句碑建立 HAIKU日本大賞

第1回作品募集!!

 

NPO法人HAIKU日本は設立10年を迎えました。この10年の間、多数のご応募ありがとうございました。節目となる2024年度から、新たに弘法大師生誕1250年記念「句碑建立 第1回HAIKU日本全国俳句大賞」と銘打った俳句の全国募集を行います。

「HAIKU日本」は令和元年に「令和お遍路俳句大賞」の全国公募を行い、「四国霊場八十八ヶ所と遍路道を世界遺産にする」応援の輪を広める努力をして参りました。

2024年度からは11年の長期計画で、四国八十八ヶ所にちなみ88基の句碑を四国霊場に建立する計画です。新たな観光名所として、日本全国からの多くのご訪問を期待しています。

この計画は四国八十八ヶ所霊場会会長で、「安楽寺」の畠田秀峰御住職の御賛同を得まして、「弘法大師御誕生1250年記念慶讃事業」の一環として、徳島県板野郡上板町の四国霊場第6番札所「安楽寺」に8基の句碑を建立することから始めます。句碑は「句碑建立 第1回HAIKU日本全国俳句大賞」の大賞、準大賞に選出された作者の「俳句」の石碑8基です。句碑には俳句と作者名又は俳号、都道府県名を刻印します。

あなたの句碑は、永遠のメモリーとして四国霊場に刻まれ保存されます。俳句をされている方なら胸に抱く夢「いつか自分の句碑を建てたい」そんな夢を御一緒に実現させましょう。

募集期間

2024年
春の句 2月1日(木) ~ 4月30日(火)
夏の句 5月1日(水) ~ 7月31日(水)
秋の句 8月1日(木) ~ 10月31日(木)
冬の句 11月1日(金) ~ 2025年1月31日(金)

投句料
3句以内1組 2000円

結果発表
2025年3月31日(月)
(HAIKU日本ホームページ上で発表)
応募規定

題材は自由です。お遍路を必ずしも入れる必要はありません。日本の四季を楽しむ個性豊かな俳句をお待ちしています。

応募作品は未発表の句に限ります。但し、句碑建立事業の為、HAIKU日本に以前掲載された句を再度ご投句下さっても受付と致します。この場合、HAIKU日本ホームページ上に掲載された年と季節を明記して下さい(令和お遍路俳句大賞も含みます)。あなたのご応募をお待ちしております。
俳句は、今を詠む文芸でもあります。新たな発想による新作に期待しています。

一人何口でも応募できます。募集締切当日の消印有効です。入賞作品の著作権はHAIKU日本に帰属致します。

選者
ひまわり会長 西池冬扇
風嶺主宰 上窪青樹
祖谷主宰 岩田公次
蛮の会主宰 鹿又英一
河副主宰 鎌田俊
HAIKU日本理事長 神野喜美女

 

春夏秋冬の大賞4点と準大賞4点 計8点
第六番札所「安楽寺」に句碑建立、賞状
作品の短冊と阿波天然藍染めの掛け軸

選者6人の春夏秋冬の特選 計24点
賞金1万円と賞状

入賞作品以外に秀逸句、入選句を発表致します。


 

◆ 郵送での応募方法 ◆

  1. 原稿用紙またはA4用紙などに、3句以内1組(複数応募可)の俳句と、俳号(俳号を記入頂くと審査結果発表時に俳号で公開されます。本名未公開)、お名前、フリガナ、所属している場合は団体名、お電話番号、ご住所、年齢、性別をご記入下さい。
  2. 1組につき投句料 2,000円が必要です。
    郵便定額小為替または現金書留でお送り下さい(当日消印有効)
    宛先 〒770-0028 徳島市佐古八番町5-19 HAIKU日本

 

◆ 当サイトからの応募方法 ◆

  1. 以下の投句メールフォームに必要事項を記入後、送信して下さい。
  2. 投稿後、投句料のお支払い方法を記載したメールが自動送信されますので、応募締め切り日までに投句料2,000円を郵便定額小為替または現金書留でお送り下さい(当日消印有効)。
  3. 投句料の支払いをもって受付完了とさせていただきます。
    ※Gmailで写真俳句を送信された際、自動返信メールが迷惑メールに入ってしまう事例が多発しております。自動返信メールが届かなかった場合、お手数ですが迷惑メールをご確認ください。また、メールを開き右上にあるその他アイコン「・・・」 → [迷惑メールでないことを報告] をタップすると受信メールフォルダに移動します。

●ネットバンキングによる送金も可能です。
「ゆうちょ口座 総合:16220-16681371(普通:六二八店 1668137)トクヒ)ハイクニッポン」までお送り下さい。投句と送金がインターネット上で完結しますので是非ご利用下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

HAIKU日本写真俳句  募集中

 

写真俳句を募集しています。スマホやパソコンから気軽に投稿いただけます。

募集期間 2024年
春の作品 2月1日(木) ~ 4月30日(火)
夏の作品 5月1日(水) ~ 7月31日(水)
秋の作品 8月1日(木) ~ 10月31日(木)

冬の作品 11月1日(金) ~ 2025年1月31日(金)

 

写真俳句連絡協議会
(会長・中村廣幸、名誉顧問・森村誠一)

HAIKU日本
「春の写真俳句大賞」
賞金1万円と賞状
「夏の写真俳句大賞」 々
「秋の写真俳句大賞」 々
「冬の写真俳句大賞」 々

 

3句以内1組ごとに投句料2,000円が必要です(何組でも応募可)

写真は必ずご自身で撮影してください。

応募作品は未発表のものに限ります。
結果発表、応募規定はHAIKU日本大賞▲に準じます。

●応募方法は、PC&スマホか、もしくはガラケーかによって投稿方法が異なります。

HAIKU日本全国写真俳句大賞2023 発表

大賞

 

辰雄忌の夜の駅舎は伽藍堂

[ 宮城県仙台市 繁泉祐幸 ]

 

(評)この作品は夜の駅舎を神聖な伽藍堂に見立てて、その静謐さを感じさせます。夜の駅と歴史の融合がユニークな雰囲気を創出しています。現代の景色と古典的な要素の混在が、視覚的に印象深いです。写真との組み合わせが、この神秘的な美をさらに際立たせています。過去と現在の結び付きが、思考の奥深さを刺激する作品となっています。

 

準大賞

散歩道モネが来たかや秋の朝

[ 東京都町田市 雅 ]

 

(評)秋の朝の情景を画家モネのスタイルで捉えたような豊かな色彩感を醸し出しています。絵画的な描写と秋の静けさが見事に融合されています。読む人を美しい秋の散歩道へと誘い、絵画のような風景を想像させます。この写真との融合が、その情景の美しさをより際立たせ、美術と自然が交わる独特の美しさが感じられる作品です。

 

 

ため息にバリアを張ったしやぼん玉

[ 兵庫県西宮市 幸野蒲公英 ]

 

(評)日常の小さな瞬間を捉えた作品です。ため息とシャボン玉との対比が、儚さと強さのバランスを巧みに表現しています。五七五のリズムを守りつつ、新鮮な比喩を用いることで、俳句の伝統と革新性が見事に融合されています。写真と合わせることで、その瞬間の美しさと脆さがより際立ちます。現代的な感覚と古典的な美しさが調和した、印象的な作品です。

 

<秀逸賞>

いにしえの娼家に春の雨上がり

宮城県仙台市 泉陽太郎

 

(評)雨上がりの躑躅の淡いピンクの花には、一層の風情があります。躑躅の花はどこか懐かしく「いにしえの娼家」という独自の世界観が、読み手にもノスタルジーを感じさせてくれます。「春の雨上がり」に咲いた躑躅は、春の情趣を醸し出しています。

 
 

時を経てシロツメクサの地に帰る

富山県射水市 中村理起子

 

(評)「シロツメクサ」はクローバーの名でも親しまれる多年草です。四つ葉のクローバーを探したり、花を冠に編んだりした遠き日の思い出を蘇らせます。「シロツメクサ」だからこその深い味わいがあります。歳月が流れ、この地に戻った作者の人生を垣間見ることができます。

 

 

声もなき水面にひそと敷きざくら

大阪府大阪市 安子

 

(評)「敷きざくら」はあまり使われない言葉ですが、写真を見ると納得させられてしまいます。水面に散った桜を花筏と言わずに表現した作者の感性が光る印象的な一枚です。美しい佇まいの写真に、情感漂う俳句がよく似合っています。

 
 

さみだるる深山の風の穏やかに

茨城県水戸市 打越榮

 

(評)たっぷりと水を含んだ森の幻想的な景は、厳かで神聖な心持ちになります。鬱蒼とした森は樹々の一本一本が生気を増し、その息遣いが聞こえてくるようです。森を行く作者の孤高な姿をリュックが印象付けています。大自然に心を解き放ち、共鳴する心地よさが伝わってきます。

 

 

人去りて人なき椅子の夏の影

石川県金沢市 百遍写一句

(評)作者のセンスの良さが感じられる作品。渋いトーンが全体を引き締め、句の雰囲気とよく合っています。影が創り出した様々な線が、広いウッドデッキにアートを描いていて、夏の夕刻の気怠さを表出しています。賑やかだった夏の終わりを感じさせ、影が殊さら淋しさを感じさせます。

 
 

蓮青葉ゆたかに包む弁天堂

東京都足立区 yuriha

 

(評)葉脈をくっきりと写し出した「蓮青葉」が生命の力強さを伝え、中央に据えられた蓮の花の清らかさが引き出されています。吹く風の葉ずれの音も聞こえてきそうな写真俳句です。蓮の名所で知られる上野不忍池。広々とした蓮池が広がっているのでしょう。蓮の花の奥に見える「弁天堂」も効果的です。

 

 

ひまわりやローレンと呼ばれた女

東京都渋谷区 月見草

 

(評)手前の「ひまわり」が背景の夏雲と相まって、夏の盛りを謳歌するかのようです。映画「ひまわり」は第二次世界大戦で戦線に送られ離れ離れになった夫を探し出そうとする妻を描いた永遠の愛の名作。主演女優がソフィア・ローレンです。「ひまわり」のように輝く存在感が魅力でした。今の世界情勢も見据え、兵士や兵士の家族を思いながら強く生きてほしいという願いが込められているように感じます。

 
 

庭先に水の芸術梅雨も良し

神奈川県平塚市 八十日目

 

(評)リングの如き水玉の付いた葉の美しいこと。紫陽花の葉の縁には小さな突起があります。突起が雨粒をしっかりと掴まえ、思わぬ光景を見せてくれています。まるで水晶玉で縁取ったかのように連なり、太陽の光に照り輝く様はまさに「水の芸術」です。雨が続くと気持ちまで沈みますが、思わぬ光景を目にした喜びが感じられます。

 

 

夏木立眼福を得る異空間

愛知県名古屋市 梅村沙阿弥

 

(評)「眼福」とは目の保養のこと。貴重なものや美しいものなどを見ることが出来た幸福感を言います。天に向かって真っ直ぐに伸びていく杉。素晴らしい写角で撮影した幻想的な「夏木立」が見る者を圧倒します。

 
 
 

木道に日光黄菅の迎へをり

奈良県奈良市 堀ノ内和夫

 

(評)「日光黄菅」はユリ科の多年草。高原に群生することが多く、日光に多いのでこの名があります。木道に沿う淡い黄色の花が可憐に捉えられています。草花は青々とした夏そのものですが、遠景は霧に包まれ肌寒さを感じさせます。登山者にとって、このような光景に出会うことは大きな喜びでしょう。

 

 

戦して決まる国境雁渡る

宮城県仙台市 遠藤一治

 

(評)秋の夕暮れの淋しさが伝わる一枚。世の中の有様を如実に浮き上がらせ、今の世界情勢を物語る措辞は胸を打ちます。国境のない渡り鳥の姿が「生」の尊さを写し出し、大自然の大らかな活力の中で、人間の矮小さが恥ずかしくなる、そんな心象風景を詠んだ膨らみのある作品です。

 

 

花蕎麦や古民家店は二年目に

東京都武蔵野市 伊藤由美

 

(評)緑の山々をバックに蕎麦の花が一面に咲き誇っている光景は、何かホッとする気持ちにさせられます。蕎麦は標高の高いところで栽培します。移住した人たちが腕を振るっているのでしょうか。山深い場所での出店に、作者は心配していたのかも知れません。白い花が可憐で、優しさのある一枚です。

 

 

尾花飛ぶ富士の裾野で別れけり

神奈川県横浜市 寿司人

 

(評)「尾花」は芒の花をさす秋の季語です。芒の花穂は、熟すにしたがって黄金色から白っぽくなり種を風に飛ばします。「別れけり」の断定が複雑な心境を淡々と伝えています。別れの時を詠んだ一句は切なく、これからそれぞれの場所に散っていく様を表わし哀愁を感じさせます。秋の夕暮れの逆さ富士の景が胸に沁みます。

 
 

神世より授かる稲と共に在り

和歌山県橋本市 徳永康人

 

(評)まだ青く一部は稲穂になりつつある景を、大農家の屋敷と共に撮った絵画のように美しい一枚。日本の良さを十七音に込めた句は力強く、何とも言えない感動を覚えます。日本人にとって心の拠り所である風景に、「共に在り」が寄り添った感慨深い写真俳句。

 

 

はつあきの影落としたる大鳴門

徳島県徳島市 今比古

 

(評)空を仰げば空に吸い込まれそうで、海を見れば渦に吸い込まれそうな自然のパワーが感じられる一枚。画面右下に鳴門の渦が見えます。大潮のダイナミックさとは異なる中潮の細やかな表情がよく捉えられています。「はつあき」の音の響きと、ひらがな表記の優しさが秋の爽やかさを運んでくれます。

 
 

豆ひとつづつ月よ夢掴めるか

福岡県久留米市 うろたんし

 

(評)箸で月を掴む大胆な構図に、まず驚かされます。「夢掴めるか」と疑問を読者に投げかけた破調の一句も魅力的です。「月よ」が優しく響きファンタジーな世界を広げ、ゆったりとした調べの印象深い写真俳句となっています。

 

 

呑まれゆく十一月の夕日かな

千葉県船橋市 井土絵理子

 

(評)大型船と荷揚げのクレーンの間に落ちる夕日が美しい港の光景。人工物の中にあって夕日が、パックリと大きな口を開けた巨船に呑み込まれていくようです。初冬の夕日の侘しさがよく捉えられており、動と静の調和が人生における哀切まで映し出しています。終助詞「かな」が余韻を残してくれます。

 
 

父と来し山の温泉初明り

東京都豊島区 粉雪

 

(評)昔を思い出しての作者の心情の詰まった写真俳句です。「初明り」は元旦、東の空から差してくる曙光を言います。新しい年の幕開けに相応しい光が写し出された一枚。まだ薄暗い景色の中で一層鮮やかさを増し、見つめる作者の新年を迎えた喜びや意気込みも感じられる作品です。

 

<入選>

艶やかに春を謳歌や朱木蓮

北海道札幌市 鎌田誠

 
 

朝に伸び拳の先には春の雲

埼玉県さいたま市 アヴィス

 
 

丘の卓布パッチワークの芝桜

東京都足立区 yuriha

 
 

春愁や一人夜景に何想う

東京都荒川区 涌井哲夫

 
 

草むらに生命燦めく春日和

東京都町田市 雅

 
 

紀元節日の丸ロードに模様替え

神奈川県鎌倉市 奈賀子

 
 

ただ僕は花になりたいだけなんだ

神奈川県平塚市 八十日目

 
 

雪解けて信濃の川に思い馳せ

大阪府大阪市 安子

 
 

春めけば父の腹蹴る海馬の子

奈良県奈良市 堀ノ内和夫

 
 

生きるとは禍々しくも梅雨の空

宮城県仙台市 泉陽太郎

 
 

郭公の啼きて深山の朝清し

茨城県水戸市 打越榮

 
 

灼熱の日照りも何ぞ百日紅

東京都町田市 雅

 
 

天平からのきざはしに苔茂る

神奈川県鎌倉市 奈賀子

 
 

夏の夜や妻と戯れ影残し

愛知県蒲郡市 海神瑠珂

 
 

蓮池や葉に遊びたる露の玉

大阪府大阪市 安子

 
 

日もすがら風のいろいろ風鈴寺

福岡県飯塚市 日思子

 
 

池の中紅葉泳ぐと吾子笑い

茨城県日立市 松本一枝

 
 

みすずかる山を動かす霧ながれ

東京都足立区 yuriha

 
 

ゆっくりと時刻んでね盂蘭盆会

東京都町田市 横井澄

 
 

雲に押され光る寒露の帯の空

東京都町田市 渡辺理情

 
 

爽やかや羊らと明日の話を

神奈川県足柄下郡 ほうちゃん

 
 

遠来の顔の揃ひて盆の月

神奈川県横浜市 楽ハイシャ

 
 

秋高し乱高下する叫び声

静岡県静岡市 山田由紀子

 
 

旅の終わり遥かナントの秋の空

愛知県豊橋市 藍屋紅遊

 
 

石像に並びてキノコも微笑めり

大阪府堺市 安藤友里

 
 

緯錦紅葉且つ散る用水路

兵庫県神戸市 前田達生

 
 

若人の去りゆく街に残る柿

兵庫県西宮市 幸野蒲公英

 
 

稲架掛けの落ち穂を狙う痩せカラス

和歌山県橋本市 徳永康人

 
 

客人の足取り残る新雪や

青森県弘前市 佐藤奏恵

 
 

神楽月雲悠々と峰歩む

千葉県柏市 小草

 
 

告白のカウントダウン聖誕祭

東京都足立区 yuriha

 

 

寒卵殻一枚のこの世側

東京都狛江市 小川かをり

 
 

冬花火凍てつく空のタペストリー

兵庫県神戸市 前田素代

 

 

 

※俳号で応募された方は、原則として俳号で掲載させて頂いております。

 

HAIKU日本2023全国俳句大会 冬の句大賞

 

合鍵を返却ポインセチア燃ゆ

                                 [ 宮城県仙台市 渡辺徹 ]

 

(評)ポインセチアは、観賞用に温室で栽培され、クリスマスのころに枝先の葉が緋紅色になります。俳句では、鮮やかな紅色の植物を炎のように燃えているようだと形容する表現技法があります。紅葉や鶏頭など、さまざまな植物の印象鮮明な色彩を幾度となく組み合わせて詠まれてきていますので、もはや共有の財産の表現です。掲句では、「ポインセチア燃ゆ」に対して、「合鍵を返却」という措辞をもってきています。これにより、合鍵を返却するに至った事情や、合鍵を返却してからのこれからの展望など、合鍵返却という一事が読者の内にストーリーを喚起し、想像を膨らませます。季語が作中人物の心情を象徴して訴えてくるようです。合鍵返却以降に、もっと素敵なドラマが待ち受けていることを予感させる、向日性のある作品で、まるで小説の一場面を思わせます。

 

珠玉賞

 

勝負球やや低めにて冬の入り

                                  [ 福岡県久留米市 うろたんし ]

 

(評)関西ダービーとなった今年の日本シリーズの五試合目を思い出します。阪神のルーキーが低めの球を弾き三塁打を放って、勝負を決めました。そのままの勢いで阪神は38年ぶりの日本一。こんな熱闘の場面を蘇らせてくれる俳句。「やや低めにて」の中七がこの句を際立たせており、緊迫の一瞬をさらりと伝えています。

 

 

しぐるるや喪のクラクション遠ざかる

                                  [ 大分県豊後大野市 後藤洋子 ]

 

(評)初冬の頃、降ったりやんだりする通り雨が時雨。伝統的に風雅な趣や無常の嘆きを含みます。時雨の降る日、出棺時に霊柩車が長いクラクションを鳴らすと、それが故人との最後の別れになります。見送りの列に遠ざかるクラクション。「しぐるるや」が一層の悲しみを誘い、哀切に満ちた余韻のある一句となっています。

 

秀逸句

白濁の齢に馴染む蕎麦湯かな

                                    [ 埼玉県川越市 一の橋世京 ]

 

(評)季語でいう「蕎麦湯」は、蕎麦粉を熱湯で溶かし甘みを加えたもので、現代の蕎麦屋で出されるものとは異なります。蕎麦を茹でたときの汁は、蕎麦に含まれているタンパク質が溶け出しているため白くて少しとろみがあります。白濁した齢(よわい)に馴染むとは、その人の人生をも語ってくれているような何とも言えない味。一口飲めば冷えた体が暖められ、染み渡っていく様が想像できます。

 

 

人影に寒鯉微動したりけり

                                     [ 東京都渋谷区 駿河兼吉 ]

 

(評)川や池などに棲む「寒鯉」は、水温が低いため泥の中に潜ってじっとしていることが多いもの。その寒鯉が人影に動いたような、その一瞬を捉えての作。かすかな動きをすかさず切り取った詠み手の感性が光ります。「微動」が極寒の水に晒されて生きる「寒鯉」の厳しさをよく表しています。

 

 

天水を軌跡に溜める冬田かな

                                     [ 新潟県南魚沼郡 高橋凡夫 ]

 

(評)トラクターなどの轍の跡に、「天水」が溜まっている冬の一日の光景を詠んだ秀吟。自然への畏怖の念が感じられます。淋しい田園が思い浮かび、役目を終えた「冬田」の景がしみじみと伝わってきます。雨空の日には冬田は一層侘しさを増し、見つめる作者にも寂寥感が去来したことでしょう。

 

 

狭い部屋ずらり厚物冬来る

                                     [ 愛知県名古屋市 神秘きのこ ]

 

(評)猛暑に続いた秋はあっという間に終わり、今年はすぐに冬がやってきました。セーターやコートなど嵩張る厚物がずらり並んで、部屋は衣装替えの真っ最中。冬がやってきた実感を「ずらり厚物」の中七の措辞が言い得て妙です。誰しもが実感し、共感を呼ぶ一句は「冬来る」の季語で温かな余情が広がります。

 

 

廃線のケーブルカーや山眠る

                                     [ 兵庫県尼崎市 大沼遊山 ]

 

(評)廃止となった「ケーブルカー」の跡のみ残る冬の山に、盛況だった過去を想うと淋しさもひとしお。山は何事もなかったかのように静かに眠りにつきます。落葉しつくした山々が冬の日を受けて眠っているかのように見えると、擬人化したのが「山眠る」の季語。この季語が雄大な冬景色の中、ピタリと収まっています。

 

 

怪談の最初はいつも虎落笛

                                     [ 和歌山県橋本市 徳永康人 ]

 

(評)思わず「虎落笛」の「ひゅ~」の調べが聞こえてきそうです。怪談に付き物なのが、ひゅーひゅーという効果音。その音が「虎落笛」であるという作者の発想が楽しい一句。あのおどろおどろしい音が「虎落笛」と重なり、妙に納得させられてしまいます。「怪談」と「虎落笛」の取り合わせに意外性がありウィットに富んでいます。

 

 

担任はファミレス僕に六つの花

                                     [ 山口県山口市 鳥野あさぎ ]

 

(評)「六つの花」は美しい結晶から名付けられた雪の異称。「担任」の先生と「僕」の関係に何があるのか、深読みさせられてしまうミステリアスな一句。何やら正反対の場所に居て、別世界の僕には雪が舞ってる様子。寒さの中、侘しさと哀愁に包まれる「僕」の姿が印象深く、破調の一句に作者の感性が冴えています。

 

 

立冬やバターゆっくり丸くなる

                                     [ 徳島県鳴門市 井形順子 ]

 

(評)「ゆっくり」バターが溶けていく様を一句の眼目にして、「立冬」と取り合わせました。ゆったりと料理をしている主婦の余裕が感じられる生活詠の中に、俳句の詩としての普遍性が漂う感性の一句となっています。「溶けて」ではなく「丸くなる」と形を詠み読者に興味を抱かせます。

 

 

寂しさの煮詰まつてくる一人鍋

                                      [ 大分県大分市 みい ]

 

(評)一人だけの食事は味気ないもの。だんだんと煮詰まってくる「一人鍋」に「寂しさ」を感じたという作者。鍋で身体を温めながらも感じる寂しさが、読者にも伝わり共感を呼びます。「煮詰まつてくる」が作者の心の動きをよく表わしていて、現代社会の一面を見る思いがします。

HAIKU日本2023全国俳句大会 秋の句大賞

 

ウクライナもロシアも知らぬ案山子かな

 

                                    [ 大阪府大阪市 清島久門 ]

 

(評)ロシアのウクライナ侵攻は泥沼の様相を呈しています。何のための戦争なのでしょうか。こんな世界情勢と取り合わせるのは、昔ながらの暢気さのまま、収穫を待つ秋の田に佇む「案山子」。「案山子」は知らぬとした一句には、作者の様々な思いが込められていて、危ない時代に生きる不安を際立たせています。

 

珠玉賞

 

新涼や足取り軽くブルドッグ

                                     [ 東京都目黒区 ワーグナー翔 ]

 

(評)猛暑を通り越して、散歩の途中の「ブルドッグ」も息を弾ませることも無くなったのでしょう。「足取り軽く」と感じた作者の弾んだ気持ちが現れています。「新涼」と「ブルドッグ」の取り合わせに妙味があり、清々しさを満喫する作者の足取りも自然と軽くなっていく様子が伝わってきます。

 

 

菊人形胸の小菊が咲き揃う

                                     [ 徳島県板野郡 犬伏峰子 ]

 

(評)「菊人形」は秋の風物詩の一つと言えます。最近は昔ほどの派手さはなくなったものの、菊師の情熱は連綿と受け継がれています。しなやかで作業しやすい「小菊」は、人形に着付ける際に用いられます。展示の期間に開花を合わせるための苦労も大変なことでしょう。そんな苦労をねぎらうかのような作者の優しさが感じられる一句です。

 

秀逸句

孫の髪梳いて震災記念の日

                                     [ 埼玉県行田市 吉田春代 ]

 

(評)「震災記念の日」は、大正12年9月1日午前11時58分に発生し関東一円で莫大な被害を被った、関東大震災の犠牲者の霊を弔う日です。可愛い孫の髪を梳いてやりながら、この日に当たることを思い出したのでしょう。「この子たちの時代がどうか平和でありますように」と願う作者の横顔が見えてきます。

 

 

渓谷は墨絵ぼかしに冬支度

                                     [ 千葉県佐倉市 佐々木宏 ]

 

(評)冬に向かっての支度は、深い山々ではことさら大変でしょう。晩秋の趣きが残る「渓谷」は、季節が進むにつれ枯色になります。「墨絵ぼかし」が目の前の景を読者に思い浮かばせ、観察眼の優った写生俳句となっています。墨絵の持つ濃淡の美が、晩秋の佇まいを伝えてくれます。

 

 

恋の歌詞もらい鈴虫もらいけり

                                     [ 東京都葛飾区 泉田夕輝 ]

 

(評)配合と言うよりも二物衝撃のシュールな作品。「もらい」のリフレインが面白味を出した一句です。若さ溢れる詠法で、作者のこれからの俳句が大いに楽しみです。作者のウキウキした気持ちが伝わってきて、読み手も楽しい気分にさせてくれます。

 

 

父の歳超えて余生の風は秋

                                      [ 東京都練馬区 符金徹 ]

 

(評)「風は秋」としたことで余情も深みも増しました。流れるようなリズムで作者の心境を表わし、「秋」の言葉から感じる侘しさや寂しさよりも、楽しみにしていた秋がやってきたことを喜ぶ作者の姿が見えます。自らの人生に対する感慨が伝わってきて、味わい深い境涯俳句となっています。

 

 

朝露をまとふ立札小さき畑

                                      [ 神奈川県茅ヶ崎市 つぼ瓦 ]

 

(評)「立札」が自分の農園であることを示している貸し農園を思い浮かばせます。消えやすく、儚いものにたとえられる露。殊に「朝露」は日が昇ると間もなく消えてしまいます。農作物や辺りのもの皆が、露に濡れた清々しい朝の瞬間を詠んだ秀吟となりました。

 

 

パソコンに一句入力夜寒かな

                                      [ 石川県小松市 上田俊朗 ]

 

(評)晩秋に夜分寒さを覚えるのが「夜寒」。普段通りの暮らしを詠んだ然り気ない一句に、作者の生活感が出ています。日常の出来事が何か捨てがたいような哀愁を漂わせています。終助詞「かな」が一句全体を包み込んで、効果的な秋の一句となりました。

 

 

割算の苦手といふ子西瓜割る

                                      [ 京都府京都市 古川邑秋 ]

 

(評)「割算」が苦手な子供は、「西瓜」を割るときに苦労するのかもしれません。等分に分けるのは、なかなかの難問です。掲句は一句一章句として捉えることが出来、作者の優しい眼差しが感じられます。発想に意外性と面白みがあり、読み手にもほのぼのとした景を思い起こさせます。

 

 

南部鉄風の調子や涼新た

                                      [ 大阪府池田市 宮地三千男 ]

 

(評)重厚感ある様からは想像できないほど、高く透き通った音色が愛される南部鉄器の風鈴。音色が長く鳴り響くのも魅力のひとつです。季節は秋になって涼しさを感じ始めた頃、その吹く風を「涼新た」と言います。中七の「風の調子や」に妙味があり、初秋の冷気の心地よさが漂ってくるようです。

 

 

メモ紙のたつきつましやつづれさせ

                                      [ 大阪府寝屋川市 伊庭直子 ]

 

(評)「つづれさせ」は綴刺蟋蟀(つづれさせこおろぎ)のこと。りーりーりーと鳴く声を昔の人は「肩刺せ、裾刺せ、綴れ刺せ」と聞いて、着物の綻びを縫い直せと教えているのだと言います。「たつき」とは生計のこと。「メモ紙」もチラシなどを使っていると思わせてくれます。冬に向かっていく秋の寂しげな情趣を詠んだ一句で、慎ましやかな暮らしぶりが垣間見えます。

 

 

猪の首を洗う蛇口の音激し

                                      [ 兵庫県姫路市 和田清波 ]

 

(評)なかなか見られない猟師の捌きの場面を想像させ、読者をゾクッとさせるものがあります。「猪(い)」は秋の季語。深まる秋の中、狩猟の場面とその後を連想させて、現実以上にリアリティのある迫力の作品となっています。「蛇口の音」の激しさを詠んで、獰猛な猪の姿を浮かび上がらせる技の上手さがあります。

 

 

雀きて遊ぶ庭先子規忌かな

                                      [ 徳島県阿波市 井内胡桃 ]

 

(評)「稲の波かぶりて遊ぶ雀かな」「いそがしや昼飯頃の親雀」など子規は雀の句も多く残しています。忌日は9月19日。寝たきりになった子規の目を四季折々に咲く草花や、庭にやってくる鳥たちが大いに楽しませたことでしょう。そんな子規の目線で詠んだような一句が心に沁みます。「かな」の詠嘆がこの上なく優しく響きます。

 

 

柿落とすからすの心唯知るぞ

                                      [ 大分県大分市 牧吏恵 ]

 

(評)大胆で粗削りなところが魅力の俳句です。副詞としての「唯」が効いていて、「柿落とす」のは「からす」のみが知ること。下五の強調の助詞「ぞ」で切ったのも効果的な一句です。からすの他は誰も知らないに違いないことを強調し、作者の気持ちを込める働きをしています。

HAIKU日本2023全国俳句大会 夏の句大賞

祖父の手にプリズム散らす夏蜜柑

                                [ 東京都日野市 高山夕灯 ]

 

(評)夏蜜柑は、初夏に食べごろを迎える柑橘で、果実は大きく、酸味が強いのが特徴です。祖父の手にある夏蜜柑は、いましがた庭の木から捥いできてくれたものでしょうか。夏蜜柑に初夏の日があたり、まばゆいばかりに輝いて見えるさまが一句に表現されています。「プリズム散らす」という中七の措辞がとても新鮮です。この表現の中には、夏蜜柑を眩しく見る作者の感動だけではなく、夏蜜柑を採ってきて孫が自然に触れる機会をつくり新しい物事を教えてくれる祖父への畏敬の念も込められているのでしょう。夏蜜柑の酸っぱさを教えてくれた祖父とのかけがえのない思い出の一齣が、光褪せることなく一句のなかに息づいています。

 

珠玉賞

出目金の二つは奴の心なり

                                [ 大阪府池田市 宮地三千男 ]

 

(評)「出目金」の大きな二つの眼に、心が宿っているという着眼点がユニークです。そんな発想をする作者の人情や人柄までもが楽しく想像されます。確かにキョロキョロ動く出目金の眼はそれぞれに違った動きをしますが、こんな見方をする作者の独特の感性が俳諧味たっぷりの句を生みました。

 

 

炎天の声に従ふ辻回し

                                [ 兵庫県尼崎市 大沼遊山 ]

 

(評)「辻回し」と言えば日本三大祭りのひとつ、京都の祇園祭の山鉾巡行の一コマ。掲句は巨大な山鉾の進行方向を変える「辻回し」の迫力を言い得て妙。大通りでは豪快に回す様が見られる一方、小路では指示役の誘導で微調整を繰り返しながら向きを変えます。祭り囃子ではなく「炎天の声」で、その場面を彷彿とさせます。暑さも吹っ飛ぶ程の景を見事に描き出し、その緊張感が伝わってきます。

 

秀逸句

睡蓮に音無き風のすべりけり

                                [ 東京都渋谷区 駿河兼吉 ]

 

(評)印象派の巨匠・モネが好んで描いたのが「睡蓮」です。熱帯原産の多年生水草で赤、白、黄の可憐な花を付けます。水面で微かに揺れた睡蓮を見た作者の確かな写生の眼が感じられ、読み手にその場面を明瞭に伝えます。沼や池の穏やかな水面に浮かぶ睡蓮の美しい姿が浮かびます。

 

 

夕焼けてさびしき鬼の木となりぬ

                                [ 神奈川県川崎市 下村修 ]

 

(評)鬼ごっこをして遊んでいた子供たちが、だんだんと家に帰っていく。そんな夕暮れ時の光景が浮かびます。鬼役の子だけが残ってしまった昭和の残影のようなノスタルジーが漂い、完了の「ぬ」で止めて効果的な一句に仕上がっています。取り残されたように夕焼けの街に立つ、一本の「鬼の木」。一つの物語のラストシーンを思わせるような一句です。

 

 

夏つばき足の踏み場もなかりけり

                                [ 新潟県南魚沼郡 高橋凡夫 ]

 

(評)「夏つばき」は夏に椿に似た五弁の白い花を咲かせ、別名「沙羅の花」とも呼ばれます。散り敷かれた様が見事に描かれた一句一章句で、大地に還った花を「足の踏み場もない」と詠んだ作者。「夏つばき」に話し掛けるように詠んだ一句は、ユニークさを感じさせます。目の前にある実景を詠んだ写生句の魅力に溢れています。

 

山ひとつ包み込みたる大花火

                                [ 山梨県中央市 甲田誠 ]

 

(評)夏の夜を楽しむ様が臨場感を持って詠まれています。一山を包み込むという大花火はどれ程のものなのか・・・。「山ひとつ包み込みたる」の措辞が読者の想像を掻き立てます。夜空に輝く絢爛たる大輪の花火は言うまでもなく、打上げの迫力ある音や地面を這う振動なども伝わってくる豪快な一句。

 

 

夜涼みやドーナツ盤に落とす針

                                [ 長野県埴科郡 竹内辰輔 ]

 

(評)作者は20代の若い俳人。現代にあってもレトロファンは多くいて、NHKのラジオ深夜便などでも、ドーナツ盤での音楽を楽しむコーナーがあります。「ドーナツ盤に落とす」の措辞によって、ゆったりと流れる至極の時間が伝わってきます。部屋の窓を開けて涼しさを感じながら詠んだ味わい深い一句です。

 

 

鬼虎魚「文句あっか」の面構え

                                [ 岐阜県土岐市 近藤周三 ]

 

(評)何とも言えず滑稽味たっぷりの秀作。主役はオレだと言わんばかりに置かれた一品の「面構え」。荒々しい風貌が「文句あっか」と言っているかのように思えたのでしょう。味は“夏の河豚”と呼ばれるほどの美味。「こう見えても、すこぶる美味しいんだぜ」と我が身を誇る「鬼虎魚」の声が聞こえてきそうです。

 

 

自販機やコインと汗の落ちる音

                                 [ 愛知県名古屋市 あめきのこ ]

 

(評)「コイン」と「汗」の取り合わせがとても良く、素直な詠法が魅力を放っています。「コイン」の落ちる音とポタポタ落ちる「汗」の音。猛暑の中やっと自販機を見つけたのか、どこかホッとしたような感覚が漂います。五感を研ぎ澄ませ、音をリアリティーを持って詠んだ味のある巧みな作品です。

 

 

シャツの柄気にして八十路サングラス

                                  [ 三重県松阪市 谷口雅春 ]

 

(評)シャツの柄が少々派手目ではないかと、気になりながらサングラスを掛けて外出。少々弱気になる心をカバーし、数倍強くしてくれる代物が「サングラス」。解放感ある夏のお洒落に挑戦する「八十路」の微妙な心理と実感で、日常のことをさらりと詠み上げた俳諧味のある秀句です。

 

 

髪洗ふ足芸人の薄い背よ

                                   [ 大阪府大阪市 清島久門 ]

 

(評)“足”が付くので樽回しなどの足技を特技とする芸人と想像できますが、人気はまだまだなのでしょう。「薄い背」がそのことを物語っているようです。「足芸人」の哀愁が一句の中に漂います。背中を丸めて髪を洗う芸人への労りの心情が見て取れ、優しさに溢れる一句となっています。

 

 

香水を贈られし夜婚約す

                                    [ 兵庫県三田市 立脇みさを ]

 

(評)「婚約す」という素敵な言葉が印象的な一句。汗の匂いが強くなる夏の身だしなみとしても使われることから、夏の季語である「香水」を思い出と共に詠んだ句は、季語の持つイメージを遥かに超えた優美な響きを醸し出しています。人生の節目となった夏を蘇らせるロマン溢れる秀句。

 

 

夕立や父のポマード買うた店

                                    [ 山口県山口市 鳥野あさぎ ]

 

(評)「夕立」と「ポマード」の斬新な取り合わせが魅力の一句。「ポマード買うた」の優しい響きが懐かしさをより一層深めます。ノスタルジアを感じさせ、「ポマード」の懐かしい響きに昔の父親像が蘇ります。古き良きものへの哀愁と父を想う心情が相俟って、印象深く心に刻まれる秀句です。

 

 

さみしくて空が見たくて浮く海月

                                    [ 徳島県阿波市 井内胡桃 ]

 

(評)海の月という字のイメージだけでもロマンチックな「海月(くらげ)」。ふわふわと漂う様は儚く美しく、見ているだけで癒やされます。「さみしくて空が見たくて」の十二音がとても美しく響き、読者の心を詩情世界へと誘ってくれます。「海月」の気持ちを慮って、見つめている作者の姿が浮かびます。

 

 

ぬばたまの闇こそ燃ゆる螢かな

                                    [ 大分県豊後大野市 後藤洋子 ]

(評)「ぬばたま」はヒオウギの種子のこと。丸く光沢のある黒色の種はミステリアスで、「夜」「夕」「闇」「髪」など黒い色に関連した語にかかる枕詞です。そんな闇夜こその「螢」。螢の光る様には様々な表現がありますが、「燃ゆる」とはなかなか表現しないもの。作者の特別な想いが託されているようです。「ぬばたま」と相まって艶やかさを漂わせています。

HAIKU日本2023全国俳句大会 年間賞発表

年間賞

 

ていねいに拭く八月の証言台

                             [ 東京都青梅市 渡部洋一 ]

 

(評)「俳句歳時記」において、一月から十二月までどの月も季感を有する詩語として載録されています。一句にどの季語を持ち込むかは、作者の創意工夫の対象です。ほかの季語でも成立する、ほかの季語のほうがもっと句意が豊かになる、と読者が思える隙がうかがえると、作品の訴える力が弱くなってしまいます。掲句の「八月」に触れ、とても有意な一句になっていると感銘を受けました。「八月」は日本の歴史的転換点の意味合いがありますので、季節の時間性を超えた象徴詩の世界として掲句が屹立しています。証言台は、裁判において証人や当事者が証言をしたり、質問に答えたりする場所です。歴史性を呼び込む「八月」を配することで、事象の報告にとどまらない、緊張感ただよう象徴詩となっています。


 

HAIKU日本2023全国俳句大会 春の句大賞

 

亀鳴くを嬰は聞いてるやもしれぬ

                             [ 群馬県邑楽郡 小林茜 ]

 

(評)「亀鳴く」という季語は、藤原為家の「川越のをちの田中の夕闇に何ぞときけば亀のなくなり」が典拠とされる。実際には亀が鳴くわけではないが、亀が鳴いたと受けとめる風狂や遊びごころをたいせつにしたい。「亀鳴く」という季語には、ユーモアやペーソスをのせた実作例が多い。掲句では、嬰ならば亀の鳴き声が聞こえているのではないかという洞察がおもしろい。確かに、まだ自我や常識に染まっていない無垢な赤ん坊ならば、亀の鳴き声が天使のささやきのように、心に響いてくるのかもしれない。すやすやと眠る嬰が夢を見て笑ったり、泣いたりすることがあるが、どこかで鳴いている亀に反応していると思うと、一段と赤ん坊の存在が不思議にも神聖にも思えてくる。作者の観察と発想力の光る佳吟だ。

 

珠玉賞

いつせいにひらがなとなり翔ぶ蝶よ

                             [ 大阪府大阪市 清島久門 ]

 

(評)待ち侘びていた春を謳歌するように生き物たちは活動を始めます。木々は芽吹き花が咲き、鳥たちは歌い始め、冬眠していた動物たちは動き出します。春の躍動感が感じられ「ひらがなとなり」が蝶の翔ぶ様を上手く形容しており、たおやかな蝶たちの飛翔が描かれています。一斉に翔び立った、目の前の瞬間を捉えた珠玉な作品です。上五に「いつせいに」と置くことで、春の息吹がより一層感じられます。

 

 

 

春光をサラダに和える朝餉かな

                             [ 宮城県仙台市 渡辺徹 ]

 

(評)「春光を和える」という詩情は、なかなか出てこないものです。作者の深い句心を映発したもの。たっぷりと野菜の入ったサラダボウル。レタスやサラダ菜、ホウレンソウ、アスパラガス、菜の花などみんな春の季語ですが、大きな器の中で踊るように混ぜられている様が浮かびます。感じたままを素直に表現した作者の新鮮な叙情の世界が冴えていて、健康的な一日が快適に滑り出したことが想像できます。

 

秀逸句

花冷に蒸し器顔寄す中華街

                              [ 千葉県佐倉市 佐々木宏 ]

 

(評)「花冷」は桜の咲く頃の冷え込みを言います。この頃は天候が定まらず、一時的に急に寒さが戻ることがよくありますが、こんな日こそ温かいものが欲しくなります。「蒸し器」に入れられて運ばれてきたその瞬間の場面が浮かび、「花冷」と温かい食べ物との取り合わせが絶妙です。心情を季語に託した軽妙で味のある一句。

 

 

冴え返る花街の空を午後の鳶

                               [ 東京都練馬区 符金成峰 ]

 

(評)「花街」を「かがい」と読ませて定型となる一句。季語「冴え返る」は、立春を過ぎて再びぶり返す寒さのこと。緩んでいた気持ちも引き締まったような感覚があります。芸者屋や料理屋が立ち並ぶ色っぽい「花街」の空がくっきりと読者に届きます。その空に「午後の鳶」がゆったりと舞う姿がクローズアップされます。

 

 

青き踏む風の拳を喉で受く

                               [ 東京都日野市 高山夕灯 ]

 

(評)春の若草を踏みながら野山を散策する「青き踏む」。爽快な気分を伝える季語です。そんな野原にそよぐ春風を「喉で受く」という、春になった喜びを心から満喫しているかのような一句が心に響きます。季語に続く斬新な十二音の措辞に、春風の優しさが感じられます。

 

 

梅こぼるただ己が香をたづさへて

                                [ 神奈川県川崎市 下村修 ]

 

(評)花の終わりの表現は花によってまちまちですが、梅は小さい花びらがぽろぽろと落ちることから「こぼる」と表現され、涙がこぼれる様に似ているからだとも言われています。「たづさへて」と「て」止めにしたのも、この句に詠まれた世界観を美しく昇華させています。梅という素材ひとつに絞り込み、梅にある孤高の美しさを引き出しています。

 

 

初桜背に教え子らハイパチリ

                                 [ 神奈川県横浜市 鷹乃鈴 ]

 

(評)七・五・五の破調の一句。「初桜」はその年になって初めて咲いた桜の花。開花も満開の時期もほとんどの地域で三月中のこととなり、昔に比べて随分と早まりました。下五の「ハイパチリ」でその場の情景がよく浮かび、読み手を楽しい気分にさせてくれます。校庭に咲き始めた桜をバックに記念の写真を撮る教え子らの弾む心も見えてくる作品です。

 

 

ぐんと振るテニス部春を打ちにけり

                                 [ 神奈川県横浜市 竹澤聡 ]

 

(評)ぶんと振るのではなく「ぐんと振る」と詠んだのがこの句の面白いところです。「テニス部が打つ」としたところに新鮮さがあり、その光景がよく見えてきます。「ぐんと振る」景は力強く、日焼けした若者たちの姿がイメージできます。春の陽気の中での楽しそうな部活動の様子を伝え、青春真っただ中にある眩しさを引き出しています。

 

解雇通知の三行や啄木忌

                                  [ 岐阜県土岐市 近藤周三 ]

 

(評)石川啄木は情熱の赴くままに各地を転々とし、貧困と病気に苦しみながら短い人生を終えました。歌人・詩人として明治時代に活躍した人物ですが、啄木の短歌は三行書きのスタイルで、身近な現実を詠み己の人生に迫りました。三行の「解雇通知」に啄木を重ね合わせ、解雇通知さえもそれがどうしたという作者の余裕が感じられます。

 

 

麦を踏む麦の影視て強く踏む

                                   [ 大阪府池田市 宮地三千男 ]

 

(評)「麦を踏む」姿は日本の長閑な原風景の一つと言えます。昔を忍ぶ日本の農業の細かさですが、「麦の影視て」には体験した人でなければ言えない重みがあり、土の感触さえ読者に届けてくれます。「麦」のリフレインが余情と深みを感じさせ趣のある一句です。

 

 

父からの謝罪一行かひやぐら

                                   [ 大阪府寝屋川市 伊庭直子 ]

 

(評)「かひやぐら」は蜃気楼のことで、地上の物体が浮かんで見えたり、遠方のものが近くに見えたりします。作者にとって父からの謝罪の一行は思いがけない出来事だったのでしょう。内容を作者は明らかにせず、読者は考えさせられてしまいます。作者の巧みなところです。謝罪の一行は現実だったのかを含めて、読み手の想像力を掻き立てます。

 

 

盆梅の紅白黄色茶の緑

                                   [ 兵庫県尼崎市 大沼遊山 ]

 

(評)今年の「盆梅」に心から満足している様子が覗える作品です。色彩豊かに詠んで、「茶の緑」と対比させた個性的な一句に惹かれます。梅の花の馥郁とした香りに包まれた席でいただく抹茶の味はまた格別でしょう。丹念に育てられた「盆梅」の姿を、たくさんの色を並べて詠み俳句に遊ぶ作者。色とりどりの梅を想像するだけで、読み手にも作者の心持ちが伝わってきます。

 

 

菜の花や母の畑でありし場所

                                   [ 兵庫県三田市 立脇みさを ]

 

(評)今は菜の花でいっぱいでも母の畑であった頃は、きっとたくさんの野菜を育てていて、その思い出も懐かしく蘇っていることでしょう。今を盛りと咲いている「菜の花」。きっと母もそれを見て喜んでくれているに違いないと、そんな気持ちにさせてくれる優しい一句です。母を想う風情が淡々と伝わってきて、淋しさと温もりの入り混じった心を揺さぶられる秀句。

 

 

曇天にしとりと浮かぶ山桜

                                   [ 広島県広島市 朋栄 ]

 

(評)「曇天」の日のその湿りの中で見る「山桜」。しっとりを略した「しとり」の副詞が効果的です。古より詩歌で詠まれてきた山桜の気品のある美しさを、より一層浮かび上がらせてきます。山桜の姿を、まるで山水画のように上手く仕立てています。艶やかな若葉と共に開花した一重のピンクの花が静かに山里に佇んでいます。

 

 

囀の庭に口笛返しをり

                                   [ アメリカ合衆国オレゴン州 ロイ美奈 ]

 

(評)雄の縄張り宣言や雌を誘うラブコールで、様々な鳥たちが鳴き交わす春。春の訪れを喜ぶかのように、一斉に賑やかになったのでしょう。「囀の庭」と詠むことで、作者の庭にも鳥たちがひっきりなしに立ち寄っては、美しい声を聞かせている様が届きます。鳥たちに思わず口笛で応える作者。うららかな春の日のひとときが鮮やかに切り取られています。

 

 

 

 

2023年9月27日「HAIKU日本“熱闘”全国句会」を開催しました

 

2023.10.2

全国句会には、事前投句と合わせて279句の投句がありました。
特選、準特選の方々には記念品として入賞俳句の短冊と掛け軸が贈呈されました。
入賞者は以下の通りです。

 

ひまわり俳句会会長 

西池冬扇選

 

特選海の日の海の風よむ父子かな

[徳島県阿波市 井内胡桃]

準特選青梅雨のキッチン読みかけのサガン

[徳島県阿波市 井内胡桃]

準特選菓子食うて蟻に噛まれる母の午後

[徳島県板野郡 犬伏峰子]

 

 

風嶺俳句会主宰 上窪青樹選

 

特選ふる里へ近寄り外すサングラス

[徳島県那賀郡 大石スミ子]

準特選海底に眠る軍艦カンナ燃ゆ

[徳島県阿波市 井内胡桃]

準特選芋の葉の脈の集まるひとところ

[徳島県徳島市 田村寿美]

 

 

HAIKU日本理事長 

神野喜美女選

 

特選五六回聞くモンタンや星月夜

[徳島県徳島市 吉岡えい子]

準特選じやんけんに勝ちたき卒寿山笑ふ

[徳島県徳島市 松家京子]

準特選秋風や抱かれたくなき猫を抱く

[徳島県徳島市 吉岡えい子]

 

 

 

2023年9月27日「HAIKU日本“熱闘”全国句会」開催!

 

全国からのご参加をお待ちしております!※当日参加できない方は事前投句できます

HAIKU日本 熱闘全国俳句会

 

日時 令和5年9月27日(水)12:00より受付
会場 徳島県立文学書道館
〒770-0807徳島県徳島市中前川町2丁目22-1 [GoogleMap]
TEL 088-625-7485(台風・自然災害時の開催については文学書道館に準じます)
投句方法

雑詠3句1組につき1,000円。何組でも投句可。季節は問いません。
未発表作品に限ります。投句後の訂正または変更には応じかねます。

【当日参加の方】
 12:00 投句受付開始(投句用紙をお渡しします)
 13:00 投句締切

【当日参加できない方は事前投句できます】
用紙に3句1組で記入し、投句料とともに現金書留又は小為替を同封して下記投句先まで郵送してください。何組でも応募できます。
■応募締切
 令和5年9月10日(日)当日消印有効
■投句料
 3句1組につき1,000円
■投句先
 〒770‐0028 徳島県徳島市佐古8番町5-19
 「HAIKU日本 熱闘全国俳句大会」係

選者 ひまわり俳句会会長 西池冬扇
風嶺俳句会主宰 上窪青樹
HAIKU日本理事長 神野喜美女
賞の発表 本大会席上で行います。各選者が特選1句と入選10句を選びます。
特選の方には記念品を贈呈致します。
問合せ先 HAIKU日本 事務局
TEL 088-625-1606

 

 

 

HAIKU日本大賞 大賞発表

 

 

HAIKU日本2023冬の句大賞

 

大賞

チェロケース下ろす聖夜の控室

        [ 東京都練馬区 喜祝音 ]

 

 

(評)クリスマス・イブに催される音楽会の楽屋における一齣を静かに書き留めた作品です。クリスマス・イブで賑わう街の交通を抜けて、会場の楽屋に無事チェロを運び入れた安堵感が、抑制の効いた表現で描写されています。この後、楽屋では舞台用の衣装に着替えたり、髪型を整えたりされるのでしょう。本番に向けて、チェロのチューニングもしなければなりません。楽屋に到着してから、音楽会の幕が開くまでにすることはいくつもあるのでしょう。聴衆に最高の演奏を届けて聖夜のかけがえのない思い出になるよう、練習を重ねてきたことと思います。聖夜を演出する舞台裏に注目して作品化した秀吟です。

 

特選

原潜を孵化して冬の海の黙

    [ 大阪府大阪市 清島久門 ]

 

(評)核ミサイルまで搭載できる原子力潜水艦。現在ではアメリカなど6か国が、核ミサイル搭載の原子力潜水艦を戦略核として持つようになっています。何とも物騒な世の中を「冬の海の黙」として詠んだ社会詠の秀吟。原潜は原子力によって駆動し、潜航は半永久的に可能だとされています。「孵化」は生物の卵がかえることを言いますが、孵化するかのごとく日本の海域にやってきたのか。作者の怖さや不気味さの心情、今の世情を憂える気持ちが強く伝わってきます。

 

 

とめどなく山茶花の散る日であるよ

       [ 徳島県徳島市 山之口卜一 ]

 

(評)一気に読み上げた個性豊かな詠みが、散る「山茶花」を強く印象付けています。説得力のある美しい情景が詠まれ、散る花の緊迫感が伝わってくる作品です。「山茶花」の花は、花首から落ちる椿とは違って、ひとひらひとひら舞い散ります。副詞「とめどなく」が、その様を言い当てており、独特の言い回しに作者の優れた詩心が感じられます。

 

準特選

初御空余生の夢を描きけり

   [ 東京都江戸川区 羽住博之 ]

 

(評)「初御空」は初めて明けた元日の大空を言います。厳かな気分の中で仰ぐ空には、いつもと違う感慨があります。誰しもが良き年であるように願うものですが、掲句は「余生の夢を」に余情と余韻が込められています。まさに、一年の計は元旦にありです。力強く「けり」で言い切った一句は、新春に相応しいのびのびと明るい秀句です。

 

 

夫の掌を握れば薄し龍の玉

   [ 大阪府寝屋川市 伊庭直子 ]

 

(評)「龍の玉」は、常緑の多年草「ジャノヒゲ」の実のこと。細長い葉が蛇や龍の髭に見えることから付いた名です。冬と共に実が熟して瑠璃色の光沢のある玉となります。地面を覆って茂る葉に、隠れるように実を付ける「龍の玉」の瑠璃色はまるで涙のようです。薄く感じられた夫の掌の感覚が伝わってきて、「握れば薄し」の措辞が何とも悲しみを引き寄せる一句。夫への愛情が深く感じられます。

 

 

白飯にパキリと落とす寒玉子

   [ 大分県豊後大野市 後藤洋子 ]

 

(評)玉子かけご飯は日本中の人気の食べ物の一つです。白いご飯に玉子の黄身を落とし込む瞬間の擬音語「パキリ」が、効果を発揮した一句。何気なく聞いている音を実際に言葉で表現するのは容易ではありません。誰もが言葉にしてこなかった音を詠み、それを万人に納得させてしまう秀句。「パキリ」の冴えた音からは早朝の静けさや冷ややかな空気感が伝わります。冬の一日の始まりの作者の心をも表出しています。

 

 

HAIKU日本大賞2023冬の写真俳句 発表

2023冬の写真俳句大賞

緩る緩ると眠りし山の目覚めたる

[ 茨城県水戸市 打越榮 ]

(評)冬山と枯れ木の対比が美しい写真俳句です。雪が溶けはじめた山の峰と茂みの草は、冬から春への移り変わりを象徴しています。「緩る緩る」という言葉は、自然の息吹と共に動物や人の心も緩んでいく様子を表しています。平地を大きくとった構図は、広がりと開放感を与え、春の色はまだ見えないけれど、新しい季節の訪れを予感させる作品です。

 

 

次点

 

 

白鳥の孤独をわかつ水鏡

[ 千葉県船橋市 井土絵理子 ]

(評)水鏡に顔を下げた白鳥の孤独が、写真と俳句で見事に表現されています。白鳥の泳いだ跡が斜めに広がっていく構図は、水面と空間の対比を強調しています。写真の中央にある白鳥の羽はハートに見えて、寂しさと愛情という相反する感情を呼び起こします。自分でも鏡を覗いてみたくなるような、深みのある作品です。

 

 

冬籠荒ぶる風の音を断つ

[ 福島県福島市 山田由紀子 ]

(評)氷上に垂れ下がる枝が、冬の厳しさを表現しています。枝は凍っていて、生命力を失っているように見えます。写真の色彩も青と白が主で、冷たさと静寂さを感じさせます。「風断つ」という俳句は、外界からの刺激や影響を遮断する様子を表しています。冬籠という言葉は、季節だけでなく心理的な孤独や閉塞感も含んでいます。寒さと拒絶という強い感情が伝わってくる写真俳句です。

 

HAIKU日本大賞 大賞発表

 

 

大賞

こほろぎや診察長き妻を待つ

[ 三重県松阪市 谷口雅春 ]

 

(評)秋に鳴く虫のなかで最も身近なものの一つが蟋蟀でしょう。初秋から鳴きはじめて、秋遅くまで鳴いていることがあります。掲句を読んで私のなかに広がったイメージとしては、体調のわるくなった夫人に付き添って夜間診療に訪れている場面です。日中の正面入り口とは違い、夜間診療の専用入口は病院の脇や裏手に設置されていることがあります。夫人が診察を受けているのを廊下の長いすで待ちながら、容体を案じ、難しい病状でないことを祈っています。静まり返った夜の病院に、窓の外から蟋蟀の鳴き声がしきりに聞こえてきたのでしょう。夫人を思いやり、不安になる作者の心情を思うと、蟋蟀の鳴き声がいっそう哀切に聞こえてきました。

 

特選

倒木をのぞきし風や秋遍路

[ 千葉県千葉市 千葉信子 ]

 

(評)倒木を覗き込んでいるのは「風」だという。風雨になぎ倒された木が「秋遍路」の行く手を邪魔しているのか。四国の札所巡りをするお遍路さんの全行程は約1400キロ。平坦な道もあれば、山岳には“遍路転がし”と呼ばれる難所も多く険しい道のりです。お遍路を人生と重ねて詠んだ句と思われます。味わい深い叙景句となっており、「秋遍路」の一歩一歩の歩みに刻まれる重みが伝わってきます。

 

 

 

銃持たぬこの手で絞るレモンかな

[ 神奈川県相模原市 渡辺一充 ]

 

(評)いきなり、ドキッとする五音から始まるこの句は、読み手の心に響き印象に残ります。現在も続いている戦争。銃を手にした姿が日々放映されています。握っているものが、「レモン」であることの安堵感が伝わってきます。もし「レモン」でなかったらという恐怖が読者にも湧いてきます。銃とレモンの取り合わせが鮮烈で、一読して忘れがたい今を詠んだ俳句となります。

 

準特選

紙なぞる指に脂のなき秋思

[ 東京都中央区 梨木悠介 ]

 

(評)「なぞる」のは、紙に書かれた大切な箇所。秋の夜長に、何を思い巡らせているのでしょうか。作者の微妙な影を感じさせ、季語「秋思」にその乾いた心情が託されています。「秋思」は秋の“ものおもい”です。指の乾きに失われていく若さを、敏感に感じ取る作者。一種の哀しみを持つ境涯俳句としてしみじみと心に響いてきます。

 

 

墓終ひのことにはふれぬ墓参かな

[ 大阪府大阪市 清島久門 ]

 

(評)近年は少子化という大きな時代の変化の中にあります。「墓終ひ」は、今や世情の大きな問題になりつつあります。我がことのように鑑賞する人も多いだろう一句。いつかは現実のものとなる「墓終ひ」。「ふれぬ」には、作者の様々な心情が読み取れます。日常の中の作者の感覚が、社会詠とも言える鋭い作品となっています。

 

 

吊し柿五棹なす父懐かしき

[ 徳島県徳島市 山本明美 ]

 

(評)秋の風物詩の一つ「吊し柿」。かつては多くの家で見られました。「五棹なす父」の中七が、思い出の中の父親像を具体的に想起させます。山里の暮らしぶりの中に「父」の姿があって、黙々と手早く仕上げていく姿に尊敬の念を抱いていたことでしょう。下五の形容詞の連体止めも一句に相応しく、父の姿を強く印象付けます。昔の父親像が共感を呼び、読者を懐かしい日々へといざないます。

 

 

2022秋の写真俳句大賞

 

 

大賞

戦など無きがごとくに蕎麦の花

[ 宮城県仙台市 遠藤一治 ]

 

(評)青空と眼下に広がる蕎麦の花が印象的です。今の不安定な世の中を背景に、大自然を前にした作者の素直な感情が込められています。説明になりがちな写真俳句を目にしたものへの感情を描写した良い写真俳句です。

 

次点

空っぽの海は新涼置きにけり

[ 神奈川県横浜市 風人 ]

 

(評)禍々しい程の空の赤に、それを映す渦巻く海、その間にある暗い山と、ビジュアルだけでなく、構成のしっかりした写真が見事です。そこに、「空っぽの海」という言葉を選んだのが詠み手のセンスでしょうか。置いてきたものは何なのか、考えさせられる写真俳句です。

 

 

手を上げし別れが最後曼珠沙華

[ 熊本県熊本市 あさひ ]

 

(評)曼珠沙華の花から死者を思い出すことは想像がつきやすいことですが、別れのシーンが映像として残っているのでしょうか。あの時、もう少し話しておけばという後悔か、いつもと同じ風景だったのか、想像を掻き立てられる写真俳句です。惜しむらくは、写真にある曼珠沙華を句に入れず、どう描写するかが次の課題です。