神話や宗教伝承には、「誰かが攫われる」「異界へ連れ去られる」「敵に奪われる」「誘拐される」というエピソードが意外と多く登場します。
誘拐をされたギリシャ神話のペルセポネの手描きイラスト
ある意味では物語の定番イベントともいえますが、現代だと犯罪ですよね(笑)
以前記事にした「神話宗教でストーカーされた神や人物」にも似てますが、こちらは捕まえられてさらわれてしまったパターンです。
今回は、神話・宗教・伝承に登場する「誘拐や略奪された神や人物」を一覧で紹介します。
神話宗教の攫われた神や人物一覧表
| 名前 | 神話・伝承 | 攫われた内容 | |
|---|---|---|---|
| ペルセポネ | ギリシャ神話 | 冥界の王ハデスに連れ去られ、冥界の王妃に。母デメテルの嘆きによって地上の実りが失われ、季節の巡りを説明する神話にもつながる。 | |
| エウロペ | ギリシャ神話 | ゼウスが白い牡牛に変身し、エウロペを背に乗せて海を渡り、クレタ島へ連れ去った。ヨーロッパの名の由来とも関係する有名な神話。 | |
| ヘレネ | ギリシャ神話 | トロイアの王子パリスに連れ去られた、または駆け落ちしたとされる絶世の美女。この出来事がトロイア戦争の大きな発端に。 | |
| ガニュメデス | ギリシャ神話 | 美少年として知られ、ゼウスに攫われてオリンポスへ連れていかれる。のちに神々の酌人となったとされる、珍しい男性の誘拐例。 | |
| オレイテュイア | ギリシャ神話 | アテナイ王の娘で、北風の神ボレアスにさらわれ、妻となった。風の神による略奪婚型の神話。 | |
| シータ | ラーマーヤナ | ラーマの妻シータは、羅刹王ラーヴァナに誘拐され、ランカー島へ連れ去られた。シータの奪還はラーマーヤナの中心的な展開。 | |
| サティヤヴァン | インド伝承 | 死神ヤマに魂を連れていかれるが、妻サーヴィトリーが知恵と信念で夫を取り戻す。死からの奪還という珍しい救出劇。 | |
| イドゥン | 北欧神話 | 若返りのリンゴを守る女神イドゥンは、巨人スィアチにさらわれた。彼女を失った神々は老い始め、神々の危機につながった。 | |
| フレイヤ | 北欧神話 | 実際に攫われるというより、巨人たちから結婚相手として要求されることが多い女神。「奪われそうになる女神」として扱える存在。 | |
| 天女 | 日本伝承・羽衣伝説 | 羽衣を隠されたことで天へ帰れなくなり、人間の妻にされる伝承がある。女性側から見ると、自由を奪われた異界存在ともいえる。 | |
| かぐや姫 | 竹取物語 | 地上側から見ると、月の都から迎えが来て連れ戻される存在。誘拐というより異界への帰還だが、神隠し的な別れの物語として扱えるかも。 | |
| クシナダヒメ | 日本神話 | ヤマタノオロチに食べられる運命にあった姫。攫われる前の救出劇に近く、スサノオの英雄譚と結びつく。 | |
| ヨセフ | 旧約聖書 | 兄弟たちに売られ、エジプトへ連れていかれた。誘拐・人身売買に近い形だが、この出来事が後の大きな運命につながる。 | |
| ディナ | 旧約聖書 | ヤコブの娘ディナは、シケムに連れていかれる重いエピソードで知られる。扱う場合は、暴力や被害の側面が強いため注意が必要。 | |
| ヒラエイラとポイベ | ギリシャ神話 | レウキッポスの娘たち。ディオスクロイ(カストルとポルックス)が略奪して妻にした。彼らのいとこイダスとリュンケウスから略奪愛したとも。 | |
| サビニの女たち | ローマ建国伝承 | ローマ建国期、女性不足を補うためにサビニ人女性たちが奪われたという伝承。個人ではなく集団的な略奪婚の例。 | |
| グィネヴィア | アーサー王伝説 | アーサー王の妃グィネヴィアは、メレアガントに誘拐される伝承がある。ランスロットによる救出劇と結びつく有名な中世伝承。 | |
| ドゥムジ/タンムズ | メソポタミア神話 | イナンナの冥界下りの後、身代わりとして冥界へ連れていかれる男神。死と再生、季節神話とも関わる存在。 | |
| オシリス | エジプト神話 | 弟セトによって棺に閉じ込められ、ナイルへ流される。誘拐というより謀殺・遺体奪取に近いが、王権を奪われる重要な神話。 |
攫われる理由は大きく分けて5タイプ
冥界や異界へ連れ去られるタイプ
ペルセポネやドゥムジ、サティヤヴァンなどがこのタイプに当たります。
死後の世界や異界との境界を描くため、物語全体が神秘的で重くなりやすいのが特徴です。
結婚・略奪タイプ
エウロペ、オレイテュイア、サビニの女たちなどは、恋愛や婚姻と誘拐が結びつく伝承です。
現代の感覚ではかなり問題のある話ですが、古代の婚姻観や権力関係を反映したものとも考えられます。
敵に奪われる救出劇タイプ
シータやイドゥン、グィネヴィアなどが代表です。
大切な人物が敵に奪われることで、主人公側が動き出し、大きな戦いや冒険につながる王道展開ともいえます。
神や怪物に狙われるタイプ
ガニュメデスはゼウスに連れ去られ、クシナダヒメはヤマタノオロチに食べられる運命にありました。
人間が神や怪物の力に翻弄される神話らしい展開です。
神隠し・異界帰還タイプ
天女やかぐや姫は、完全な誘拐とは少し違いますが、この世ではない場所との関わりによって、地上の人々と別れる存在です。
特にかぐや姫は、月から迎えが来ることで地上を去るため、神隠しに近い切なさがあります。
女性だけでなく、男性が攫われる例もある
「攫われるキャラ」というと、どうしても姫や女神のイメージが強いですが、男性の例もあります。
たとえばギリシャ神話のガニュメデスは、美少年としてゼウスに攫われ、神々のお酌役となります。
旧約聖書のヨセフも、兄弟たちに売られてエジプトへ連れていかれるため、誘拐・人身売買に近い運命をたどります。
また、メソポタミア神話のドゥムジは、イナンナの身代わりとして冥界へ連れていかれる男神です。
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参考文献
神統記 ヘシオドス 廣川洋一訳 (岩波文庫)
変身物語 オウイディウス 中村善也訳 (岩波文庫)
ギリシア・ローマ神話辞典 高津春繁著 (岩波書店)
一冊でまるごとわかるギリシア神話 吉田敦彦著 (だいわ文庫)
イリアス ホメロス 松平千秋訳 (岩波文庫)
聖書 新共同訳・JCB訳 日本聖書協会
いちばんわかりやすい北欧神話 杉原梨江子著 (じっぴコンパクト新書)
マンガ面白いほどよくわかる!古事記 かゆみ歴史編集部 (西東社)
インド神話 沖田瑞穂編訳 (岩波少年文庫)
世界神話辞典 アーサー・コッテル著 (柏書房)
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