、これからの科学的分析にも期待が高まる。

 出土品が今までに類を見ない珍しい品々であることに加えて、富雄丸山古墳の築造年代も注目のポイントになっている。

 4世紀中頃といえば、3世紀中頃の「邪馬台国・卑弥呼・壱与/臺与、魏志倭人伝」の時代、5世紀の「讃・珍・済・興・武の倭の五王、宋書倭国伝」の時代に挟まれて、中国史書の記述が少ない薄明の時期とされている。
 この時期、中国は中国で魏晋南北朝時代の長引く戦乱の世に入っていた。外交関係は混乱し、広域で統一的な史書の編纂にも支障をきたしていたものと推察される。一方、朝鮮半島には4世紀末から半島南部に進出してきた倭の軍勢を撃退したことを記す「高句麗:好太王/広開土王の碑文」が残る。
 つまり4世紀末には海外進出するほどに有力な政軍勢力が日本国内に成立していて、既に4世紀前半にはヤマト王権の原型は出来上がりつつあったのだろう、と。

 ただ、この時代については考古学的蓄積が無いわけじゃないんだけど詳しい様態がくっきり判明してるわけでもなく、ちょっとポヤッとしてた範囲である。そこにきてここ最近の怒濤の新発見ラッシュは、にわかに古代史ロマンを掻き立てるに十分なインパクトであった。
 まだまだ発掘調査は緒に就いたばかり、これからまた新たな驚きが掘り出されるかもしれない。あんまり最近すぎて、富雄丸山古墳についての情報が学校教科書に載るのはまだ少し先になりそうだけど。その頃には更なる進展を見せている、かも?

 と、ここでも詳しい情報は下のサイト↓をご参照下さい~。

◇奈良市公式サイト
 「富雄丸山古墳 プレスリリース速報・まとめ情報」
 発掘の様子や遺跡・出土品などの詳細な動画も公開中!↓



 「プルシアンブルー」の方は1704年に人工合成に成功したものが顔料として出回り海を渡り、19世紀前半の広重や北斎の作品に用いられた。それが時を超えた21世紀の先端科学によって新たな一面が発見され、これまでとは全く異なる分野での用法が追究されている。
 片や富雄丸山遺跡、1600年以上もずーーーっと地中に埋まってたものがこの21世紀に発掘されて、世紀の大発見となるや?

 ちなみにこんなムックが近刊されておりまして。なんでも「訪ねてみたい古墳 最新ガイド」ということで、国内の百名墳を紹介するもの。っていうか「名墳」なんて修辞がもの珍しすぎて、変換機能が反応してくれませんでしたが。
 「歴史能力検定:日本史」で古代史、特に遺跡の問題にからきし弱い当方としてはちょっと気になっている所であります。読めば対策になるかなぁ?

◇中公のムック『歴史と人物⑱ 日本百名墳』中央公論新社 2024年
〖 全国16万基から厳選、これが「古墳」の最前線!〗



 というわけで今週末 23日(土)はお昼近くにNHK Eテレ『サイエンスZERO』再放送、夜には『広重ぶるう』がやりますね、〈4K〉視聴環境があれば・・・。くっ、高画質至上主義の蔓延め・・・!


*後日追記
 同じく今週末にこんなの↓がやるそうです。

◇『NHKスペシャル』
「古代史ミステリー 第2集 ヤマト王権 空白の世紀」
初回放送:2024年3月24日(日)
 21:00~21:50

〖 相次ぐ新発見! ヤマト王権と倭の五王の謎に迫る 〗

【番組概要】・・
 古代史の謎を解くカギ「空白の4世紀」に何が!? “ 国宝級の発見 ” 東アジア最大の「蛇行剣」や前例なき「盾形銅鏡」が明かす驚きの技術革新。・・・他