その一家の事は、良く知ってはいた。
89歳の母親は夫を亡くし、定年まで勤めた独身の長女を支えて二人暮らしをしてきた。
経済的には、夫の遺族年金もあり安定していたが、その長女がなんと脳梗塞で倒れた。
たしか、退職2年目の62歳だったと思う。
その後は、近くに嫁いだ2歳下の次女が、毎日通って助けてくれた。
好き嫌いの多い我儘な長女のための食事(寿司が好きだという)を届け、トイレまで伝い歩けるが、入浴はできないので手伝うのだ。
施設を嫌がる長女のために、母親はセカンドステージで働く次女に退職を希望した。
ふらついた長女を、母親は支えきれずに上の乗っかる形で転び、長女が3か所骨折してからは、一層何度も頼んだようである。
次女は、この3月で退職を決めた。
夫が言うには、母親は体の弱かった長女にばかり気持ちを向け、長女は健康な次女を邪険にしてきて、今やっと二人から必要とされ次女は嬉しいのだろうと。
息子は、さっさと施設を頼るべきと言っている。
(施設関係者である)
私は、次女は退職せずに出来る範囲で助ければ十分と考えているが、一方母親と長女の遺産は、いずれ次女に全部譲られることを思えば、田舎の世間の手前、退職までしておくことで、誰にも何も言わせない方法でもあるのかなあと考えている。