母の日のポットカーネーションは根がついた切り花 | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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カーネーションへの定番回帰の母の日が終わりました。
花屋さんは、「遅れてごめんね」、「母の月」でもうひとがんばり。

 


画像 「遅れてごめんね」

    イオン洲本店(2022年5月15日)

 

さて母の日のカーネーション、
ポットカーネーションはお客さまのもとで、これからが勝負。
切り花は花びんに生ければ、あとはながめるだけ。
鉢ものは毎日、それなりの手入れが必要。

 

画像 5月7日購入のポットカーネーション(東、北に窓がある明るいDK)

    5月15日現在、かなり赤の花色があせてきました

    10花が開花、色が見えるつぼみが6 

    すでに枯れた花が2花、枯れた小さなつぼみが11

 

よほどの園芸マニアでなければどう管理すればよいかわからない。
幸いなことに、いまはカンタンに情報がゲットできる。


ネットで検索すると、

ポットカーネーションだけでも膨大な管理法がアップされている。
字を読むのがめんどうな現代人にはYouTubeがわかりやすい。 
再生回数が膨大なことから、母の日のポットカーネーションの管理の仕方、来年にも咲かせる方法についての要望が大きいことがわかる。


この分野では、花屋さんが大活躍。
それぞれの経験に基づいた管理法を展開。
一方、

消費者が求めている栽培技術でありながら、専門家である生産者や生産サイドの技術者の解説が少ない。
その理由
・生産サイドは市場で値段をつけてもらうまでが勝負、その先のことはあまり考えていない
・植物学的、園芸学的に考えると、ポットカーネーションを夏越しさせ、翌年も咲かせることは、東京以西の暖地でははなはだ困難。
・フザリウムなどの病気で枯れる、枯れなくてもスリップス、ダニの被害で無残なすがたになることがわかっている。

 

今回のお題は、

母の日のポットカーネーションの管理法を、根本的に「鉢ものとは何もの」から考えます。

①消費者が鉢ものを「育てる」とは?


日本人は、

古来より植物を「育てる」ことが好きな園芸マニア民族。
ただし、

現代ではよほどのマニアでない限り、「育てる」といってもめんどうなことはしたくない。
つまり、

家庭に、鉢ものが「枯れずに」あるだけで、育てている気分になり、癒しになる。
観葉植物や多肉植物が人気のヒミツ、
本人は育てているつもり、
実際にしていることは時々水をやるだけ。
あとは植物自身の生命力と家庭環境(冬の暖かさ)で成長し、何年にもわたって楽しめる。


コチョウランがお祝いの定番になったのは、贈られた側は、水をやることもなく、管理もせずに、長期間、「お祝い」気分を満喫できるから。

冬の定番シクラメン、母の日のカーネーションのライバル、ポットアジサイ。
水をやるだけで、育てている気分になり、長期間、花が楽しめる。
シクラメンの夏越しについてのネット検索は多い、
ほとんどのひとは「雨が当たらない涼しい軒下」に置いたまま忘れ去る。
ポットアジサイは、

大きな鉢に植え替えるか、地植えにすると、驚くほど大きくなる。
毎年、母の日にはムリだが6月には確実に花が咲く。



画像 数年前に買ったポットアジサイ

    花が終わった後、地植えしたらこんなに大きくなり、毎年花が咲く

    撮影した5月15日にはつぼみの状態

    後ろのヒラドツツジの花は終わりました


消費者は、実際にはたいしたことは何もしていないのだが、「育てた」気分を満喫できる。
これが鉢もののメジャー品目になる条件。
これが露骨になり、鼻につくようになったのが、シンビジウム。
なにもしていないのに、毎年成長し、花が咲き、いつまでたっても枯れない。
シンビジウムの真逆がポットカーネーション。
いろいろ手をかけているのにうまくいったことがない。

 

②母の日のポットカーネーションは「根がついた切り花」


母の日の定番であるポットカーネーションは、メジャー品目の条件を満たしていない。
どんなに手をかけても、夏を越し、翌年にきれいに花を咲かせることは至難のワザ。
ほとんどのひとが、立ち枯れ病、スリップス、ダニの被害で育てる気力を失う。
「手入れをしている」のに、枯れる。



画像 スリップスに食害されたカーネーションの花

    「こまったときはよって」さんブログより引用

 

それ以前に、

花鉢としての必須条件をもクリアーできていない。
・開花期間が鉢ものとしては短い。
・咲き終わった「花がら」がみぐるしい。
・買ったときについていたつぼみのうち、小さいものは咲かない。
・開花中に、下葉が黄色くなったり、枯れる枝がある。


母の日=カーネーションという「ゲタ」をはかせて、なんとか買ってもらえている。
アジサイは母の日が終わっても売れるが、ポットカーネーションは母の日限定。
切り花カーネーションは1年中花が咲くのとおなじように、ポットカーネーションも1年中花が咲く。
にもかかわらず、花屋さんがポットカーネーションを母の日しか売らないのは、クレームがこわくて売りたくないから。


では、ポットカーネーションは母の日の商品に不適格か?
そんなことはありません。
母の日にはなくてはならない定番商品です。
母の日にカーネーションの花を存分に楽しめたのですから、十分に役割を果たしています。
夏越しさせて、秋に咲かせる、来年の母の日にも咲かせるは、ご褒美みたいなものです。


2018年5月13日「この花、来年も咲きますか?-母の日のポットカーネーション-」
https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12375558759.html

考え方をかえる。
母の日のポットカーネーションは、
「根がついた切り花」、

「根がついたアレンジ」であることをお客に理解してもらう。
花が咲き終わったら、切り花とおなじように廃棄してもらう。
根がついているから、切り花より観賞期間が長いこと、
切り花にはない「育てた感」を味わえることがポットカーネーションの大きな利点。
ただし、

前提は根がついているから、根がない切り花より日持ちが長いことです。


2018年6月3日「母の日のポットカーネーション、まだ咲いていますか?」
https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12380465923.html

③育てたいお客にはダイアンサス・なでしこ系(ガーデンカーネーション)


「育てる」こと、「来年も咲かせる」ことをのぞむお客は多い。
それなのに、「根がついた切り花です」では花産業として責任を果たせない。
園芸的に進化したカーネーションは、品種改良の過程でさまざまな血が入っている。
さまざまな系統があり、見かけは似ていても性質、特性がちがう。
「来年も咲かせたい」お客にはダイアンサス・ナデシコ系のポットカーネーション(ガーデンカーネーション)をすすめる。


シクラメンに丈夫なガーデンシクラメンがあり、戸外の花壇、プランターで育つ。
そのままで、来年も咲く。
ポットカーネーションにはダイアンサス・ナデシコ系のガーデンカーネーションがり、戸外でよく育ち、来年の母の日にも花が咲く。


根がついたアレンジであるポットカーネーションと、育てるためのダイアンサス・ナデシコ系(ガーデンカーネーション)との役割分担で、多くの消費者に満足していただけます。

④母の日のポットカーネーションを置くのは室内or室外?


カーネーションは地中海沿岸地方の原産、
太陽の光がたくさんあり、涼しくて乾燥した環境が好き。
日本の梅雨や高温多湿の夏は苦手。
したがって、

植物学的にはポットカーネーションは雨があたらない戸外で育てるのがよい。
しかし、

母の日のプレゼント商品と考えると、切り花とおなじように、いつも目にすることができる室内で楽しんでいただくほうがよい。
そもそも論ですが、鉢ものは人間の幸せのためにあります。
鉢もの=植物は人間の最適環境のもとで生存、生育できなければ園芸商品にはなれない。


ネットでは、

ポットカーネーションは「必ず光がよくあたる戸外で育てる」と指導している情報が多い。
光にあてないと2週間で必ず枯れると断定しているものもある。
この花屋さんがいう「枯れる」のがどういう症状をいうのかはわからない。
室内に置いて2週間で株全体が枯れるなら、それはもはやまっとうな商品ではない。
花屋さんがそんな商品を売るわけはない。
ただし、小さなつぼみ(スプレーカーネーションでの孫芽に相当)はつぎつぎにしおれ、枯れていく。
もともと孫芽は咲かない。

切り花のスプレーカーネーションでは生産者が孫芽をとって出荷している(たいへんな手間がかかる)。
ポットカーネーションでも孫芽はとったほうがよいが、生産者が孫芽をとるのは膨大な作業量で、母の日に出荷できる数量が激減するので不可能。
そのため、

ネットでは「ポットカーネーションを買ったら、中身がスカスカなつぼみは咲かないので取りましょう」と指導していることが多い。

 


画像 5月7日に購入したポットカーネーション1週間でスカスカの小さなつぼみは枯れた

 

さらに、立ち枯れ病に弱いカーネーションは、生産者の温室でフザリウム菌に感染、その後輸送中、市場、花店および消費者の家庭での劣悪環境で発症し、枝が枯れることがある。



画像 立ち枯れ病(通称 枝枯れ病 病原菌はフザリウム)で枯れた枝

    生産者の段階で感染

    5月7日に購入したポットカーネーション 5月15日撮影

 

 

母の日のポットカーネーション、

少しずつ進化していますが、問題がなかなか克服できない手強い商品です。
今回も長文駄文でした。

 

宇田明の『もう少しだけ言います』(No.326 2022.5.15)

2015年以前のブログは

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