花いちばは空前の利益を何に投資するのか? | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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そろそろ花いちば(卸売業者)の2022年度決算がでそろう時期です。
各社好調で、空前の利益だそうです。

コロナ禍のどん底から、潮目がかわりそうです。


今回は、

東京都が公表している東京都中央卸売市場花き部7卸売業者(以下、花き部)の財務諸表から、空前の利益をなにに投資すべきかを考えます。

他人様(ひとさま)の財布をのぞき見するようで申しわけないのですが。

花き部の取扱高のV字回復は本物のようです。
2023年4月2日「市場取扱高の「プチV字回復」は本物か?」
https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12796361855.html

 


図1 東京都中央卸売市場花き部6卸売業者の切り花取扱高の推移

   (東京都中央卸売市場統計情報データを宇田作図)

 

2020年はコロナ禍で、前年の821億円が756億円に落ちこみ、前年比-8%(図1)。
それが2021年には848億円にV字回復して前年比92億円増、+12%。
さらに2022年は908億円で前年比60億円増、+7%。
落ちこんだ2020年からは152億円増、+20%。

取扱高が900億円を超えたのは2008年以来、14年ぶり。

好調の原因、
・業務需要が回復。
・国産が高齢化、資材高などで減りつづけ、その減少を輸入がカバーできず、入荷減(図2)。
・入荷減で単価が大幅アップ。
すなわち、回復した需要に供給が追いついていない。



図2 東京都中央卸売市場花き部6卸売業者の切り花入荷量と輸入率の変化  

  (東京都中央卸売市場統計情報データを宇田作図)

 

では、花き部の経営はどれだけV字回復したのか?

東京都中央卸売市場花き部の財務諸表から営業利益と経常利益を見てみましょう(図3)。
2022年はまだ公表されていませんので、2021年まで。

営業利益:会社が本業から上げる利益。
売上から、原材料費や仕入れ費用、販売費および一般管理費など本業にかかわる費用を差し引いた金額。
経常利益:営業利益に支払利息や有価証券売却益など本業以外の損益を加減した金額。



図3 東京都中央卸売市場花き部の営業利益と経常利益の推移

   (東京都中央卸売市場花き部財務諸表データを宇田作図)   

 

図1の取扱高(売上)は2012年から2019年まで800億円台後半から前半で経過してきました。
しかし、図3のように、利益は2013年以降2020年まで右肩下がり。
本業の儲けを示す営業利益は19年、20年にはマイナス。
コロナ前から利益は減りつづけ、経営が悪化していたことがわかります。


「禍を転じて福と為す」というか、「身を切る改革改善の成果」でしょうか、「背水の陣の営業努力」でしょうか、それとも花業界をとりまく「潮の流れが変わった」のでしょうか・・
2021年は空前の利益、さらにまだ公表されていない2022年は神武以来の利益?


まことにめでたいこと、ご同慶の至りですが、この利益をなにに投資するかで、これからの花産業の運命がかわります。


7卸売業者のひとつであり、トップカンパニーであり、上場企業である株式会社大田花きは、事業報告によると、2022年度は株の配当を12円から15円に増配するそうです。
株式会社ですから、利益を株主に還元するのは当然でしょう。

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株主とともに重要なのが従業員。
それは、「花産業のほとんどの問題は、いちば(卸売業者)従業員の待遇改善で解決できる」からです。

2021年6月27日「花産業のほとんどの問題は市場従業員の待遇改善で解決できる」
https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12683043675.html


花産業において、生産者と花店をマッチングさせて、ウインウインにするのがいちば(卸売業者)の役割です。
それがうまくできていないのは、従業員が早朝勤務、深夜勤務の長時間労働で疲労困憊、賃金でも十分には報われていないので、モチベーションがダウンして、「負の連鎖」におちいっているからです。

従業員のモチベーションをアップしないと、どんなに素晴らしい改革・改善案を掲げても、絵に描いた餅で終わります。



図4 「負の連鎖」を従業員の賃上げで、「プラスの連鎖」にかえる

 

モチベーション・アップの方法はいたってシンプル。
「賃上げ」と「普通のサラリーマン並みの働き方」。



図5 従業員のモチベーション・アップには「賃上げ」と「働き方改革」

 

従業員のモチベーションがアップすることで、「負の連鎖」を「プラスの連鎖」にかえることができます。
2021年、2022年には空前の利益をだし、2023年も同じことが期待できるのですから、賃金アップのチャンス。


デービッド・アトキンソンさんによると、それぞれの国の最低賃金と労働生産性には強い相関があるそうです(図6)。
労働生産性とは、ざっくり言うと、従業員一人が稼ぐ粗利。

給料を上げると労働生産性が高まる。

つまり、取扱高が増え、利益が増える。

しかるに、豊かな国と思っていた日本、すでに賃金が低い国になっており、デジタル化の遅れでわかるように、労働生産性が低い国でもある(らしい)。

アトキンソンさんの提言は、最低賃金を上げ、労働者の賃上げをすることで、生産性があがる。

いまや賃上げは、労働組合の役目ではなく、旗振りは政府・岸田首相であり、経団連。



図6 労働生産性と最低賃金には強い相関がある

   (デービッド・アトキンソン「新生産性立国論」東洋経済新報社2018年)

 

花き部の従業員の年収(給料)の推移を財務諸表からグラフにしたのが図7。
2020年は443万円で急落しましたが、21年には487万円でV字回復。
22年には空前の利益でさらにアップしているでしょう。



図7 東京都中央卸売市場花き部従業員給料の推移  

 (東京都中央卸売市場花き部財務諸表データを宇田作図)  

 従業員は営業関係だけでなく事務関係も含むが、役員は含まない 

 

花き部従業員の給料の推移は、いかにも日本的経営の象徴のように見えます。
図3のように、利益は右肩下がり
であるのにもかかわらず、給料は2015年から2019年までアップしています。

欧米企業のように、会社利益がシビアに従業員給料に反映されていません。
これは、従業員を家族とみなす日本式経営であるとともに、従業員数が減ったことと、平均年齢が上がりつづけていることも影響していると考えられます(図8)。

 

 


図8 東京都中央卸売市場花き部の従業員数と平均年齢の推移

   (東京都中央卸売市場花き部財務諸表データを宇田作図)  

 

なお、今回示したデータは、東京都中央卸売市場花き部。

物価が高い東京都にあることと、取扱高1位の大田花き、2位のFAJなど20位以内の大手業者ばかり。

市場協会の平均給料はもうすこし低いでしょう。

 

いちば(卸売業者)従業員の給料は、生産者、花屋さんに無関係ではありません。

生産者、花屋さんの経営を左右するのが、いちば従業員のモチベーションです。

 

いちばは、生産者の委託をうけた花を、花屋さんに売って、その手数料で生きている企業。
従業員の給料がアップし、モチベーションがアップすると、いちばの利益がさらにアップし、生産者、花屋さんの利益をもアップさせます。

花産業のほとんどの問題は、いちば従業員の賃金アップによるモチベーション・アップで解決できます。
空前の利益は、経営者が乗るクルマをグレードアップする前に、従業員の賃上げに使ってください。

 

農業協同組合新聞のweb版(JAcom 無料)に、

コラム「花づくりの現場から」を連載しています。
https://www.jacom.or.jp/column/

 

宇田明の『もう少しだけ言います』(No.382  2023.6.18)

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