○拝啓、清原果耶様
2024年に入っても益々ご活躍のご様子、いちファンとして嬉しく思います。途切れることなく出演が続く映画やドラマや舞台の報、最近ではCMや雑誌インタビューにも多く登場し、いよいよ多忙を極めていることと存じます。
マジかよ、5月に出演映画が2本立て続けに出るぜ・・ッ! PRでテレビに出ずっぱりになりそうなこの皐月。
◇舞台『ジャンヌ・ダルク』完走
◇日本台湾合作映画『青春18×2 君へと続く道』藤井道人監督
2024年5月 日本公開
◇時代映画『碁盤斬り』草彅剛さんと父娘役で共演 2024年5月 公開
・・なんて前口上もほどほどに、もひとつおまけに過去の出演作の再放送が急遽告知されたんでさっそく載っけていきましょう!
◇『透明なゆりかご』再放送告知
沖田×華と安達奈緒子で紡ぐ命の物語
— NHKドラマ (@nhk_dramas) 2024年1月23日
【#透明なゆりかご】
2月から放送の「お別れホスピタル」の前に一挙再放送!
1/28(日)午前0:30※土曜深夜 1~4回
1/29(月)午前0:25※日曜深夜 5~8回
1/30(火)午前1:20※月曜深夜 9回・最終回
[NHKプラスで配信]https://t.co/bUuVybKuPNhttps://t.co/3x1iAAnvjs
・・ってゆーか今夜(土曜深夜)からなんですけどね、一挙再放送の初回。(*NHKだから律儀に「初回は28日(日曜)」って表記ですが騙されちゃいけやせん、日曜未明なんでつまり「土曜深夜」でゲス。)
土曜深夜でNHK総合といえばアニメ『キングダム』。虐殺将軍・桓騎(カンキ)の大人の戦いを見せつけた直後に、命の重みを扱うこのドラマを連続して流すと? 正気かNHK!?
・・あっ待って、間にミニアニメ『オチビサン』が挟まってる。良かったそれなら大丈夫、絶妙に空気が入れ替わるからひとまず安心ですね本当に良かった・・・。
『透明なゆりかご』(2018年)は清原果耶が天下のNHKに唸りをあげて吶喊し視聴者の心に深い爪痕を残したヒューマンドラマ、お茶の間にその威名を轟かせるきっかけともなった名作。こちらについてはまた後に触れたいと思います。
○清原果耶→amazarashi
さてNHKで清原果耶といえばまず朝ドラ。俳優としての初出演となった時代劇『あさが来た』(2015年年)、続く『なつぞら』(2019年)、そして満を持してヒロインをつとめた『おかえりモネ』(2021年)がありますね。
で、その『おかえりモネ』撮影の時期に、こんな風にインタビューに答えておりまして。えぇそりゃもう、今回もバッチリ amazarashi に強引に結び付けていきますからね!
◇『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 おかえりモネ Part1』
NHK出版 2021年
「清原果耶さんに質問!」
Q.朝の日課は?
A.スピーカーで音楽を流しながら朝の支度をしています。好きなのは、「amazarashi」というバンド。歌詞のことばが強くて、朝からしんみりしちゃうのがまたいいんです。
◇ティーン誌「Seventeen - Web」
「清原果耶 amazarashi」でサイト内検索すると5件ヒット!
・・まぁ、amazarashi の名前を挙げてるの清原果耶さんだけなんですけどね! だから「amazarashi」検索だけでも、出てくるの清原さんの記事5件だけという・・・。
amazarashi を今もよく聴いてるのかな? それは分かりませんが。少なくとも10代後半から集中して聴き込んできたヘヴィリスナーであるとのこと。
その聴き初めたきっかけは、出演作で何やらシリアスな役を演じることになり、その役作りのため深く落ち込んだ心境に浸れるような曲を探している中で amazarashi曲にたどり着いたとか。どの役でしょうかね?
いや清原さんは年齢の割にはシリアスな役を演じる機会が多く、社会派だったり展開がシビアだったりする作品にもこれまで多く関わってきた。そんな縁が繋いだ出会いかもしれません。
( 2021年映画『護られなかった者たちへ』では生活保護行政に従事するケースワーカー役、怨恨殺人事件の根幹に関わるキーマンを演じた。
清原果耶、なんて重たい星を背負って生きている人なんだろう・・・。あっ、役か。普通に胸キュンラブストーリーとかにも出てます。)
○清原果耶→『夏への扉』
そんな清原果耶さんが『おかえりモネ』放送のちょっと前、2020年頃までに撮影してたのが映画『夏への扉』。主演は山崎賢人さん、清原さんはその主人公にとって特別な存在となる女性を演じた。
◇映画『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』公式サイト
ここで映画原作である『夏への扉』の基本情報を。『夏への扉』はアメリカの作家、ロバート・A・ハインラインが1956年に誌上発表したSF小説。58年には日本でも刊行され、翻訳版は最初講談社から、現在では早川書房の新版が入手できる。
◇『夏への扉(新版)』早川書房
ハヤカワ文庫SF 2020年
原作はタイムトラベルSFの傑作として名高く、しかも日本で特に人気が出た。設定にSF要素がふんだんに盛り込まれているのは勿論のこと、ストーリーの方には人と人との温かな交流や人情の機微がいろどり豊かに織り込まれており、この「人情噺」に類するウェットな部分が日本人の感性に合ったものだろうか。歌舞伎や落語でも「人情物」は根強い人気があるし。
そんな事情で昭和後期の幾度かのSFブームに乗って『夏への扉』は日本でもよく知られるようになり、多くの派生作品を生んだ。またその「タイムトラベル」や「過去/未来改変」の要素は、世界中の後進SF作品に多大な影響を与えたという。
そして日本で2011年、世界では初となる舞台化が実現した。権利を獲得して上演したのは演劇集団「キャラメルボックス」。
2011年2~3月に同名『夏への扉』として公演、3月の東日本大震災発生で一時休演したものの舞台は好評を博した。2018年3月には再演も行っており、また2011年版はDVD化も果たす。
清原出演の映画『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』の製作陣や俳優陣も、この先行する舞台版を意識して参考とするところ大であった、かもしれない。そもそも原作が日本でも人気だから演劇作品化を狙っていたり、映像化の構想を暖めていたクリエイターや役者は多かったかもしれないが。
それでも演劇界での「キャラメルボックス」の知名度もあり、評判を聞き及んで観に行っていた芸能関係者も多かったことだろう。映画撮影に当たり舞台版の内容をチェックした俳優も当然居たと思う。
えっ、そんな演劇界の話題のどこに amazarashi が関係すんのかって? 関係大アリですがね、旦那!
キャラメルボックス舞台版の2011年初演時、劇中のダンス曲として amazarashi『奇跡』が流れたと!
嘘じゃありやせんぜ旦那、主宰者側の証言もありまさぁ↓。
◇キャラメルボックス『夏への扉』初日時点曲目リスト
◇キャラメルボックス『流星ワゴン』使用曲目
しかもこの2011年、メジャーデビュー間もない新鋭バンドだった amazarashi にハマってたスタッフが居たものか、同年11月の冬公演『流星ワゴン』(重松清原作)という演目でも、amazarashi曲『クリスマス』を使用するという暴挙・・壮挙に出た!
どちらも中々にパンチのある曲。これを劇中にブッ込んでいくとは、ずいぶん尖った演劇集団だなぁキャラメルボックス。
*(先述DVDの収録回に劇中曲『奇跡』が入っているかは未確認、現在廃盤になっているようなので入手は困難?)
○上川隆也→amazarashi
そんなキャラメルボックス出身でテレビでもお馴染みの俳優、上川隆也さん。
そも小説『流星ワゴン』を同劇団で舞台化したいと最初に提案したのは上川隆也さんだったということだが、2000年代半ばに企図したもののこの時はやむなく断念したという。しかし上川さんが2009年に退団した後で舞台化が実現した。
上川さんは登板していないのだが、古巣で念願だった演目がかかるなら観に行ってたやもしれず。上川さんは退団後にもキャラメルボックス舞台に呼ばれたりしているし、他の出身俳優との交友も変わらず保っていた模様。ならば舞台『流星ワゴン』で amazarashi『クリスマス』を耳にした可能性もあるか?
更にちなみに、上川さんといえば芸能界でも屈指のアニメ好きとして知られる。ならば amazarashi のアニメタイアップ曲も、そのほとんどを知悉しているだろうと考えられる。たぶん知ってる。
もひとつおまけに、NHK大河ドラマ『功名が辻』(2006年)にて主人公の山内一豊(ヤマウチカズトヨ)を演じた上川さん。W主演の仲間由紀恵さん演じる妻・千代の内助の功に支えられ一国一城の主へと立身出世していく物語の中で、捨て子を養子として引き取り「拾(ヒロイ)」と名付けて夫婦で育てていく。
その幼少期の拾を演じたのが俳優の泉澤祐希(いずみさわゆうき)さん。その泉澤さんが『功名が辻』から13年後に出演したミュージックビデオがこちら↓。
・・・奇跡?
○上川隆也→泉澤祐希→amazarashi
○清原果耶→沖田✕華
話を脇道に戻しましょう。えぇ、この話に本筋はありません、ずっと脇道にそれてます。そんな感じの私の人生。
さて先述のNHKドラマ『透明なゆりかご』。脚本は後に同じNHK『おかえりモネ』でも清原果耶とタッグを組む安達奈緒子(あだちなおこ)さん、そして原作は沖田✕華(おきたばっか)さんの同名漫画。
(ところでお名前の「✕」の大小はどうでしょうか? 「×」と「✕」の中間くらいの大きさにしたいんだけど見当たらないので、今回は「✕」で通します。)
◇『透明なゆりかご 産婦人科医院 看護師見習い日記』沖田✕華 講談社KISSコミックス
◇「認定NPO法人 フローレンス」
沖田✕華さん インタビュー
名作だから何度繰り返し見ても良い作品ですが、今回の再放送には特段の事情がありまして。
沖田さん原作の同じく医療マンガ『お別れホスピタル』がこの2月にNHKドラマとして放映されることがアナウンスされました。脚本は再び安達奈緒子さん。
◇『お別れホスピタル』
2024年 2/3(土)スタート!
NHK総合 夜22:00~、全4話
◇「週刊スピリッツ」ドラマ化
『お別れホスピタル』は現在「週刊ビッグコミックスピリッツ」にて月イチ連載中の、ホスピスの現場を舞台として入院患者たちやそこで働く人々のあれやこれやを赤裸々に描く終末期医療マンガ。
詳しい内容はまぁ、折角すぐに放送が始まるんだからそっちを観てくんなまし。主演は岸井ゆきのさん、松山ケンイチさんが脇を固め、終末期病棟の一癖も二癖もある医師・看護師らや一筋縄ではいかない患者とその家族をベテラン俳優たちが熱演する、はず。
(最新情報:原作者の沖田✕華さんがドラマのどこかにチョイ役で特別出演とのこと! オキタバッカの人を探せ!)
漫画連載の方は毎週掲載じゃないんでよっぽどの「スピリッツ」愛読者でもないとなかなか誌上では巡り会えないが、沖田さんの人気からコミックスも好評を得ている。
「スピリッツ」といえば『チ。』『アオアシ』『新九郎、奔る!』など実力作を揃え、それらを読んでいった後で月イチくらいの割合で運が良ければ出会えるボーナストラックみたいな存在? 重いテーマにも関わらず不思議に癒やされるから、たまにでも読めると嬉しい。
だがしかし。『お別れホスピタル』ってぇくらいだから終末期医療のリアルをふんわりしたタッチで描いているのだが、そこは題材が題材、舞台が舞台、やっぱりしんみりしたりシュンとなったり、ゾッとしたりカンカンになったりと中々にハードな人生の修羅場が次々と現れてくる。
アレッ、癒やされるどころか、もしかしたら「スピリッツ」で一番スリリングなマンガなんじゃ? そんな読後感を抱くくらい濃密な中身となっております。ほんわかした絵柄に惹かれて軽い気持ちで読み始めると痛い目に遇う。
そんな『お別れホスピタル』の「スピリッツ」連載開始時の広報の一部がこちら、他誌ではあるが前作『透明なゆりかご』を念頭に置いて。
「 “産まれる命” の次に挑む新境地は “死” の一番そばにある病院・・終末期病棟(ターミナル)。」
なんか amazarashi『奇跡』の冒頭みたい。
◇『奇跡』
〈今夜、生まれてくる命
と死んでしまう命
そして懸命に輝く命と
無駄に生き長らえる僕
「こんな夜は消えてしまいたい」
とよく思うけれど 〉
○沖田✕華∽amazarashi
えっ、いくらなんでも沖田✕華と amazarashi に接点は無いだろうって? さすが旦那、お目が脂肪酸。
そうさなぁ。無理やりこじつければ、「 “命” の重みを真正面から見据えて作品に投影している」ってぇ所が似ていなくもない、かな?
接点というか何というか、かつてある瞬間に、奇跡的な発想の一致が起こったことがあるんですよぅ。
い・・いや・・体験したというよりはまったく理解を超えていたのだが・・・。あ・・ありのまま、その時に起こった事を話すぜ!
2年前の2022年4月13日、amazarashiフルアルバム『七号線ロストボーイズ』リリース。その収録曲である『アダプテッド』は、amazarashi のキャリアの中でも随一と言えるくらいブッ飛んだノリと詞藻に満ちた快作/怪作であった。
公式動画が無いから曲容はそのままは掲げられないけど、歌詞を一瞥しただけで相当キレキレのヤバいブツであることが伝わると思う。一部を取り出して見てみよう。
◇『アダプテッド』歌詞
〈主義主張 躁鬱シャーマニズム
段ボールハウス居住サルトル 〉
〈出会いと別れ 切符切りそびれ
ホスピス横たわり終末医療 〉
〈身辺整理 七つ目の夜に
鉄道唱歌 口ずさみ行こう 〉
〈苔むす生に串さして
哲学たちんぼ とおりゃんせ
とおりゃんせ とおりゃんせ
笑う音が いとおかし
あなたがいれば
死んでもいいか
死んだらどうか
相談しよう、そうしよう!〉
ねっ?
何がブッ飛んでるって、躁病的にハジけた曲調もさることながら。歌詞各個の関連性のなさ、繋げ方並べ方の脈絡のなさが、凄まじいイメージの飛躍を愉しげに強要してくるこの詩のダイナミズム。
何があったんだ秋田ひろむ? 何か悪いものでも食べたんだろうか?
しかし「発想・表現の “飛躍”」ということは詩作の歴史においては常に考慮される要諦、詩の命の一つであった。
◇「webちくま」歌人 穂村弘連載
「絶叫委員会」【第145回 言葉の距離感】リンク↓
現代の歌人がこのような益体もない思案を逍遙させる程にポピュラーだとも言える、詩歌句における「飛躍」。
また近代詩人の三好達治も、初学者向けの詩の入門書の中でこのように言及している。
◇『詩を読む人のために』三好達治 岩波文庫版
「夕ぐれの時はよい時」項より
こういうことこまかな、解析的な、いわば穿鑿(せんさく)的なやり方はともすると説明的に堕するおそれがあります。説明は “うた” になりません。“うた” は散文を怖れます。
詩における解析は、数学の場合とちがいます。かならずしも精密と周到と、石橋を叩いて渡るような間違いのなさとを要しません。省略と、飛躍を要します。快適な “はずみ” を要します。機智を要します。それらによって、精神が特異な情態にめざめることを要します。
詩はつねに、何ものか、意想外なものの不意打ちなしには成りたちません、これは外貌の如何(いかん)にかかわらず。
(引用終わり)
「飛躍」さえあればそれはそのまま詩、とはならない。「飛躍」は “うた” にとって一つのエッセンスに過ぎない。
だが「飛躍」に乏しい詩は魅力に乏しく、「飛躍」に消極的な和歌・俳句もまた理知に足をとられて読者の想像力を喚起するに非力となるだろう。例え “うた” の中にストーリーラインがあるような場合にも、「飛躍」を忘れればそれはただの叙述の散文と化す。
しかしその創作には試行錯誤が必要である。あんまり「飛躍」に傾きすぎるととッ散らかった印象になり、作品としてのまとまりに欠ける。また全体のバランスを整えようとすると、ともすれば取り合わせの妙味が損じてしまう。
しかも amazarashi の場合はメロディーに乗せた歌唱、バンド演奏にも繋げなくてはならない。詞語だけでなく韻律、呂律、語感、響き合い、など実演にまつわる多くの因子にも目配りせねばなるまい。
果たしてそんな苦心の末に産み出したものか、はたまた勢い任せに即興で仕上げちゃったものか? それは秋田ひろむのみぞ知る話。それにしても改めて、よくこんな支離滅裂な事象断片の組み合わせ方をしたものよ。
・・うん? 〈段ボールハウス居住サルトル〉は見覚えがあるぞ?
サルトルといえば20世紀フランスの現代哲学の巨人ですが、そこじゃなくて。ゲーム『NieR:Automata』の中で、哲学者サルトルに想を得たであろう作中キャラとして出てきましてね、機会生命体なんですが。
元は戦闘用ロボットなんだけど戦いを厭うて森の中にある平和志向のコミュニティに属してて。しかも段ボールハウスみたいな質素な小屋に居住し、難渋な思惟にふけっているという設定。
おや、ちゃんと居ましたね〈段ボールハウス居住サルトル〉。盟友・伴侶であるはずのボーヴォワールがゲームでは大変なことになってましたが。
◇ NHK総合『ゲームゲノム』
『NieR:Automata』紹介
2024年 2/21(水)放送予定
いやいや、秋田ひろむもゲーム『NieR:』シリーズの愛好者で、『NieR:Automata』とも浅からぬ縁がありますし。ちょっとした符合といってもこれくらいでしょうよ。
ご覧くだせぇ、他の歌詞の取り合わせの妙を。出鱈目に思い浮かんだ言葉を書き殴ってるようにしか見えないでやしょ?(←貶しているわけではない)
〈ホスピス横たわり終末医療〉
〈とおりゃんせ とおりゃんせ〉
どうです、この組み合わせなんか特に奇想天外でしょう。ふつう、こんな2事を同列になんか並べやしないって!
それにしても『アダプテッド』には昔懐かしい「童謡/唱歌」がいくつかそのまま取り込まれていますね。
〈鉄道唱歌 口ずさみ行こう〉
〈とおりゃんせ とおりゃんせ〉
〈相談しよう そうしよう〉
「鉄道唱歌」そのものは百何番もあるものすげー長い歌だし、さすがに現在では耳にする機会も極端に少ないからか固有名詞だけの登場で。
また「通りゃんせ」「花いちもんめ」はどちらも江戸時代には既に成立していたという古~い「わらべうた(童謡)」。大正・昭和初期に音源化され一般的な児童歌となり、更に昭和後半にNHK『みんたのうた』で少年少女合唱団が歌って全国的にポピュラーな童謡となった。
地域によってはバリエーションで細部が異なることもあるんだけど、たいていは「とおりゃんせ」「相談しよう、そうしよう」でどこでも通じる普遍性をもった定番の国民歌である。
それを先鋭的な最新曲の中にブッ込んでくるとは、凄いな amazarashi! と感嘆していたのも束の間の2022年6月。まさか、あんな事が起こるなんて・・・。
◇「週刊スピリッツ」22年 NO.30(6/27 発売号)掲載
『お別れホスピタル』「カルテ50:宮本達郎さん」より
主人公の看護師、辺見歩が勤務する終末期病棟(ターミナル)。辺見が夜勤中に仮眠をとっていると、何やら声が聞こえてきて・・。
「・・・りゃんせ・・・
・・・・・・せ・・・・」
「こーこは・・・
どーこの・・・
ほそみち・・・」
「天神~様の~
細道じゃあ~
ちょーっととおして、
くださんせぇ~~!!」
「ごようのないものとおしゃせぬ~、このこのななつのおいわいにー・・・」
歌っているのは宮本達郎さん(81歳)。慢性肝不全と認知症の悪化により1週間前に終末期病棟に転院。以来、ずっと夜通し歌い続けている。
辺見:「宮本さん! 宮本さん・・今、歌ってましたよね!?」
宮本さん:「いや・・ワシ知らん! 歌っとらん!」
そして人が来ると静かになるのだ。
辺見:「あのね・・宮本さん、その歌怖いから。夜は寝てくださいね。」
「そのまま静かにしててくださいねー・・。」
(そう言い病室を出ると途端に)
宮本さん:「お札を納めにまいりますー、行きはよいよい帰りは・・・」
困り果てるスタッフ及び他の入院患者たち。たまりかねた患者の遠藤武光さん(58歳)の申し出で、遠藤さんを宮本さんの隣のベッドに移して歌い始めたら注意してもらうことに。
宮本さんが歌い出した時に遠藤さんがやんわり恫喝するとピタリと歌い止み、いったんは平穏が戻ったかに見えた。しかし3日後、前よりも大きな歌声が響いてきて・・。
なんと遠藤さんは宮本さんと同室して3日目で、一緒に歌うようになってしまった。
赤子の手をひねるよりたやすくミイラ取りがミイラになっちゃった遠藤さん、元の部屋に戻される。
次に宮本さんの隣のベッドに越してきたのは植物状態の吉田庄三さん(79歳)。手術後に意識が戻らないまま転院してきた。
宮本さんは相変わらず夜に「通りゃんせ」を歌っていたが、隣で寝ている意識が無いはずの吉田さんに変わった様子が見え・・・。
辺見:「今、(宮本さんの歌)声に反応してたような? 気のせいかな・・・?」
実は元気な頃はカラオケスナックで歌うのが生き甲斐だった吉田さん。意識が戻らないままに余命幾ばくもない中、隣で歌う宮本さんの声にわずかに反応し、ほんのささやかな、小さな奇跡が起きる・・・。
(と、あらすじはこんな感じ。本編はもっと細やかな描写とコミカルかつシニカルな表現に満ちていてより味わい深いので、結末にも興味がある方はぜひコミックス版を読んでみて下さい。
たいてい世知辛くて時にちっぽけだけど、それでも人間って面白れぇ・・!)
◇当該回収録
『お別れホスピタル 第9集』
スピリッツコミックス 2022年
う、嘘だろ・・。〈ホスピス横たわり終末医療〉と〈とおりゃんせ〉が見事にマリアージュされとる・・・!
しかも日付にご注目、なんと両作品の発表時期は同年内。『七号線ロストボーイズ』はフルアルバムだから製作期間はそれ以前の1年間ほどと考えられる。
また『お別れホスピタル』の掲載間隔を考慮するに、この回のネーム作成はおそらく5月から6月半ば頃。
これらの条件から鑑みるに、お互いがお互いの着想にインスパイアされて自作に取り込んだ可能性は無きにしもあらず、と考えられる。
どんなにあり得ないように思えても、可能性が低いものを排除していって最後に残ったものが、真実。ならば両者は全くの偶然に、ほぼ同じ時期に同じ奇想を抱いていたということになるか?
もしくはお互いがお互いに、それぞれの存在を知っていたという可能性は? amazarashi 秋田ひろむは『月曜日の友達』『チ。 地球の運動について』愛読者であることから推察される「スピリッツ」読者。
また沖田✕華さんは、福祉・医療系の作品を多く手がける漫画家。社会派でもありテーマも重め、かつその作品には温かいヒューマニズムが通い、人生の悲惨と同時に人命の尊さ、人と人との触れ合いの大切さが優しい絵柄から立ちのぼってくる。
人間存在を見つめるまなざしというか、それをどう作品に落とし込むかまで、沖田✕華と amazarashi には通底する部分があるように感じられるのだ。っていうかたぶん、お互いに名前くらいは既に知っていると思うんですけどね。
そうそう、こういう道を通ってきているという点でもまたよく似ている。
◇「日経ビジネス電子版」【もっと教えて!「発達障害のリアル」】
沖田さんへのインタビュー記事
沖田✕華:
小学生のときは「死にたい」というより「消えたい」という感じでした。
◇毎日新聞 2020年記事
【#生きるのがつらいあなたへ】
「死ぬことばかり考えていた」
『透明なゆりかご』沖田✕華さんを救った一言
◇読売新聞 2021年記事
シリーズ【STOP自殺 #しんどい君へ】
発達障害でもがき苦しんだ沖田✕華さん、生きづらさ「一生じゃない」
(「日経ビジネス」「読売新聞」の記事はネット上で全文が読めます、内容が気になる方は探してみてね。)
それにしてもこの合致は凄いシンクロ率、示し合わせた訳でもないならこれはまさに・・・。
奇跡か? 奇跡なのかっ!?
フーッ、いったん落ち着きましょう。落ち着きついでに童謡「通りゃんせ」と「花いちもんめ」(部分)の歌詞を載せておきます。ご参考までに。
〈通りゃんせ 通りゃんせ♪
ここはどこの細道じゃ
天神さまの細道じゃ
ちっと通して下しゃんせ
御用のないもの 通しゃせぬ
この子の七つのお祝いに
お札を納めに参ります
行きはよいよい 帰りはこわい
こわいながらも
通りゃんせ 通りゃんせ♪ 〉
〈勝ってうれしい花いちもんめ
負けてくやしい花いちもんめ
/(途中バリエーション色々)/
あの子がほしい、
あの子じゃわからん
この子がほしい、
この子じゃわからん
相談しよう、そうしよう! 〉
○NHK→amazarashi→横浜流星
細道・・・道・・・『青春18×2 君へと続く“道”』・・・藤井“道”人監督・・・『青の帰り“道”』・・・amazarashi『たられば』・・・横浜流星・・・う~ん・・・。
ハッ!・・・落ち着きすぎてボ~ッとしてた・・・。
さてここまで、よく分からん細い道を当てどなくさまよってきましたが。
それにしてもご紹介してきたテレビ番組、見事にNHK一色ですね。
『功名が辻』(2006年)
『あさが来た』(2015年)
『透明なゆりかご』(2018年)
『なつぞら』(2019年)
『おかえりモネ』(2021年)
『ゲームゲノム』(2022~24年)
『お別れホスピタル』(2024年)
とくれば、これも並べておきましょうか。
◇『# 8月31日の夜に。』2019年(NHK Eテレ)にて
秋田ひろむ、ナレーションと『僕が死のうと思ったのは』生歌唱。
◇NHK Eテレ ハートネットTV
『# 8月31日の夜に。』
「2019年夏休み ぼくの日記帳」
秋田ひろむ投稿
いやいやそんなに太い縁じゃ御座いませんが、アニメ関連以外でテレビ局の中で amazarashi と最も親和性が高いのは、なぜか日本放送協会であると確信を持っている次第であります! テレビに出るならまたNHKがいいなぁ。
・・・・・・。
◇ 2025年 NHK大河ドラマ
『べらぼう ~蔦重栄華之夢噺~』
(主演)蔦屋重三郎:横浜流星
・・・・・・・・・。
なっ、何をする気だ横浜流星・・! そこは天下のNHKだぞ・・ッ! (←あらぬ嫌疑、もしくは全幅の信頼)
よもや大河ドラマ関連番組でつい口を滑らせ、「a」などと口走るのではあるまいな!? ・・えっ、口走らないの? ・・主役なんだし、ちょっとは羽目を外してもバチは当たらないんじゃないかなぁ・・?(←身分濫用の教唆、無責任に高まる期待)
なんか藤井監督も『青春18×2 君へと続く道』にかこつけて3月の amazarashiアジアツアー「永遠市」台北公演にちゃっかり駆けつけちゃいそうで、末恐ろしくもあり、頼もしくもあり。
日台合作のこの映画は日本では5月公開だけど、台湾では一足先の3月14日に上映されるそう。んで「永遠市 -eternal city-」台北公演は3月2日・・。監督が舞台挨拶とかで台湾に飛ぶとしても微妙に日程がズレますか。無理かもね!
でもいつの日か「清原果耶:横浜流星/藤井道人監督」のタッグで、amazarashi曲にまつわる映像作品を作って欲しい・・!(それがNHK関連ならもっと面白そう・・・!)
◇ベストアルバム『メッセージボトル』公式サイト 「秋田ひろむ 全曲解説」『奇跡』より
「曲調からは感じられないと思うんですが、わりとやけっぱちに作った曲で、なんでも奇跡奇跡歌ってなきゃやってられない、みたいな気持ちでした。世の中奇跡だらけだったら奇跡に何にも価値なんてないですよね。」
こんなひねくれた調子で名曲を作っちゃうamazarashiですが、どうかこれからも末永くご贔屓に・・・!