草津の夜更け 湯けむりの向こうで笑う君 春が来たら又来るよ” 嘘つき “ 又 笑う | 「あの日 あの時 世界の街角で」バカブンド

「あの日 あの時 世界の街角で」バカブンド

ブラジル移民から世界放浪 若い頃にフラッシュバック
消せないアルバムの話。

草木も枯れ始め、いよいよ間も無く雪の季節が草津にも到来。

 

あれから何回か、中居の若い子との湯畑での無駄話が続いた。

 

その度「今年は一緒に冬を越そうよ」「俺にだって東京に用事があるよ」

 

「どんな用事 わかった女でしょ」「まっ 色々あるから」「別にいいけどね」

 

「私はあなたの彼女じゃないし」「でもね ちょっと深い友達だからね」

 

「わかりました」この中居の子とは楽しい時間もあった。

 

それでも俺は、後一週間で山を降りる事にしていた。

 

そんな時、あの中居の子が「今日は付き合ってもらうからね」「どうしたの」

 

「それは今夜話す」何か怒っている。

 

いつもの湯畑の店で先に来て待っていた「今日も寒いな 先に熱燗でも飲んでいよ」

 

そこに彼女が息を切らして来た「ごめん 片付けに時間がかかって」「あっ もう飲んでる」

 

「まっ いいか 私は先ずビール、そして文句を言うよ」「文句って何」

 

彼女はビールを一杯飲んで「お腹の減っているのでおでんも食べよ」じっと見ていた。

 

少し落ちついたようだ「ねえ 山を降りるんだって 聞いたよ 本当」「早いね もう耳に入ったのか」

 

「冷たいじゃない」「明日でも言おうと思っていたんだ」「嘘だ 黙って行こうとしたんでしょ」

 

「俺はそんな事はしないよ」「でっ いつ行くの」「来週の月曜」「もう何日もないじゃない」

 

「この薄情者」「そんなに怒るなよ 草津くらいはいつでも来れるよ」「わかりました 約束だからね」

 

その夜は彼女のうだうだ話に多め酒で疲れた「でも 優しい女だな 後ろ髪引かれる」

 

草津を去る前の日に付き合う約束を、ひつこく文句言われ「はい 守ります」ただ返事。

 

本当に草津の山にも雪ぱらつき始めた「いいタイミングで降りれる 後は今夜か」

 

そして、その夜もいつもの湯畑で話が始まった「明日でさよならだね」「未だ その言葉は早い」

 

「私し明日休みなんで、今日はひつこいよ 覚悟して」「お手柔らかに」

 

初め頃の話から始まり、昔の彼氏の話、ホテルの話で盛りだくさん。

 

「もう話す事はないでしょ」「少し休んだら 又 話すよ」可成り飲んだけど呂律は回っている。

 

「酒強いね 俺はもう充分」「寒くなったので、最後にホテルの温泉でも入るかな」「私も入る」

 

二人で暗い坂道をぞろぞろ歩いた「ちょっと待って」急に彼女が抱きついて来た「馬鹿」

 

「又 来るよ」若いのに情熱的な子だ。

 

ホテルの大浴場は夜中も開いている「もう この時間は誰もいないから独り占めだ」

 

「じゃ 私も一緒に入るね」「何言ってるの」「そこでサヨナラ言うよ いい」

 

彼女はさっさと風呂に入ってしまった「ここは男風呂だぞ」「誰も来ないよ」

 

勇ましい女だ「俺に裸をみられるぞ」「お別れのサービス」湯煙の向こうで彼女は笑っている。

 

草津は雪国になり、春が恋しい待ち時間に入る。

 

あの寒い湯煙の温泉での事は中々ない話。そう言えば、その後二人で布団部屋でぐっすり朝まで。

 

「笑えるな 俺の温泉物語」人には言えないあの湯煙り模様。