花産業のほとんどの問題は市場従業員の待遇改善で解決できる | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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前回のお題は、「花市場(卸売業者)の取扱高が最低を更新」でした。

2021年6年月20日「花産業の縮小均衡を見える化したのが市場取扱高最低更新」
https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12681605947.html


取扱高減少は、

花産業の構造的な問題を見える化したと考えることができます。
花産業は、

椅子が減るのにあわせてプレーヤーが減っていく椅子取りゲームをしているのです

画像 縮小均衡の花産業は「椅子取りゲーム」

    椅子に座れなかったプレーヤーが退場していく

花市場の取扱高が回復しないと、花産業の縮小均衡は止まりません。
そのために必要な3つのことをあげました。
①市場経由率の回復
②セリから相対、前売りへ転換し、相場の安定化
③従業員の働き方改革でモチベーションアップ

今回のお題は、

③の従業員のモチベーションアップを賃金の面から深掘りします。

従業員のモチベーションがアップすると、市場経営だけでなく、花産業の負の連鎖を打破し、構造的な問題を一挙に解決することができます。
なぜならば、

生産と小売のあいだにある市場だけが両者に大きな影響力を発揮できるマンパワーをもっているからです。



図1 従業員の待遇を改善することと「負の連鎖」から脱出できる

 

例えば、家庭需要(ホームユース)の拡大。
30年近くとり組まれているのに、定着していません。
総務省家計調査での切り花購入額は減りつづけています。
家庭で使いやすいコンパクトな切り花の生産は、アジャストマムやスマートフラワーをのぞいては増えていません。
なぜ成果があがらないかについて、10年以上前に調べられています(図2)。

図2 卸売業者が考えるホームユース用切り花が定着しない理由

   農水省「卸売業者の現況調査」2009年、77社アンケート、複数回答


市場(卸売業者)が考えるホームユースが定着しない理由。
3位が「生産者と顧客のマッチングができていない」。
ホームユースが何年たっても定着しないのは、市場の役割である「生産者と顧客とのマッチングができていない」ことを従業員が認めているのです。
さらに、1位の「単価が安くなるため、生産者が作りたがらない」は、市場が生産者を説得できていないからです。


なぜ、

市場担当者が生産者を説得し、生産者と花屋さんをマッチングさせることができないのか?


それは明白。


日常の業務が手一杯で、余分な仕事をする体力、気力、義務感がもてないからです。


花産業の問題点は、すべてここに集約します。
要するに、「笛吹けど踊らず」。
総論賛成、しかし、自分にはそれをする余裕がながない。


敗戦の焦土から立ちあがり、高度経済成長をなしとげ、経済大国へ駆けあがった時代には24時間戦えた日本人。
それは、「明日は今日より豊かになる」という夢があり、それが実現できたからです。
デフレが克服できず、なにもかも手詰まり感の日本経済、
すこしずつ貧しくなっている日本、

もはや24時間戦えません。

それぞれの仕事をもう一歩前へ進めるには待遇の改善がいります。
待遇がよくなると、満足度がアップし、モチベーションがアップします。
従業員のモチベーションが高いと、生産者と花店のマッチングだけでなく、花産業のほとんどの問題を解決することができます。


モチベーションアップの方法は、シンプルです。
賃金アップと、普通のサラリーマンに近い勤務体制です。


ここからは花産業での地べたを這いずりまわるはなしから、いきなりマクロ経済的なはなしになります。

日本の賃金は高く、豊かな国だと思っていました。
もはやそうではないようです。


比較しやすいのが最低賃金。
最低賃金は、低所得者や中間層の賃金に直結します。
日本の最低賃金(時給)は着実に上がっています(図3)。
)。
図3 最低賃金(時給)の推移(共同通信 2021年6月22日)

 

2020年には全国平均で902円。
東京、神奈川では1,000円超え。


花産業の立場では、この金額では採算にあわない。
とくに、アルバイト、パートを雇って、輸入切り花を中心にスーパー・量販向けの花束にする加工業はなりたたない。
中国で加工した花束を輸入するようになり、やがては国内の花束加工業が消滅するでしょう(スーパー・量販の置花のアメリカ化)。

一方では、

最低賃金の低さがデフレを克服できず、経済が縮小する原因。
日本の最低賃金はOECD加盟37か国中13位(表1)。


表1 OECD加盟37か国の最低年収、最低時給の比較(米ドル)

   (OECD 2019年)

 

EU先進国はもとより、韓国にさえ負けている。
(中国や台湾、シンガポールなどはOECDに加盟していないので不明)
経済大国日本で働くひとの最低賃金がこんなに安いなんて。


これは日本の労働者の質が低いからではない。
日本の労働者の人材評価(どう評価したかは省略します)は世界最高レベル。


一般的には、人材評価と最低賃金とは相関があります(図4)。

 


図4 労働者の質(人材評価)と最低賃金との関係

   (デービッド・アトキンソン「新生産性立国論」東洋経済新報社2018年)

 

労働者の人材評価が高い国は最低賃金が高い。
あるいは、最低賃金が高い国は、労働者の人材評価が高い。
その相関セオリーから外れているのが日本。
労働者の人材評価が高いのに、最低賃金が低い。


言いかえると、

日本の経営者は優秀な労働者を不当に安く雇っている。
反論は多いが、

それはこのあと登場するデービッド・アトキンソンさんにおまかせ。


言えることは、最低賃金と生産性には強い相関がある(図5)。
最低賃金が低い国は生産性も低い。

 


図5 最低賃金と生産性との関係

  (デービッド・アトキンソン「新生産性立国論」東洋経済新報社2018年)

 

日本の生産性が低いのは最低賃金が低いからというのが、デービッド・アトキンソンさん。

「最低賃金引き上げで、日本は必ず復活する」と強く主張。

 

デービッド・アトキンソン

国宝などの修復を手がける小西美術工藝社 社長

1965年英国生まれ、オックスフォード大学「日本学」専攻

1992年ゴールドマン・サックス入社、2007年退社

金融アナリスト

2017年より日本政府観光局の特別顧問

2020年より政府の成長戦略会議の議員

安倍首相、菅首相のブレーンの一人

著書多数

とはいえ、

経営者は利益を優先する。
取扱高が最低を更新しているのに、賃上げする経営者はいない。

最低賃金を決めるのは政府。


売上が下がると、

従業員の給料を下げて(ボーナスを減らす)利益を確保しようとする。
ただし、

花業界に限らず、賃金が減り、ボーナスが減ると、モチベーションが下がり、離職者が増える。
しかも優秀な人材から辞めていく。
ますます負の連鎖が強まる。


花産業、今夏のボーナスはいかがでしょうか(図6)。
従業員のモチベーションが下がらなければよいのですが。


図6 夏のボーナス支給額前年比

   2021年夏はマイナス予測?

   (朝日新聞 2021年6月27日)

 

次回は、もうひとつのモチベーションアップの方法、働き方改革。
こちらは経営者の判断で、ふつうのサラリーマンに近いような働き方にかえることができる。

 

宇田明の『まだまだ言います』」(No.285 2021.6.27)


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