母の日が終わると、一気に季節が進みます。
暖地産地は、植え替え作業に突入。
市場は、目の前にあるシャクヤクの販売に没入。
花屋さんは、しばらくは物日がなく、虚脱状態
過去は振りかえらないのが花産業。
それでも今回のお題は、
まだ、「遅れてごめんね」商戦、「母の月」商戦を戦っている花屋さんがいらっしゃいますが、
2024年の母の日のカーネーションを振りかえります。
母の日5月12日の天気
西日本は大雨、東日本は曇り
西日本の花屋さんは雨にたたられ苦労されたことでしょう。
2024年の母の日商戦をひとことでまとめると、
「おっかなびっくりの値上」といったところでしょうか。
政府・日銀の判断はさておき、
庶民のくらしはすでに、
「デフレを脱してインフレ状態」、
「諸物価高騰」、
「値上ラッシュ」。
弱小花業界。
「赤信号、みんなで渡ればこわくない」
「花が値上して何が悪い」
「クオリティが高い商品を提供しようとすれば高くなるのはあたり前」
強気を装う花屋さん、
それぞれ理屈をつけ、
自分を納得させ、
値上に踏み切られたのではないでしょうか。
その結果は、まだら模様。
東京と地方、都心と郊外、ギフト店と非ギフト店、立地、客層で値上に対するお客の反応はちがう。
長いデフレ経済、失われた30年ですから、だれもが「値上」に経験不足、不慣れ。
値上で客単価アップ×客数減=売上トントン
商売人的には「楽して儲かった」。
小学1年生女子、
将来就きたい職業、
花屋さんは、どうどうの4位。
小学1年生女子のあこがれの職業「花屋」、
彼女たちに、母の日の花屋さんはどんな風に見えたでしょうか?
おこづかいで、お母さんにプレゼントが買えたでしょうか。
2024年4月14日「クラレ調査 新小学1年生女子の親は子どもを花屋にさせたくない」
https://blog.ameba.jp/ucs/entry/srventryupdateinput.do?id=12852698567
花屋さんの値上の原因が仕入れ原価のアップとすれば、カーネーション生産者は満足な母の日だったのでしょうか?
前回のテーマのように、「母の日、カーネーション盛り上がらず」だったのでしょうか?
その前に訂正があります。
前回の図1、
母の日前のSTカーネーション入荷量と単価(日農ネットアグリ市況)。
入荷量の単位(左縦軸)は「万本」ではなく「千本」の誤りでした。
下の図に訂正します。
図1 2024年母の日前の国産STカーネーション入荷量と単価(修正版)
日農ネットアグリ市況のデータを宇田作図
全国主要7市場、単価は税別
以下の図も同じ
訂正図のついでに解説を加えます。
前回同様、以下のカーネーションデータは国産のみで、輸入は含みません。
単価は税別です。
全国主要7市場の最大の入荷量と最高単価はともに5月6日(月)、
入荷量551千本(55万1千本)、平均単価101円。
その後は入荷量、単価とも「月→水→金」と右肩下がり。
入荷量は、55.1万本→47.6万本→33.0万本。
単価は、101円→99円→84円。
このことが、
カーネーション生産者に「盛り上がりに欠けた」感をもたらしたのではないでしょうか。
愚ブログの結論は、カーネーション生産者には好調な母の日でした。
すでにカーネーションは2022年から続く「プチバブル」状態。
そのことをデータで検証。
長文です。
お時間がある方はおつき合いください。
図2は、母の日1週間前(せり3回)の入荷量と単価の推移。
(図1とおなじ日農ネットアグリ市況、全国主要7市場)
着実に母の日のカーネーション単価がアップしていることがわかります。
図2 母の日前1週間(せり3回)のSTカーネーション入荷量と単価の推移
日農ネットアグリ市況がはじまった2008年は69円、2009年は57円でした。
2013年から70円を超え、2021年からは90円超。
1週間の平均単価95円は、十分すぎる単価でしょう。
もうひとつ大事なことがあります。
母の日が終わると、カーネーション恒例の大暴落。
以前の花屋さん、
「もうカーネーションは見たくない」
「赤いものはポストでもイヤ」
最近は、花屋さんのそんな声を聞かなくなりました。
母の日に、カーネーションの存在感が薄くなったためでしょう。
その結果、母の日が終わってもカーネーション単価が好調。
図3は、
重複しますが、母の日1週間前(せり3回)に加えて、1週間後(せり3回日)の平均単価の推移。
母の日後の単価は、母の日前よりさらに年々アップ。
08年は20円、09年は22円。
11年からは30円台になり、18年からが40円台。
今年(2024年)はなんと58円。
いままでの年間平均単価より高いくらい。
母の日後の高単価は、カーネーション経営に大きなプラス。
今年の母の日前後の単価を、
昨年(23年)、コロナ前の19年、ネットアグリ市況がはじまった08年と比べたのが図4。
母の日前の単価は、昨年比1%増、19年比13%増、08年比38%増。
それよりアップ率が大きいのが母の日後。
昨年比32%増、19年比35%増、08年比はなんと190%増(2.9倍)。
図4 2024年STカーネーションの母の日前後1週間の単価を比較
これだけの高単価にもかかわらず、カーネーション生産者の盛り上がりに欠けた感があるとしたら、3月彼岸が母の日に匹敵するほど好調だったこと。
1週間の平均単価、彼岸1週間前92円、彼岸中87円。
今年はここまで20週が過ぎたところですが、11週と19週に単価の角のような高い山ができました。
カーネーション生産者には、この3月彼岸の高単価のウハウハ感が強く残っているようです。
3月彼岸前:11週、彼岸中:12週、母の日:19週
これだけのカーネーション高単価はどこから来たのでしょうか?
①「残存者利益」
苦しい経営環境を生き抜き、これからも生きぬいてほしいと花屋さんからの「エール」。
国産カーネーションは絶滅危惧種ですから。
②輸入が増えない(減っている)
耳にタコでしょうが、国産カーネーションは消費量の1/3。
価格決定権は輸入が握っている。
コロンビアと中国の動向次第。
その輸入が、コロナ禍の輸送の混乱、コロナが収まると円安、超がつく円安。
加えて異常気象、政情不安。
母の日にも輸入が増えず、国産の減少を補えない。
品薄感が続く。
③コストパフォーマンス
カーネーションは、水あげがカンタンで、取りあつかいやすい。
日持ちが長く、保管しやすい。
ロスがない。
花の色が豊富で鮮やか。
周年お手頃価格で手に入り、コストパフォーマンスがよい。
それもお手頃感は80円まで。
④キクに引っぱりあげられた
今年特有の現象
輪ギクのゴールデンウイークからの「品薄単価高」。
輪ギクは花産業の「米」。
輪ギクの相場にすべての花が影響される。
「母の日参り」キャンペーンが成功。
ゴールデンウイーク、母の日にお墓参り。
その需要増にもかかわらず入荷減。
輪ギク、母の日前1週間の平均単価83円(平年56円)。
ゴールデンウイーク期間中75円(平年52円)
(日農ネットアグリ市況)
キクの高単価にカーネーションを含む洋花が引っぱってもらえた。
母の日はお母さんにカーネーションを贈る日を、
墓参りを加えることに成功したキク業界。
花産業、消費拡大にさまざまな活動をしてきましたが、手ごたえが感じられるのが、母の日参り、GWにはお墓参り活動。
母の日参りを提唱したJA和歌山県農をはじめ全国のキク生産者のみなさまの成果。
カーネーション生産者には生まれたときから母の日という大物日がありました。
そのため母の日のありがたさをそれほど感じていないかもしれません。
ほかの花の生産者は、
「母の日=カーネーション」ではなく、
「母の日参り」や「お母さんが好きな花を贈る日」、「ママにマムを贈る日」など、
母の日の花の拡大をめざして活動をしています。
カーネーション生産者には、
1日だけの花火のような母の日より、1年中安定して出荷できるような栽培をめざす生産者もいます。
赤カーネーションは中国産の品種「マスター」に委ねてよいのかを含めて、母の日の国産カーネーション増産をを検討すべきでしょう。
なお、前回、今回は日本農業新聞のネットアグリ市況の全国主要7市場のデータを用いています。
このデータは、決して全国花市場の平均値ではありません。
主要7市場の東京を代表する大田花きの入荷量が圧倒的に多いうえに、単価が飛びぬけて高い。
そのため、7市場の平均値が高ぶれしています。
全国津々浦々の花市場が、母の日の国産カーネーション平均単価95円では決してありません。
その6割ぐらいが精いっぱい。
東京一極集中、大田花き一極集中については別の機会に報告します。
今回はさらに長文駄文でした。
宇田明の『もう少しだけ言います』(No.429. 2024.5.19)
2015年以前のブログは
(http://ameblo.jp/udaakira)でご覧頂けでます
農業協同組合新聞のweb版(JAcom 無料)に、
コラム「花づくりの現場から」を連載しています。
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