前巷説百物語 | aya風呂

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ちょっとまた書いてみようかな(´u`)

無観客開催だから蝉時雨が耳についてうるさいという五輪ニュースを読んだ。
うるさいとはいっても東京の蝉は優しい声のミンミンゼミだよね。
それに比べて、関西にのクマゼミはえげつない。
音量も大きければ鳴き方もこれ見よがし。関西は人も蝉も声が大きい。
でも鳴いている木に鳥やってきた時と、真っ昼間は静かだよ。
蝉はよくわかっているのか、蝉も暑いのか。暑いときにわざわざ活動なんてしない。



前巷説百物語は巷説百物語が始まる前の話。
双六売りだった又市が御行の又市として裏の渡世へと踏み出した人生が描かれている。
後に語りの中心人物となっていく山岡百助のことを、又市はちらっと見かけていた。
又市と百助がかかわった事件のあれこれを一、二作目で先に読んでいたので、ここで出てくる二人の出会いが妙に印象に残った。

「何だあれは」
あれは、京橋の蠟燭問屋の三代目です」
「商人か。そうは見えねえがな。あの恰好は医者陸か易者か――まともじゃねェぞ」
まともじゃないですねえと棠庵は愉快そうに笑う。


このシリーズのひとつに「巨悪の首魁(しゅかい)」との向き合いがある。


仇討ちなら気は晴れるが、恨みが行ったり来たりするだけ。
だから恨み辛み自体を解消するために妖怪仕立ての狂言を練って丸く収める。


祇右衛門は天下を引っ繰り返そうなどという考えは微塵も持ってない。寧ろ引っ繰り返って貰っては困ると思っている筈だ。奴はこの天下の仕組みを――仕組みの歪みを利用して甘い汁を吸っているのだ。祇右衛門は、今のご政道の在り方こそを隠れ蓑にしているのである。
だから、祇右衛門は見えない。
捕まらないのは、大物だからでも下手が多いからでもなく、見え難いからだ。



「前巷説百物語」