No.8 誘惑の小悪魔
携帯がぶるった。
「う~ん。」
アラームを止める。
図書館で本を読んでいるとウトウトしてくるのよね、なんでだろう。
両手を上げて背伸びをする。腰をひねると「ひぇ!」隣に女性がいた。しかも、じっとこっちを見ている。誰この人?なんでここにいるんだろう。
席はたくさん空いている。
のけ反るように距離を置きながら尋ねる。「あの、なにか・・?」すると彼女は肘をついて言った。
「ねぇ、名前なんていうの?」
「えっ?」名前って、わたしのだよね・・。黙ってることに少し苛立ったのか、もう一度聞いてくる。
「なぁ・まぁ・え!」
あまりの威圧感に即座に答える。
「上江洲さゆり。」
「ふーん、さゆりね。わたし、1年の杉田エマ。」
答えに困るわたし。
「そぅ。。」
彼女はニコっと笑い「友達になろうよ!」と言った。えっ?呆然とするわたしを無視するかのように「携帯貸して。」とテーブルの上の携帯を取る。そして目の前に差し出す。
「解除して。」
えっ?
「私、あなたのこと知らないだけど・・・。」
ため息をついたあと、
「今、教えたでしょう。
私はエマ!!
さゆり、早く解除して。」
図書館内に響き渡る。
周囲がこっちを見る。
噓でしょ。
解除した途端、サッと携帯を取って番号を入れる。彼女のバックからブルブルと音がする。
「私、英文科なの。もう行かないと!次の講義に遅れるから行くね。じゃね、さゆり。」
唖然としている私をよそにスタスタと歩いていく。
何、いまのは・・・
あの人誰??
なっ、なんなのよ!
今のはいったい何?!
うそでしょ。
番号教えてしまった。。何してるんだろう。。
>>>>>
「それで、連絡あったのか?」
「ううん、ない。」
2人とも午後の授業を終え帰え、今は私の部屋にいた。
「そっか。本当にさゆりと友達になりたかっただけじゃないか?」
「私は1人でいいのに。」
「うーん、困ったな。」
「困ったじゃないよ隼人、どしたらいい?」
あれからメールも電話もない。この前の件が終わったと思ったら、また問題が発生。どうして。
「ほんとに知らないの?」
「知らないよ。英文科なんて行かないもん。でも・・なんか、気になるんだけど。」
「やっぱり、知ってるんじゃないのか?」
わたしは考える。英文科と同じ講義を取るなんてかなりの低い確率だし。
「ううん、やっぱりないよ。」
「まぁ、とりあえず連絡あるまではそのままにしておけばいいよ。」
「連絡あったら?」
「その時はその時だよ。無視する理由がないんだから。」
「・・・・。」
なんでこんなことに・・・。下からお母さんの声が聞こえる。
「さゆり~、隼人君にご飯食べて行くか聞いて。」
と声がする。
「どうする?」
「うん、予定ないから食べて帰るよ。」
下に向かって「食べて帰るって。」と返事をする。ドアを閉めて隣に座る。
「心配しても仕方ないよ。とりあえず、相手の出方をみよう。」
「うん、わかった。。そういえば、明日ランチに行くね。」
「ランチか、無理しなくていいよ。あの約束は、一度来て欲しかっただけだから。」
「えっ、そうなの。」
「あぁ、でもユリが来たいなら俺は嬉しいけど。無理してくる必要ないよ。注目されるの嫌だろ。あの後思ったよりも医学部で噂になってたからさ。」
「噂って?」
「ユリの学部がどこかって賭けをしてるって耳にしたんだ。今度行ったら聞かれるかもしれないし。」
「でも誰も話しかけてこなかったよ。」
「前回はな、今回もそうとは限らないだろ。あとさ先輩の間でも少し噂になってるみたいだ。どうする?」
来なくてもいいと言われると、行きたくなっちゃうのよね。デザート食べたいし・・・。
「パンナコッタとティラミス食べたい。」
その言葉に笑う隼人。
「じゃ、おいで。待ってるから。」
夕飯を食べ終えた後、隼人は帰っていった。
あの子どこかで会ったことあるのかな?いや、やっぱり会ったことないと思う。全然、覚えてないし・・でもなんか気になる。なんでだろう。。あーあああ、もうヤメた。考えても仕方がない、私はベットへ横へなってストレッチを始めた。
>>>>>
「机の上のプリント取って帰るように。忘れないように。」
先生は教室を出ていく。カバンに教科書を入れ立ち上がった時、携帯が鳴る。見てみるとエマからだ。「お昼、一緒に食べよう。」うわー、きた。「ごめん、約束があるから。」送信ボタンを押す。
すると、「OK」とあっさり返信がてきた。ホッとする。
テーブルの上のプリントに手を伸ばすと、他の人と重なった。・・相手は樹だった。
「どうぞ。」私にプリントを手渡す。私は視線を反らし「ありがとう。」と言って教室を出る。同じ学科だから講義が重なる・・仕方ないことだ。時計をみる。急がなきゃ。
>>>>>
「ねぇ、なんか今日人が多くない?」
前でトンカツ定食を食べている陽介に話しかける。
「ミスターが、ランチに来るって聞いたよ。」
「去年の?」
「さー、俺もわからん。ところで、お前樹に捨て台詞吐いたんだって?」
「捨て台詞?」
「『あんた、ウザい!』って言ったんだろ。ウケるよな、さゆ・・あ、お前らしいよ。でも、樹へこんでたぞ。女の子に初めて言われたって。俺なんて、しょっちゅうだって言うのに。」
「そんなに仲いいの?」
「だって、中学の時同じクラスだったからさ。悪いヤツじゃないんだよ
。だから許してやってくれよな。」
「ふーん。それより隼人は?」
「なんか先生に呼ばれてたよ。そろそろ来るんじゃないか。」
隼人がいないと落ち着かない。完全アウェイの世界だから。すると、3人の男子がこっちへ来た。
「よお、陽介、お前の彼女か?なんか釣り合わないぞ。」
「先輩、僕の彼女じゃないですよ。」
「だろうな。こんな美人無理だよな。こんにちは、誰の彼女?」
私は陽介をみる。陽介は少し困った顔で
「・・隼人の彼女ですよ。」
「おーぉ、噂の美女は君ね。君もここの生徒でしょ。何学部?」
きたー!どうしよう。。
「ん、どうしたの?」先輩だし、答えないと失礼だよね・・どうしよう。
「あの・・・。」
困っていると、その先輩の肩を叩く人がいた。彼は振り返った。
そこには長身で顔立ちの整った男性、透き通るような肌と筋の通った高い鼻、サラサラの髪、どこからどう見てもかっこいい!
「あっ、翔先輩。」
きゃー!と悲鳴が上がる。誰だろう。陽介の言ってたミスターってこの人?
「何してるんだこんなとこで。」
「いや、なんでもないです。」
そう言って先輩たちはどこかへ消えていく。
その男性は親しげに陽介に声をかける。
「陽介、久しぶりだな元気か?」
「はい、元気です。今日はどうしたんですか?珍しいですね。」
「あぁ、書類を出しに事務局に来たんだ。あと教授の手伝いもあったから。たまには学食で食べようかと思って来たんだ。ところで彼女は、もしかして・・。」
「そうですよ、隼人の彼女です。」
「何してるんだよ。」
隼人が立っていた。
ホッとしたように陽介が話しだす。
「お前遅いよ。危なかったぞ。さっき、先輩が来てさ学部聞いてきたんだよ。翔先輩がいなかったら大変だったよ。」
「先生の説明が長くて遅くなった。悪かった。ユリ大丈夫か?」
「うん、大丈夫。」
その様子を見ていた男性が、
「隼人、いつ紹介してくれるんだよ。もう何年も経つぞ。」
嫌そうな顔でその男性を見る。
「助けたの俺だぞ。」
ドヤ顔でニヤニヤして見ている。更に嫌そうな目をする隼人。周りがザワザワと騒ぎだす。
「わかったよ、、彼女はユリ。俺の彼女。ユリ、こっちは俺の兄貴。」
えっ、同じ大学なの?知らなかった。お兄ちゃんいるの知ってたけど、一度も会ったことがなかったから。
「はじめまして、隼人の兄の翔です。ユリちゃんて呼んだ方いいのかな?」
ウインクして私に微笑みかける。ドキッとした。頬が熱くなっていく。
「はい、初めましてユリです。」
「やっと会えたね。いつも俺が帰るといないんもんね。千枝さんから『今日も来てましたよ』って報告はあるんだけど。。隼人が絶対に会わせないんだよ。だからなんでだろうって思ってたけど、なるほど俺好みの美人だ。」
「ぬかせ!」
隼人がキレる。
千枝さんとは隼人の家のお手伝いさん。
「昔から、俺と隼人は好みが同じなんだ。ピアノの先生だったり。親戚のお姉ちゃんだったり、同じ人を好きになる事が多くて。だから君のこと隠してたんだな。」
睨みつける隼人。
「もういいだろ、兄貴がいると周りが煩いから他で食べろよ。」
「あーぁ、分かったよ。陽介またな。ユリちゃん、今度みんなでご飯食べに行こうね。」
「いいっすね!」
その声に反応した陽介を睨みつける隼人。焦った陽介は視線をそらす。
「余計な事言わないで行けよ、兄貴。」
「怖いなー、隼人くんは。じゃあね、ユリちゃん!」
私は軽く頭を下げる。お兄さんは手を振って歩いて行った。
「お兄さん、同じ大学だったの?」
「そうだよ。」
「医学部でしょ?」
「あぁ、気にしないでいいよ。今は研修中でこっちにはいないから。」
「それでも、教えて欲しかった。」
「そうか?」
「うん。」
そんな会話を打ち切るように陽介が言う。
「なぁ、ここでランチするの危険じゃないか?隼人いないと、俺が対応しないとだろ。先輩に聞かれて困ったよ。1年ならはぐらかせるけどさ。さすがに先輩は無理だぞ。」
「確かにそうだな。。どうするユリ?」
「いいよ、次から食べたい時は1人でくるから。」
「俺が持って行ってやろうか?」
「ダメ!それこそバレるよ。」
「じゃ、陽介に行かせるよ。」
「なんだよ、おれは二人のパシリか?」
「この前の解答・・いらないのか?そうだな、たまには自力で頑張ってみろ。」
「いります。行かせて頂きます。」
「あははっ、いいよ陽介。大丈夫だから、まったく隼人いじめ過ぎよ。」私は笑って手を振る。
「これは友情表現だよ。なぁ?」
「まぁな、そういうことにしとくよ。」
この二人、私がいないトコでもこんな感じなのかしら?食事を終え、デザートも食べ終えて満足な私。「隼人、そろそろ行こう。」「わかった。」片づけをして陽介と別れる。
ベンチに座った隼人がこっちを見る。
「で、連絡あった?」
「あっ、そうだ。うんあった。お昼食べようってメールがあって予定あるって断ったら、すぐに返事が来てOKって。」
「案外あっさりだな。」
「うん。でも良かった。色々聞かれるの嫌だし。」
「まだ誰かわからないのか?」
「うん、わかんない。」
「陽介に聞けばよかったな。」
「知らないよきっと。」
「どんな子?髪長い?。」
「長いけど、私ほどじゃないよ。あの子ハーフだよ。」
「それなら、目立ちそうだよ。やっぱり陽介に聞いてみるよ。」
小さく息を吐きだす。またいつ連絡くるかと思うと気疲れする。そんな私に気づいた彼がそっと手を繋ぐ。ドキっとする。
学校だからか、なんか恥ずかしい。親指で優しく撫でる彼。その温もりが指先から伝わってくる。やだ、もう。。。そっと見上げると、潤う瞳がわたしを見ている。その視線は唇へと落ちていく。
「ダメだよ、ここ学校なんだから。」
「前にしたじゃん。」
「あれは隠れてたでしょう。」
彼は周りを見渡し、
「パーカー使う?」
「もう、やだ、なに言ってるの!」
恥ずかしがる私を見て、笑いながら頭を撫でる。
「ユリは笑ってる方がいい。」
「笑えない時もあるよ。」
「そういう時は、俺が笑わせるからいいよ。」
そう言ってギュッと手を握る彼。また見つめてくる。もう!急いで視線を逸らす。
「トイレ寄ってもいい?」
「いいよ、待ってるから。」
誰もいなかった。良かった。この前といいラッキーだ。人がいると落ち着かないし、声かけられそうで嫌だった。
バックを取って鍵を開けると、そこに
エマが立っていた・・。
びっくりつつも冷静を装い、手を洗う。
すると彼女が驚くべきことを言った。
「さゆり、今着替えなよ。私が見張っててあげるから。」
目が点になるとはこういう事だ。大きく見開いたまま彼女を見る。言葉を失う。
「早く、今のうちに着替えて。」
と、トイレの中に私を押し込んだ。
うっそ。バレてる。。
頭の中は真っ白だった。何がなんだかわからない状態で着替えを済ませ、ゆっくりとドアを開ける。エマが待っていた。
「行こう!」
腕を組んで歩き出す。
少し離れた場所に隼人が待っていた。こっちを見て驚いている。わたしは首を横に振る。エマは隼人をチラッと見た後、私の腕を強く引っ張って速足で歩き出した。
「いつも学校内で着替えてるの?」
「ううん、外。」
「そっか、大変だね。これからは私が協力するよ。」
えっ、、?。。エマは、にっこりとほほ笑む。かっ可愛い・・・笑うとハーフ特有の可愛さがある。よく見ると色白で目も大きく鼻が高い。彫の深さはアイシャドーなどいらないぐらいに綺麗だった。そうだ、この声!
思い出した。
トイレで隼人の事好きって言ってた子だ。
「じゃ、友達待ってるから行くね。またね、さゆり。」
そう言って急ぎ足で私を置いて歩いていく。ウソでしょ。。よりによってなんであの子なの。。。しかもどうして助けてくれたんだろう。
わけわかんない!
天井を見上げる。全身の力が抜けていく。「ハァーぁ。。」思わず大きなため息がでる。
終わった。。
次回、「危険なボディーガード」
添付・複写コピー・模倣行為のないようにご協力お願いします。連載不定期。
誤字脱字ないように気をつけていますが、行き届かない点はご了承ください。
沖縄を舞台にした小説です。H大学は架空の大学です。
実在する場所は、紹介していきます。
シークレットバケーション第1話はこちらから
長編小説こちらも連載中です。
アメトピに選ばれた記事