前回は、切り花の価格転嫁による値上に対して、消費者は購入回数を減らして、購入額を微増に留めているというお話しでした(図1)。
図1 切り花の年間購入額と購入回数の推移(二人以上世帯)
青縦棒:購入額 赤折線:購入回数
家計調査データを宇田作図
2024年4月28日「切り花の価格転嫁による値上で消費者は購入回数を減らした」
https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12850036637.html
具体的には、
2023年の切り花購入額は前年比42円増(7,992円→8,034円)、
切り花購入回数は0.3回減(7.8回→7.5回)。
購入回数が減ったのに購入額が増えたのは、値上の影響。
これは二人以上世帯の全世代平均。
世代別では、どの世代が切り花を買わなくなったのか?
今回のお題は、切り花を買わなくなったのは誰かを探ります。
花はシニアに依存していることは、何度も紹介しました。
図2は、2023年の年代別切り花購入回数と購入額。
図2 切り花の年代別購入額と購入回数(二人以上世帯 2023年)
青縦棒:購入額 赤折線:購入回数
年齢は所帯主の年齢
家計調査のデータを宇田作図
年代が上がるほど、購入回数が多くなり、購入額が増えています。
70歳以上の購入回数11.3回は、29歳以下1.8回、30歳代の1.9回の6倍、購入額は4倍。
40歳代の2.7回の4倍、50歳代の5.6回の2倍、購入額はそれぞれ3倍と1.7倍。
60歳代、70歳以上が花の岩盤支持層。
花の消費拡大キーワードは「年寄りを大事にせい」。
2023年の切り花購入回数と購入額は、2000年に比べるとすべての年代で減っています。
ではどの年代が減ったのか?
図3、青縦棒が減少額、赤折線が減少回数。
50歳代をピークに山型のグラフ。
50歳代は回数が7.3回減(12.9回→5.6回)、購入額が7,675円減(14,422円か→6,747円)。
まさに激減。
図3 世代別切り花の購入額と購入回数の減少(2023年を2000年と比較)
図2と同じ
50歳代に次い60歳代の減り方が大きい。
回数で4.5回減(14.4回→9.9回)、
金額で5,993円減(16,323円→10,330円)。
次には40歳代。
回数で4.3回減(7.0回→2.7回)、
金額で4,209円減(7,978円→3,769円)。
定年延長、勤務延長などで、いまや現役世代といってよい60歳代と、50歳代、40歳代の現役世代の中核が切り花を買わなくなっている。
切り花の最大の購入者である70歳以上は、
回数で2.7回減(14.0回→11.3回)、
金額で3,147円減(14,588円→11,441円)で、
40歳代、50歳代、60歳代に比べると減り方が小さい。
数字の羅列、理屈っぽい説明でした。
切り花をもっとも買わなくなったのは二人以上世帯の世帯主の年齢が50歳代を中心にその前後世代であることがわかりました。
50歳代は、勤め人では人生のピーク、最大の収入が得られている年代です。
その収入が最も多い年代で、切り花購入額が激減。
なぜでしょうか?
図4は、
2023年の世代別消費支出額と切り花購入額。
全世帯の消費支出額は353万円、切り花購入額は8,034円。
図4 年代別消費支出額と切り花購入額(二人以上世帯 2023年)
青縦棒:消費支出額 赤折線:切り花購入額
消費支出額の最大は50歳代の418万円。
1か月に35万円を使っている。
花の岩盤支持層の70歳以上は299万円で、最小の29歳以下の296万円とほぼおなじ。
1か月に25万円。
50歳代の花購入額は6,747円で、70歳以上は11,441円。
つまり、
50歳代は、70歳以上より消費支出額が40%多く、切り花購入額が40%少ない。
逆に、
70歳以上は、50歳代より消費支出額が40%少ないのに、切り花購入額は40%多い。
このことは、切り花の消費拡大のヒントになる。
次のヒント。
図5。
2000年と比べた年代別の消費支出額の増減。
図5 年代別消費支出額の増減(2023年を2000年と比較)
青縦棒:増減額 赤折線:増減率
50歳代は消費支出額がもっとも多い世代であるが、2000年と比べると24万円減っている(442万円→418万円)。
5.5%減。
もっとも減ったのが40歳代。
39万円も減った(427万円→388万円)。
9.1%減。
現役世代はすべて減っている。
高度経済成長時代には考えられなかった消費支出額の減少。
消費支出額は収入と連動している。
収入が減ると消費支出額も減る。
モノを買わなくなる。
デフレとはこういうことか。
日本の失われた30年。
働き盛り世代の貧困化?
節約しないと生活できない?
不要不急の切り花を節約するのは当然か?
家計調査の項目「切り花」は、仏花、墓花などホームユースだけではありません。
贈答用、接待用など交際費に相当する用途の切り花も含まれています。
家庭の交際費そのものが大きく減っています。
逆に、食料費が各世代で増大(データ省略)。
切り花代は減らせても、食料品は減らせない。
日本はエンゲル係数が高い国なった。
一方、
60歳代は7万円、70歳以上は11万円、消費支出額は増えている。
ざっくりいうと、
現役世代の財布のひもは堅く、
年金生活のシニア世代の財布のひもはゆるい。
では、切り花の消費を拡大するにはどうすればよいのか?
もともと花を買わない層に花を買ってもらうだけのエネルギーは花産業にはない。
下戸にお酒を売るようなエネルギーは花産業にも、花屋にもない。
花産業、花屋だけではありません。
日本人が、
裸足の国の住民に靴を売り、
北極の住人に氷を売ったのは、
高度成長、24時間働けますかのモーレツ社員の時代。
日本人にはもうそんな働き方はできない。
いまの時代、上司が部下にそんなことを命じたらパワハラといわれる。
小さなエネルギーを有効に使うには、
すでに花を買っているひとたちに、
減った購入回数をできるだけ元にもどしてもらう活動をすることです。
本来なら、
切り花の消費が激減し、もっとも伸びしろが大きい50歳代をターゲットにすべきでしょう。
しかし、
50歳代は財布のひもが堅く、手強そう。
自信がある花屋さんは50歳代に切りこんでください。
購入回数を回復させるためのエネルギーは、岩盤支持層の「70歳代以上」がもっとも少ない。
加えて、現役と年金生活が半々の60歳代。
すなわちターゲットは60歳以上のシニア世代。
現役世代より財布のひもがゆるいのだから。
「スタバはないが砂場はある」と言ったのは鳥取県知事。
地方には
「若者はいないが、年寄りはごまんといる」。
マーケットは大きい。
ではシニア=年寄り=老人に花を売るには?
それは商人である花屋さんの専門領域。
岡目八目的に言えば「接客」。
老人は切れやすい。
無視されるのが嫌い。
店員にちやほやされたい。
花屋さんには多面的な能力が求められる。
花の目利きであることはもちろん、デザイナー、水あげなどの技術者・・
もっとも重要なのは「接客」
花屋さんがもっとも苦手で、無視しているのが「接客」
次にシニアは価格に敏感。
298円、398円、498円、598円が絶対の世代。
かえって価格転嫁しやすい世代。
298円の花束が398円に、398円が498円は容認しやすい。
ただし、商品としての変化が必要。
シニア相手は、商人としての花屋さんが腕のみせどころ。
老人を花屋さんの手のひらで転がしてください。
まずは目前の母の日。
シニア予備軍が来店する日。
超繁忙日。
忙しいからといって仏頂面はゴメンです。
ご健闘ください。
今回も長文駄文でした。
宇田明の『もう少しだけ言います』(No.427. 2024.5.5)
2015年以前のブログは
(http://ameblo.jp/udaakira)でご覧頂けでます
農業協同組合新聞のweb版(JAcom 無料)に、
コラム「花づくりの現場から」を連載しています。
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