母の日前のカーネーション市況は盛り上がらなかったのか? | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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母の日商戦、お疲れ様でした。

5月12日母の日

お天気が悪く、売れゆきが気になります。

今回のお題は、証文の出し遅れのような話題。
母の日前のカーネーション市況です。

日本農業新聞の記事(2024年5月9日)

「カーネーション盛り上がらず」
「母の日」(12日)向けの取引ピークとなった8日、切り花相場が全面高となったが、主役のカーネーションは盛り上がりを欠いている。



画像 日本農業新聞(2024年5月9日)

 

盛りあがらない根拠は、
母の日2営業日前である8日のカーネーション相場
1本99円と前市から2円下げ、前年同期の1本102円にも及ばなかった。
平年(過去5年平均)比は18%高。

注 農業新聞の市況はすべて税別。

つまり、母の日前のカーネーション市況は、平年(過去5年平均)より18%高いが、品薄でかつて経験したことがない空前の高単価であった2022年、2023年よりは安い。
このことが「盛り上がりに欠く」ことらしい。

農業新聞の記事は5月9日(木)。
母の日前の最後、金曜日の市況が残っています。
それと、平年(過去5年)との比較がありません。
それらを、日農ネットアグリ市況をもとに追加しました(図1)。



図1 母の日前のスタンダードカーネーションの入荷量と単価   

   日農ネットアグリ市況のデータをもとに宇田作図

   全国主要7市場

   単価は税別

 

入荷量のピークは5月6日(月)。
入荷量が平年より26%(436万本→551万本)増で、単価が22%(83円→101円)アップ。
次いで8日の水曜日。
入荷量が36%増(351万本→476万本)で、単価が18%(84円→99円)アップ。
母の日前最後の10日金曜日は、

入荷量が8%減(357万本→330万本)で、単価は35%(62円→84円)アップ。
入荷量が平年より増えて、単価もアップしたのですから、十分盛りあがった相場だったと思います。

もし、22年、23年以上、あるいはおなじような高単価がでていれば、
生産者は「狂喜乱舞」でしょうが、
市況としては「狂乱相場」、
花屋さんは「顔面蒼白」、「怒り心頭」。
それを盛り上がったとは言わない。
業界は混乱あるいは困惑。
生産・流通・小売、三方よしの状態ではない。
消費者の母の日のカーネーション離れ、花離れに拍車がかかったでしょう。

日本農業新聞のネットアグリ市況、

ほぼリアルタイムで全国主要市場の市況が過去と比較してわかるすぐれもの。
弱点があります。
国産だけの市況であること。
農業新聞の読者は国内の農家と関連業者ですから、当然かもしれませんが。

国産しか市場入荷しない時代ならともかく、

いまは切り花では輸入が28%(葉もの、枝もの、サカキ・ヒサカキを含む)。
母の日の主役カーネーションにいたっては67%が輸入(2023年推定、図2)。

 


図2 国産と輸入カーネーション切り花数量(ST,SP含む)の推移

   国産は農林水産統計花き編、輸入は植物検疫統計のデータを宇田作図

   2023年の国産は推定値

 

相場の主役はいまは輸入。
相場は、輸入の動向で動く。
価格形成権は輸入が握る。
輸入の入荷状況で、相場は品薄単価高にも供給過剰単価安にもなる。

カーネーション輸入率67%を具体的に表したのが、産地別供給量(生産量・輸入量)の図3。

 

図3 カーネーション切り花の産地別供給量と単価(2023年)

   輸入数量は植物検疫統計、国産は農林水産統計からの推定値

   単価は東京都中央卸売市場花き部年報、公表単価は税込であるため、税別に修正

   以上のデータを宇田作図

  

1位はコロンビアで2億4,100万本、
日本は2で1億9,100万本、
3位が中国で1億800万本。
日本はうかうかすると中国にも抜かれ3位転落。
エクアドルはコロンビアの別動隊的立場。
両国は一体と見るべきでしょう。

つまり、

母の日のカーネーションが盛りあがった、盛り上がらなかったと、日本農業新聞は盛り上がっていますが、このままでは日本(国産)は盛り上がりの蚊帳の外になります。

特性がまったくちがうコロンビアと中国のタッグで、カーネーション供給は万全のように見えます。

コロンビアと中国のちがいをあらわしているのが単価。
東京都中央卸売市場花き部の年報等の金額は税込ですが、日農ネットアグリ市況にあわせて税別に修正しました。

日本が64円に対して、
コロンビアが56円、中国が27円。
高品質・高単価のコロンビア、仏花・安値の中国。
日本はもちろん高品質がウリですが、コロンビアがとって代わろうとしています。
量ではすでに日本を追いぬいています。
高品質に「安定供給=欲しいときに欲しい量」まで含めると、安定供給できるコロンビアは日本より高品質といえます。
しかも日本より1割安い。

図3の2023年カーネーション平均単価には2重の驚きがあります。
日本、コロンビアの高単価と、中国の安値。
27円で中国は持続的に供給が可能なのでしょうか。
一方、日本、コロンビアの高単価にも驚きます。

花は品目ごとに売上の相場感があります。
カーネーションなら坪2万円の売上、バラなら3万円が長く目標でした。
平均単価40円で、出荷量が500本/坪なら2万円に届く。
それが平均単価60円にアップすると、400本/坪でも2.4万円。
500本なら3万円。
これまでの目標をカンタンに超えてしまえる。
失われた30年、長い長いデフレ経済の日本。
物価が安定した国になっていた日本。

モノの値段が変わらなかった日本。
潮目が変わったのでしょうか。

 

いきなりの高単価
これでリタイアを考えていたカーネーション生産者、

もうすこしガンバっていただけるでしょうか。
ベテランの生産者、

子どもに経営を継がせようと考えるていただけるでしょうか。
未来に夢を描く青年経営者、

経営規模を増やしていただけるでしょうか。

高単価を常態化しなければなりません。

そのためには、消費者の財布のひもをゆるめさせる活動が生産・流通・小売に必要です。
第一歩は、花の日商戦の検証です。

今回も長文駄文でした。

 

宇田明の『もう少しだけ言います』(No.428. 2024.5.12)

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