国産切り花が貴重品になる時代のホームユース・短茎規格生産 | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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ホームユースの定着と拡大は花産業の最重要課題であることは、まちがいがありません。
ホームユースでの切り花の規格は業務需要より小さいこともわかっています。
しかもその規格は、日本の家庭環境にあわせてさらに小さくなっています。

2021年10月3日「超ミニ化するホームユース規格に生産者はどう対応するのか」
https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12702694595.html


日本の家庭環境、生活スタイルの変化に応じて、求められる切り花の規格が変わるのは当然です。
生産者は、

消費形態の変化に応じた切り花を供給しなければならないことも当然でしょう。

 


画像 ホームユース・短茎規格の切り花

    (日本農業新聞2021年10月14日 俺の農業新聞さんのFBより)

 

ただし、

ホームユース用短茎切り花を生産して経営が成りたつことが前提です。
あるいは、

消費者重視の観点からは、生産者は、消費者がのぞむホームユース・短茎規格を生産して経営を成りたたせるにはどうすればよいかを考えなければなりません。

現状では、

切り花の市場での価値観、値付けは長くて大きいと高く、短くて細いと安い。
すなわち、2L、Lは高く、M、Sは安い。

値付けがわからない草花類では、10cm10円で格付けされることがあります。

60cmなら60円/本、40cmなら40円です。
あたりまえですが、短茎切り花の生産は、採算にあわなければ増えません。


一方では、

国産切り花は貴重品になりつつあります。

国産切り花の生産量は、花産業のバブルがはじけた2000年には56億本でしたが、2020年には33億本です(図1)。
20年間で23億本、40%減りました。
輸入が国産の減少をある程度カバーしていますが、8億本が13億本に、5億本が増えただけです。
ここ10年の輸入は12~13億本でおおきな変化がありません。



図1 切り花(枝もの、葉ものを含む)生産量と市場単価の推移

   国産数量:農林水産統計花き編 輸入数量:植物検疫統計(サカキ類は小枝20本=1束=1本)

   市場単価:大阪鶴見花き地方卸売市場年報(税抜き) 

 

国産切り花の減り方は一直線です(図2)。
このまま直線的に減りつづければ2049年には国産は0になります。
2014年の推定では2048年に0でしたから、6年たっても状況はかわっていません。
これはスーパーコンピュータの解析ではなく、たんにエクセルで回帰直線を描いただけ。
しかも、

輸出国や国内の事情を無視した、2000年から2020年までの国産の生産量から推定しただけのあやしげな「科学」。


図2 国産切り花生産量予測

 

現実的には、

国産が図2のように直線的に減りつづけることは考えられません。
そろそろ踏みとどまり、反転するでしょう。
花業界はV字回復させるために、さまざまな活動をしています。
また、輸入依存には限界があります。
日本人が求める多彩な品目に輸入だけで対応することはできません。
市場に流通している切り花の種類は1,200品目(枝もの、葉ものを含む)もあります。
おそらく日本が世界で一番がたくさんの種類の切り花を利用しているでしょう。
輸入は180品目にすぎません。

スイートピー、トルコギキョウ、リンドウ、ダリア、ヒマワリ、ラナンキュラス、グロリオアサなどわが国が圧倒的な育種力、栽培技術力の品目を輸入がとってかわるのはむずかしいでしょう。
季節の草花類や小花類、枝ものも輸入ではむずかしいでしょう。


南米からの輸入により壊滅したといわれる米国の切り花生産でも、カリフォルニアを中心に米国産が健闘しています。
したがって、日本でも国産が0になることはありません。
ただし、生産効率がよい輪ギク、スプレーマム、バラ、カーネーションなどのメジャーな品目は輸入が主体になり、国産は草花類、小花類、枝ものなどのニッチ品目を担うようになることが予測されます。
つまり、国産はますます貴重品になるということです。


そのことを反映して、

国産切り花の平均単価は毎年わずかずつですがアップ傾向にあります。
図1の国産、輸入の単価では傾向がよくわかりませんので図3にまとめ、いつものエクセルで傾向線を描きました。
国産は、2000年から2020年の20年間で23億本減りました。
この間で平均単価は3.5円アップ(大阪鶴見花き地方卸売市場年報、税抜き)しました。

税込みでは、56.7円から63.3円へ6.6円アップ。
これからさらに国産が減り、貴重品化すると単価アップも大きくなるでしょう。
同時に生産者の責任も重くなります。

高品質・安定供給です。


図3 国産と輸入切り花の平均単価の推移

   大阪鶴見花き地方卸売市場年報

   単価は税抜き

 

減りつづける国内生産者の役割はあきらかです。
通常規格品をしっかりとつくり、小売りサイドの期待に応え、高単価をとり、経営を継続することです。
そして、法人需要、葬儀、ブライダル、ギフトなど業務需要に対応できる品質の切り花を安定供給することです。


農家経営は単純です。


所得=単価×出荷数量-経費

ホームユース短茎規格は通常規格より単価が安くなります。
それを、

出荷数量増と経費削減でカバーしなければなりません。
出荷数は、密植や株あたりの芽の数を増やすこと、選別を緩くして廃棄する数を減らすことで、ある程度増やせます。
経費は、選別が緩い、大箱で出荷できる程度で、大幅な削減はありません。
採花労力はふえます。
結局、

低単価を出荷数量増と経費削減でカバーするのはむずかしい。
このことは、

これまでにM・Sをつくって、安定した経営ができた事例がないことが証明しています。

では、ホームユース・短茎規格をだれが供給するのか?
この問題は、生産サイドだけでは解決できません。
生産-市場-小売りの3者の協力・協議・合意が必要です。

これまでM・Sをつくって経営ができなかったのは、つくるまえに売る、3者合意がなかったからです。


供給の方法は、
①通常規格のMやSなどの下位等級を利用してもらう

②通常規格に加えて、別にホームユース・短茎規格を生産する
どちらも市場が主体であり、3者合意が必要なことにはかわりがありません。

図4 ホームユース・短茎規格の供給方法

 

①は、市場が小売りサイドの目的に合った規格を集めることになります。
下位等級を安定して集荷するには、産地との協議・合意が必要になります。

入荷量が多い大手市場でないと安定集荷はむずかしいでしょう。
生産者のメリットは、

下位等級の付加価値を高めることで、平均単価がアップすることです。

②は、アジャストマム、スマートフラワーのように通常規格とはちがう短茎生産ですので、栽培をはじめるまえに規格、数量、納期、単価などの3者合意・契約が必要です。
単価のたたき台は、通常規格の坪当たり売上金額になります。

相場に左右されない安心感が単価に含まれます。
生産者のメリットは、契約どおりに納品できれば、安定した収入が確保できることです。


まったく別の観点で、ホームユース・短茎生産を拡大する方法があります。
定年帰農者、高齢者、婦人などによる集落営農です。
これらの新規生産者は、通常規格で高単価をねらうことは困難です。
ホームユース・短茎規格で、大きくつくる必要がなく、ゆるい選別であれば十分に対応できます。
高齢者が苦手な農薬散布は、農協や地域の専業農家に委託します。
短茎規格生産で生計をたてるのではないので、単価設定のハードルが下がります。


画像 滋賀県のホームユース・短茎規格の小ギク生産

 

画像 滋賀県産ホームユース・短茎規格小ギク

    切り花長45cm、大箱350本入り

 

条件は、

県・地元役場や農協に熱心な指導者がいることです。
もちろん、受け皿となる市場は必須です。
産地に足を運びやすい地元市場の協力が期待できます。
衰退する農村の活性化の起爆剤になります。
地方にとってはのぞましい形態です。

 

宇田明の『まだまだ言います』」(No.297 2021.10.17)


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