スイートピーの輸出から国内花生産の復活を考える | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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今回のお題は、

輸出の観点からスイートピーと国産の花生産復活を考えます。

花の輸出金額は135億円程度(2017年)ですが、

ほとんどが植木、盆栽で、切り花は9億円ほどにすぎません(図1)。
しかも、9億円にはプリザーブドフラワーなどの加工品が含まれています。
生鮮切り花(以下切り花)だけでは4億円ほどです。
2018年にはやっと5億円を超えたでしょう。

輸出金額は財務省貿易統計で公表されていますが、

参照する統計により数字が少し、違うことをお許しください。


図1 花の輸出金額の推移(財務省貿易統計)

 

輸出先は、
加工品を含む切り花総額では、

1位香港、2位アメリカ、3位韓国(図2の青棒)。
切り花だけではアメリカがダントツ1位(図2の赤棒)。
ぐっと下がって2位香港、3位オランダです。
図2でわかるように、

切り花で輸出金額が1億円を超えているのはアメリカだけです。


図2 国別切り花の輸出金額(財務省貿易統計 2017)

 

全体として、切り花輸出は発展途上ですが、

関係するみなさまの努力により着実に増えはじめています。

図3 切り花の輸出金額の推移(財務省貿易統計)

 

では日本のどんな花が、アメリカ人には好まれているでしょうか?
スイートピーが圧倒的な人気です(表)。


画像を見ていただければ一目瞭然。
イタリアなどからの輸入スイートピーは、

日本のスイートピーと比べると、野菜のエンドウの花ていど。

スイートピーがあるから日本の切り花輸出がある

といっても過言ではありません。
 

スイートピーにつづくのは、ラナンキュラス、グロリオサ、

オキシペタラム、トルコギキョウ。
いずれも日本のオリジナル品種。
日本の農家の高度なワザによる超高品質切り花。


画像 左の図:スイートピーの品質比較(左が日本産)

    右の図:ラナンキュラスの品質比較(右が日本産)

    ニューヨークの花問屋

 

すなわち、
育種なくして輸出なし!
つくるワザなくして輸出なし!
さらには、
スイートピーなくして輸出なし!
スイートピーの出荷が終わると、輸出そのものが減ってしまう。


といってもスイートピーの輸出は年間100万本程度。
わが国での流通量が8,000万本ほどだから、

輸出は流通量の1%強。
まだまだ少ない。


アメリカの切り花消費量は定かではない。
すくなく見積もっても60億本。

国民一人当たり20本×3億人=60億本
ちなみに日本は国民一人当たり40本を消費

(枝もの、葉もの、サカキ類を含む)


40本のうちスイートピーは0.6本。
アメリカで一人あたり0.1本使ってもらえれば、

0.1本×3億人=3,000万本。
3,000万本の潜在需要はあるだろう。
そうすると、

国内需要8,000万本+アメリカ輸出3,000万本=1.1億本の生産が必要。
輸出相手国は世界に広がっているので需要はさらに多いい。
マーケットは世界に広がっている。


スローガンであった切り花輸出、夢が現実になりつつある。

ただし、マーケットがあるからといって、

すんなり日本産切り花が受けいれられるほどビジネスは甘くない。
世界に撃ってでるには改めなければならない点が多い。
それは国内生産、花農家復活の方策に通じる。


1.世界に撃ってでるには1品目、1品種のロットが小さい
これは小さな農家が、自分の気にいった品種を、

自分流でつくる日本の花づくりの弱点。
農水省イノベーション事業での東京の大手市場の日もち試験、
バラで、同一生産者、同一品種、同一規格180本が手に入らなかったことは以前に述べた。

それだから、農協共撰で、出荷量をまとめなければならないが、

生産者によるバラツキが大きい。
この小ロットは改善されるどころか、いっそう進んでいる。

 

スイートピーでも、50本扇束2束100本は多すぎて買えないので、

10本丸束5束のミックスにしてほしいという要望が

花店、市場からあるそうです。
仲卸でさえ、1品種100本はしんどいという声(悲鳴?)を聞きます。
この小ロット、ミックスが花業界のコストを増大させ、

国内農家減少の一因です。
また、小ロット、ミックスは切り花販売の主役の交代を無視しています。
ホームユース切り花の主役は専門店から量販にかわっています。

図4 消費者は切り花をどこで買っているか?

    2019年にはスーパーが一般小売店を金額で上回るだろう

    (総務省全国消費実態調査)


この現実に目をそむけて、生産者は生きのこることはできません。
1品種100本のスイートピーを買えない花店は仲卸を利用すべきです。
仲卸は、自分たちの役割を果たさなければなりません。
花産業に仲卸機能は必要です。
仲卸が機能を果たせないなら、

量販が仲卸機能をも担うようになるでしょう。

画像 スイートピーの出荷荷姿(JA愛知みなみ)

    50本扇形束×2で100本/ケース

 

スイートピーにはほかの品目にはない弱点があります。
生産者個々がたねとりをしているため、

品種の名前は同じでも、生産者ごと、年ごとに

花の色がかわることです。
これは外国のバイヤーには不良品に見えます。

小ロット、花の色のばらつきを改善できないと、

輸出の花形スイートピーの潜在需要は大きくても、

現況の100万本で頭打ちになります。

2.納期
市場出荷の良い点は、

いつ、どれだけ出荷しても必ず値段をつけて売ってくれることです。
花が咲かなかっただけでなく、身体の不調、家庭の用事、

地域の行事、雨が降った・・で市場出荷は休めます。
農家は自由度が大きいのが利点ですが、

市場経済の「お客さまの欲しい時に欲しい量を」には反します。
輸出は業者間の契約ですから、納期、数量、規格・品質は絶対です。
天候がわるくて咲きませんでしたではすみません。

ここでもスイートピーの弱点。
曇天で全国一斉に落蕾して、出荷が止まる。
この落蕾防止技術の確立を急ぐべきです。


3.出荷期間をもっと長く
スイートピーの出始めは早くて11月、終わりは3月末。
現在主流の冬咲き系、春咲き系品種およびその交雑種は

彼岸がすぎ、気温が上がると自家受粉をし、たねをつけはじめ、

切り花にならないからです。


画像 スイートピーは4月になると自家受粉をしてたねをつける

 

別に夏咲き系があり6月まで咲きますが、

勢力が強く落蕾しやすいので、経営的にきびしい。
なんとか冬咲き系、春咲き系に夏咲き系の血をいれて、

高温開花性で花びらが強く、輸送性がある品種を育成していただきたい。
スイートピーの輸出が終わるとほかの花の注文も減ります。
輸出を拡大するためにはスイートピーの出荷期拡大が不可欠。


4.輸出は市場主導
生産者、産地にとっての輸出とは、市場から輸出用として注文が入ること。
輸出により、濡れ手で粟の大儲けはできませんが、

注文がふえるから市場単価はアップし、経営改善に役立ちます。

切り花輸出のけん引役はスイートピーです。
スイートピーの弱点を克服して、世界にマーケットを拡大し、

経営を向上させてください。


スイートピーの問題点はほかの花もおなじです。

 

宇田明の『まだまだ言います』」(No.160. 2019.2.3)

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