バニラエア問題の本質

テレビ各社で取り上げられネットでは炎上している
バニラエア問題。

本質的な問題はどこにあるのかを、私なりに考察しました。
こう言った物事には正解はありません。
いくつかの考え方があるだけです。
 
以下は私個人のひとつの私見です。
 
長文になりますが、お時間が許す時にお読みください。

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●福祉や障害者ではなくサービスの観点から見る
●配慮と特別扱いは違う
●権利と義務は対にあるもの
●機会均等の重要性
●問題解決意欲が低い日本
●失うものにも注意すべき
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●福祉や障害者ではなくサービスの観点から見る

この問題をややこしくしているのは、障害がある
個人が飛行機と言う公共交通機関に搭乗を断られた。
それが「障害者」で「下半身不随」であることで
バイアスがかかり、本質を見えにくくしています。

 LCCなんだから無理を言うな、
 障害者にもLCCに乗る権利はある

の2元論になり、双方の主張が対立しています。
ここでは敢えて、当事者に障害があるかないかを
一旦、棚上げして問題の本質を見てみます。


●配慮と特別扱いは違う

飛行機に乗る場合、一定の割合で
「配慮を必要とする」人がいます。

小さな赤ちゃん連れの親子
膝が悪く杖を使っているお年寄り
宗教上の理由で食事制限がある人

などです。
これは航空会社では「スペシャルニーズ」
と呼ばれ、予約の際や当日空港で
それなりの「配慮」がなされます。

特別扱いと言うのは、VIPだから貴賓室で
待機するとか、プレミアムクラスに予約を
しているからラウンジが使えるとか、
いわゆる「優遇措置」です。
警備上の理由か、上得意客へのもてなしかは
別にして、それを否定する人はいません。

問題は、ことが障害がある人へのサービスと
なった場合、スペシャルニーズ=配慮と
特別扱いが混同されやすいのです。

飛行機では事前改札と言って、小さなお子様
連れの方やお手伝いが必要な方を、他の乗客に
先駆けて飛行機に案内します。
その場面をご覧になった方は多いでしょう。

私も仕事柄、車イスを利用するお客さまと
飛行機に乗ることが多いので優先搭乗を
利用させて頂きます。

ここで私たちが勘違いしやすいのは、
「障害者だから優遇されている」という誤解を
招く恐れがあることです。

車イス利用者などの事前改札は、
プレミアムクラスの乗客より更に先に
飛行機に案内されます。
私たちは「優遇されている」と勘違いします。

これは障害がある人を優遇しているのではなく
事故なく安全に搭乗するために、他の乗客と
ぶつかったりしないための配慮です。

障害者だから優遇されているのではなく、
単に「搭乗時の安全を担保し、混雑を避ける」
ために、先に乗り込んでいるのです。

トイレなどに時間がかかり、事前改札のタイミングを
逃せば「一番最後」ですが、これは当然です。

飛行機に乗客が全員乗るためにはある程度の時間を
要しますし、飛行機を遅らせる訳には行きません。


●権利と義務は対にあるもの

今回の問題で私が違和感を覚えたのは、
木島さんが、事前に航空会社に対して、
「立位が取れない」ことだけではなく、
車イスを使うことすら告げていないことです。

実は私は彼のことを知っており、性格も熟知しています。
彼はANAやJALとも同じようなやりとりを
しています。

私は彼に「事前に伝えたほうが現場がスムーズに回るのでは」と聴いたことがありますが、
彼は「批判は承知しているが自分の信念として、言わずに行く」と
話していました。

なのでトラブルを起こす可能性があるのは
事前に察していたでしょうし、マスコミにリリースして問題が
大きくなり、結果としてネットが炎上することも、
彼はある程度、折り込み済だったでしょう。

彼の信念は尊重しますが、私はやはり一定の配慮が必要な
車イス利用客の事前連絡は「義務」だと考えています。

私は仕事でスイスに行くことも多いのですが、
スイス国鉄のホームページには車イスで鉄道に乗車する場合、24時間前までに事前連絡することを
「require=要求」しています。

お願いではなく、要求です。

先日、北欧に車イスを使うお客さまと出かけた際、
ストックホルムからオスロまで飛行機で移動しました。

事前に車イス利用である旨、メッセージを入れていたのですが、
それが伝わっておらず、ストックホルムの空港で係員にひどく
怒られました。
彼らも「require=要求」という強い言葉を使いました。

彼らの言い分は、
人の手配もしなくてはいけないし、
車イスで座れる座席には限りがある。
今日は非常に混んでいる。

とのことです。まさに正論です。

当社は障害があるお客さまをお手伝いする
ケースが非常に多いので、さまざまな案件を
取り扱います。
航空会社の方が、予約の裏側でどれだけの
配慮をしてくれているかを知っています。

こちらからもお願いすることはしますが、
彼らからの要請にもきちんと応えることにしています。

乗客は私たちだけではないのですから。

そして、これはお客さまに上手に伝えるのがとても
難しいのですが、障害があるからと言って、
こちらからのリクエストが必ず通る訳ではないのです。
 
障害がある方に、この「確約できない」リスクを理解
して頂くのは決して容易ではありません。



●問題解決意欲が低い日本


では、ネットが炎上しているように、
木島さんが一方的に非難されるべきかと
言うと、私は決してそうは考えません。

日本では、障害があるというだけで
色々なことを、半ば強制的に諦めさせられる
社会だからです。

以前、ハワイを旅した時、立位が取れない
お客さまが「パラセイリングをしたい」と
おっしゃいました。

日本人相手のオプショナルツアー会社に
連絡を取ったところ、5社すべてが
「障害がある方はお断りしている」との回答でした。

理由を聴くと5社とも、
「ケガをさせたら責任が取れないから」
と同じような答えです。

私はこれを「慇懃無礼な門前払い」と呼んでいます。

口では申し訳ございませんと言うのですが、
何とかできないかを探る気配は1%もありません。
とにかく早く諦めて貰って、1分でも早く
電話を切りたいオーラが満開です。

私は諦めきれずにハワイのローカルが経営している
アメリカ人向けのオプショナルツアー会社に
英語で問い合わせました。

「車イスを使っているのだけど、パラセイリングに
チャレンジすることは出来るだろうか。」と。

電話口の男性は意外なことを言いました。

「なんで俺に聴くんだ。やるかやらないかは
 本人が決めることだろう。俺がジャッジするような
ことじゃない。」

確かにその通りです。

「でも、ふたつ大切なことを伝える。ひとつは我々は
ハワイ州の法律でゲストの体に触ることを禁じられている。
桟橋から船に乗り移る際、サポート出来る仲間はいるか。

ふたつめ、これは障害の有無にかかわらず、免責書面に
サインが必要だ。理解できるか。」


慇懃無礼な門前払いを、私はこの20年間、お客さまと共に
何十回、何百回と経験して来ました。

昔はイラっとしましたが、今は「歓迎されていないのだから
他へいけば良いだけ」と思えるようになりました。

なぜ、私がそう思えるかと言うと、誤解を恐れずに
言えば「当事者ではない」からです。仕事だからです。

私がもし事故や病気で立つことができなくなり、
飛行機に乗る度に色々聴かれたり、乗れないと門前払いを
されたり、車イスを雑に扱われたりしたら、悲しくなるか、
怒りっぽくなるかのどちらかだと思います。

品行方正でいられる自信などありません。
そのくらい「門前払い」は人の心を傷つけます。
人格を否定されているように感じるのです。
 
その立場にならないと判らないと思います。


●機会均等の重要性


バニラはどうすれば良かったのでしょうか。

まず、ホームページに「奄美空港は階段だけなので
自力で昇り降りできない方は搭乗頂けません。」
と書いてあったようです。

これは今の日本では明らかに「障害者差別解消法」に
抵触する記載です。LCCだから免責される訳ではなく、
公共交通機関である以上、路線開設をした初日から
車イスである利用客の想定をしなければなりません。

ただ、現在は罰則規定はないので、バニラエアーが
「年にひとりも来ないし、いらないんじゃないか」と
思ったとしても、無理はありません。

関係者の誰かひとりでも、「でも、マズいですよ」
と問題提起して、グループ会社のANA辺りに
「どこかに中古で使っていないストレッチャーが
倉庫で眠っていませんか。」とでも聴けば良かった
と悔やまれます。

また、奄美にはANAグループが就航して
いませんが、JALは奄美にリフトを所有して
いますから(ハンドリングする会社はJALでは
ないと思いますが)、競合会社ですが助けを
求める価値はあったかも知れません。

どちらにしても、突然来られてしまっては
対応が後手後手に回ってしまうので、
私はそれなりにバニラに同情はします。

法律を軽く見ていたことは運送会社としては
許されることではありませんが。



●差別解消ではなく、機会均等を目指す

アメリカの障害者差別禁止法に倣って、
日本でもようやく障害者差別解消法が
成立、施行されました。

障害者のサービスの受益に関して、
合理的配慮を要求するというものです。

私はこの法律をとても評価していますが、
名前が良くない。障害者団体は「差別禁止法」に
するよう要求していましたが、土壇場で
差別解消法に書き換えられました。

日本が大好きな「玉虫色決着」です。

この言葉の差し替えで本質が見えにくくなって
しまったのです。

私は(障害がある方からは異論もあると思いますが)
障害者は差別されているのではなく、チャンスが
与えられていないのだと思っています。

日本のバリアフリー推進は基本を「機会均等」
に考えるべきなのです。

障害があり、立位が取れない乗客に
LCCで奄美へ行く「機会」を提供するのか
しないのか。論点はここです。

木島さんも「100点でなくていい。
60点か70点でいい。拒否は止めて欲しい」
と話していました。

では、60とか70点というのは、どんな
ことを指すのでしょうか。

私はバニラの関西空港のスタッフが
こんな案内をすればトラブルにはならなかった
のではないかと思います。
 
以下は私の単なる妄想による想定案内です。

「私たちバニラエアーは、車イスを利用される
お客さまにも楽しい旅をお楽しみ頂きたいと
考えています。ただ、あいにく奄美空港には
リフトがなく階段のみとなります。

お客さまには次の3つの選択からお選び
頂くことが出来ますが、どのプランがご希望ですか。

1.同行の方の手を借りて自力で昇降する。
  スタッフは法律上、手助けができない。

2.昇降ストレッチャーを他社から借りる手配をするが
  時間的余裕がないので、この便では間に合わない。
  便を変更して、ストレッチャーを使い昇降する。

3.航空会社をJALに変更する。当社は無手数料で
  払い戻しをするが、JALのチケット購入は
  お客さま自身の手配とリスクになる。

ご希望の方法をお選び頂ければ現地に伝え、
早速手配を行います。」

ポイントは航空会社側が何かを強制しないこと。
あくまで選択肢を提示して、お客さまに選んで
頂くスタンスを取ることです。



●失うものにも注意すべき

私がバニラ問題を俯瞰した時に、いちばんに心配したのは、
「ああ、これで航空会社の人はまた『障害者』が嫌いに
なってしまっただろうなあ。」と言うことです。

私がバニラの航空係員だったら、自社に落ち度はあるに
せよ、自分の接客が副社長の謝罪にまで波及し、
テレビで連日取り上げられることになったら、精神的に
参ってしまって、明日から会社に行けなくなります。

同僚も、本音の部分では「これだから障害者の人は
嫌だよね」と影でいうでしょう。私でも言うと思います。

これは社会的な損失であり、バリアフリー社会を創る
上ではマイナスでしかありません。

木島さんは私たちの業界では有名な方です。

企業向けのバリアフリーコンサルティングなども
手掛けていますが、このネット炎上を受けて、
新規で彼にコンサルティングを頼む会社が
現れるでしょうか。

彼は個人事業主として
自分のブランドを傷つけてしまいました。

社会に影響力を持つ有名人としては、
木島さんの態度言動を社会が注目しています。

奄美空港にストレッチャーが早急に設置されたのが
今回の騒ぎの唯一の成果だとすると、それはちょっと
寂しい気がします。

木島さんはご自身のブランドに傷がつき
(性格上、まったく気にされていないかも知れませんが)
バニラのスタッフは障害者が嫌いになり、
ネットでは「プロ障害者」に気を付けろみたいな話になり、

誰も幸せになっていません。

今回のトラブルを受けて、
「よし、当社もバリアフリーには積極的に取り組もう」
と考える企業は皆無でしょう。

「やっぱり障害者って面倒くさいんだな、現場では
トラブルがないよう、体よく断っておけ」と言う
指示がでる可能性すらあります。


●障害者はやっかい?

私は障害がある方やご高齢の方の旅行のお手伝いをする
会社を経営していますが、同業の方に言われるのは、

「高萩さん、良く障害者の旅行だけやっているよね。
 クレームとか凄いのでは。ケガとかさせたら大変だよね。
 自分にはそんなリスクを取る勇気がない。」

こんなことを18年間言われ続けました。

全くの誤解であり、ひどい先入観です。

でも、彼らに聴くと、プロ障害者みたいな人に絡まれて
お金を要求されたみたいな経験があったりするのです。
嫌な想いをしていなかったら、そんな発想にはなりません。

私はお客さまと本音でコミュニケーションを取りますから
良いことも悪いことも、出来ることも出来ないことも、
余分にお金が掛かることも正直に言います。

「障害者なんですが、割引はありますか?」

と言う質問には
「いや、割引どころか手間ひまが掛かるので、むしろ割増です。」
とお答えします。本当のことだからです。

障害がある方の旅行を手掛けるには、知識も経験ももちろん
必要ですが、もっとも大切なことは「考え方」をしっかりと
伝えるということなのです。

バニラもあり得ない低価格で運賃設定しているのですから、
法律的にはどうか判りませんが、
「特別な手配には別途費用を頂きます」と言う「考え方」を
広く伝えることはしても良かったと思います。
(法律で認められているかは判りません)

以下も私の妄想によるつぶやきです。

奄美にはストレッチャーがありません。あれ、結構高いんです。
奄美まで5000円で飛ばしている私たちは本社の机も
あちこちからお古を貰っているような会社です。
だからこそ低運賃を実現しているので、至らない点もありますが、
それでも奄美はすごく良いところなので気軽に旅して欲しいです。

事前にご相談頂ければ、「どうしたら気持ちよく旅が出来るか」を
一緒に考えることができます。出来ることも出来ないこともありますが、ぜひバニラで快適な空の旅を。

そんなことをオフィシャルでなくて良いので、会社のスタンスとして
ブログやフェイスブックなどで伝えても良いのかも知れません。

今回のトラブルを見て、バニラって若者からとても支持されている
ことに気が付きました。

ぜひ、今回の件を反省するのではなく、
よりファンを増やすためにどのように考えたら良いのかを
社内でたくさん議論して欲しいと思います。

障害がある方が、もっと気軽に旅が出来る社会を創るには
日本の国民全体の応援、ムーブメントが必要です。

その為には、企業側の責任はもちろん、障害がある側の方にも
「自分たちの側に出来ることは何か」を考え、卑屈にならずに
愉しく旅をして頂きたいと切に願います。

人と人の触れ合いで旅はとても想い出深いものになります。

私はお客さまとご一緒している際、現場では必ず
「ご親切にして頂き、ありがとうございます。」とキチンと
お礼を言います。お客さまも感謝の気持ちを伝えて下さいます。

そうしたら、このスタッフの方は、今日仕事が終わった時、
「ああ、今日も良い一日だった」と思いながら帰宅するでしょう。

空港のスタッフは早朝信じられないくらい早くに出勤し、
終わりもとても遅いのです。本当に大変なお仕事です。

車イスユーザーの方は、日本に暮らしていると生活ストレスは
ものすごいと思います。お察しします。
当社にも、単なるストレス発散かと思うような連絡はたくさん
来ます。お気持ちはよく判ります。
(でも、言いがかりはやめましょう)

障害のあるなしに関わらず、現場の最前線で働く人が
尊敬される社会。
 
良いサービスを受けたら、「ありがとう」と言い合える、
そんな日本にしたいですよね。

長い文章、最後までお読み頂きましてありがとうございました。

文責:ベルテンポ・トラベル・アンドコンサルタンツ 
    代表取締役 高萩徳宗
 
-- ---------------------------------------ベルテンポ・トラベル・アンドコンサルタンツ代表取締役 高萩徳宗(たかはぎのりとし) 〒103-0001 東京都中央区日本橋小伝馬町16-20 小西ビル2階 TEL 03-6231-1690 FAX 03-6231-1698
★高萩徳宗近著   「いい旅のススメ。」エイチエス     http://tinyurl.com/mjbtyjd   「サービスの心得」エイチエス     http://tinyurl.com/q76zaml★くらぶベルテンポブログ     http://ameblo.jp/club-beltempo/
1980円!私には乗る勇気がない…。