超ミニ化するホームユース規格に生産者はどう対応するのか | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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宇田 明が『ウダウダ言います』、『まだまだ言います』に引き続き、花産業のお役に立つ情報を『もう少しだけ』発信します。

コロナ禍で、

業務需要が減って、ホームユースが伸びているといわれています。
ホームユース需要の定着と拡大は花産業にとって最重要課題。

コロナ禍はピンチですが、チャンスでもあります。
とはいえ、

ホームユース拡大はコロナ禍ではじまったことではありません。
いまだに定着していませんが、25年以上前から言われつづけてきました。

2020年7月26日「25年たってもホームユースの花が定着しない理由(わけ)」
https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12613297070.html

25年間、

花業界がホームユースについて小田原評定しているあいだに、ホームユース規格が変わってしまいました。
日本の家庭環境にあわせて超ミニ化。
家庭への切り花の「定額でポストに届く定期便サービス(以下、「花の定期便」)」の登場で、ホームユースの超ミニ化がすすんでいます。

 

いま流行りの花のサブスクの一環です。
花のサブスクとは、毎月一定金額を払うことで、定期的に花が買えるシステム。
花屋さんの店頭での受けわたしと、配送されてくるシステムがあります。
とくに超ミニ化しているのは、家庭の郵便受けに届く「花の定期便」です。

 

画像 切り花がポストに届く!

    郵便受けに毎週届く「花の定期便」

    「切り花は鮮魚」と考える花業界には、切り花をポストに投函する大胆な発想はまったくなかった

 

花の定期便業者はけっこう多く、IT企業など花業界以外からの参入もあるようです。
それぞれのシステム、特徴の比較が詳しく紹介されています。


ハナラボノート「【花の定期便】各社徹底比較!花のプロが実際に試してレビュー」
https://hanalabo.net/2020/09/06/flower-teikibin-hikaku/


おひとり様TV「花のサブスク!花の定期便の比較!16社の比較リンク集(2021年)」
https://ohitoritv.com/subs-flower/
 

わたしは

生産サイドの目線で、「花の定期便」業者が市場から仕入れる切り花について考えます。

これまでのホームユース規格、

たとえばアジャストマムのように、通常規格の輪ギク90cmを60~70cmへの短茎化でした。
これがスーパー・量販などの置き花サイズです。
それが「花の定期便」では20~25cmへ一挙に超ミニサイズ化されました。



画像 サブスク「花の定期便」大手のブルーミーは20~25cmの超ミニサイズ

 

これまでも超ミニサイズはありました。
何度もとりあげた関西仏花は35cm。


画像 超ミニ規格の元祖 関西仏花 35cm

    関西の仏壇の花びんにあわせたサイズ

 

有名な青山FMのグラスブーケ、キッチンブーケなどは超ミニサイズ。
いま考えると、

青山FMは日本の家庭環境をよく知っていたのだと思います。


画像 青山フラワーマーケットのグラスブーケ、キチンブーケ、ダイニングブーケ

    日本の家庭環境をよく考えている

 

日本の家庭には大きな花びんが置ける場所がありません。
住宅展示場のモデルルームのような整然とした部屋などはありません。
テーブル、椅子の上にまでモノがあふれている。
幼児、孫が走りまわる。
犬、猫がとびまわる。
花を飾れるのは、せいぜい玄関かトイレ。
食卓、テーブルにはグラスに生けた20cmていどの切り花がやっと。
もはやスーパーの置き花でも大きすぎるぐらい。

 


画像 ホームユースでは専門店を上まわるスーパーの花売り場

    パック花で切り花長60~70cm程度

 

それなのに、

多くの花屋さんは、いつまでも、床の間がある家庭のイメージのままのような気がします。
花を売るのはプロですが、自宅に花を飾ることは少ないのでしょう。
花業界全体が「大きいことがよいこと」という価値観からぬけだせません。
いわば、花業界は裸の王さま。


「花の定期便」は花業界の固定概念を打ち破りました。
・日本の家庭にあわせた20~25cmの超ミニサイズ
・鮮度が命の生鮮切り花を郵便受けに投函する大胆さ

 既存の花業界にとっては、「魚屋さんがイワシをポストに投函する」ようなありえない出来事。

「花の定期便」は急速に伸びているそうです。
ということは、超ミニサイズ切り花、枝もの、葉ものの需要が増えているということです。
現在、超ミニサイズ規格は市場に流通していません。


「花の定期便」業者はどのようにして花材を調達しているのでしょうか?
また、

超ミニサイズ規格に生産者はどのように対応すればよいのでしょうか?

生産者は、

スーパー・量販向けには、通常の市場出荷規格とは別に、ホームユース規格のアジャストマムやスマートフラワーのような短茎切り花を生産しています。

とはいえ、

そのようなホームユース用短茎規格の生産はまだまだ少量です。
ホームユース用規格生産が拡大しないのは、
生産者が、「短茎のホームユース規格を生産しても儲からない」と考えているからです。



図 ホームユース用切り花の仕入れシステムのモデル

   「花の定期便」では規格外も利用されている

  

「花の定期便」規格はこれまでのホームユース規格よりさらに短茎です。
しかも、

「花の定期便」大手のブルーミーの資料では、花も開花状態で3~5cmと上限があります。
(ポストに入れるので制限があるのは当然)
さらに、市場出荷されない規格外もOK。
具体的には、

切り花長は25cm以上あれば、茎の曲がりOK。


図 規格外として市場出荷ができず捨てられていた花も「花の定期便」に利用できる(ブルーミー)

 

規格外で市場出荷できず、捨てられているフラワーロスを減らすという、時代にあった大義名分もありそうです。
別の見方では、捨てていたモノがお金に変わる錬金術。



表 「花の定期便」大手ブルーミーの超ミニ規格の要件

 

市場からSや規格外の注文がきたら生産者はどう対応しますか?


・捨てていた花がお金になるなら出荷する。
・Sや規格外を出荷したら通常規格の単価が下がる(恐れがある)ので出荷しない。
・自分が納得した花だけを市場に出荷し、それを花屋さんに買ってもらいたい(生産者の誇り)。

Sや規格外を目的に栽培している生産者はいません。

M・Sや規格外が多くあったら経営は破綻しています。


しかし、

市場で評価が高い生産者ほどきびしい選別をしています。
市場に出荷せずに廃棄する花が多くあることは事実です。


市場も選別を「厳しく」するように、生産者に「厳しく」指導しています。
さらに、

ある大手市場の経営者は、3割多く植えつけて、選別して品質をそろええること、欠品をなくすこと、花色のバランスを保つことを生産者に求めていました。
つまり、市場が廃棄をすすめているのです。


結論として、

超ミニサイズ規格は生産者がわざわざつくるものではありませんし、つくれるものではありません。

業者がほしい規格・品質を、業者と生産者が合意できる価格で集めてくるのは市場の役割です。
それももちろん最初から超ミニサイズはないので、業者が目的の超ミニサイズに切り分ける必要があります。


宿根カスミソウ、ハイブリッドスターチス、ソリダゴ、リンドウ、ヒペリカム、ルスカス、キイチゴ、アイビー、アセビなど定番花材を切り分けるのには、かなり労力がかかりそうです。


「花の定期便」各社の品質、使い勝手などを調べた「ハナラボ」さんの結論は、「かなりコストパフォーマンスがよい」でした。


生産者サイドの視点からは、

そのコストのほとんどは花材ではなく、人件費のように思えます。
なお、輸送費は無料と別途徴収があります。


「花の定期便」の登場で、生産者のカルチャーショックがまたひとつ増えました。
生産者は高品質生産をめざしています。
それは花農家に限らず、すべてのモノづくりの原点です。
現状では、

切り花の高品質とは、なんども述べてきたように、「茎が長い」ことです。
それが「花の定期便」では20cmで商品になる。
しかも、

生産者からすると、腰が抜けるほど「高い売価」。
先に述べた「錬金術」。


消費者(生産者からすると花屋さん)あっての花産業、
業界としては、
・通常規格と価格設定の見直し


生産者としては、
・現実を直視し、カルチャーショックからの立ち直り

・柔軟な経営、あるいはぶれない経営
が、必要です。

 

宇田明の『まだまだ言います』」(No.296 2021.10.10)


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