2018年の切り花輸入は13億1,700万本。
前年より増えたそうです(日本農業新聞2019年1月17日)。
これにサカキ・ヒサカキの輸入量として本数で約8億本、
束数で4,000万束が加わります。
花のマーケットは縮小しつづけているのに、
輸入が増えたということは、国産がさらに減ったということ。
どうすれば国産の花、花農家が減るのを
押しとどめることができるのか?
前回は、スイートピーが急成長した要因を考えました。
2019年1月20日「1月21日スイートピーの日」から国内産地復活を考える
https://ameblo.jp/awaji-u/
今回のお題は、スイートピーの飛躍と衰退から、
国内産地復活を考えます。
スイートピーは1980年代後半から急成長しました。
その要因は「技術革新」。
STS前処理技術が開発され、日もちが一挙にのびたからです。
加えて、時代のあと押し。
重厚長大から軽薄短小が花産業にも波及。
軽薄短小の代表がスイートピー。
図 スイートピーの入荷量と単価(卸売市場協会のデータ等から推定)
1980年の推定2,200万本が1996年には1億7,300万本に急成長し、その後は減少。
2017年は推定7,900万本。
市場単価は30円台で、ピーク時に戻った。
しかし、いいことは長くは続かない。
ほかの花と同様、
1996年をピークに現在まで右肩下がり、生産は減る一方。
山高ければ谷深し。
2017年の流通量は絶頂期の半分以下。
どうすればスイートピーは復活できるか?
それはすべての花に共通します。
「消費拡大活動」と「技術革新」があって国内生産が保てる。
両者はクルマの両輪。
画像 消費拡大活動と技術革新はクルマの両輪
なぜ、スイートピーに「技術革新」が急速に進んだのでしょうか?
こたえは、野菜や果樹農家の参入です。
和歌山県では御坊のサヤエンドウ農家、有田のミカン農家、
宮崎県ではキウリ農家が、あらたにスイートピーの栽培をはじめました。
このひとたちの技術、経営感覚がスイートピーに技術革新をもたらし、
一挙に生産が拡大しました。
そのひとつが「巻き下げ技術」です。
スイートピーの茎は、栽培終了時には4m以上に伸びています。
まさに、ジャックと豆の木。
そのままでは、温室の屋根につかえてしまいます。
そこで、茎がひとの背丈ぐらいに伸びると巻き下げます。
さらには、長い茎は自立できないので、
縦に張った糸にくくりつける作業があります。
繊細な技術と手間と根気がいるやっかいな作業です。
おもに高齢の女性が通路に座り込んで、茎を糸からはずし、
丸い輪をつくり、巻き下げていました(画像)。
1日かかっても10mぐらいしか巻き下げられませんでした。
そのため、スイートピー栽培の適正規模は100~150坪程度。
大変な労力と技術が必要
スイートピーは「こうするもの」と思い込んでいた
画像 巻き下げた茎は丸い輪にする
それを野菜から参入したひとたちは、
縦に張ったネットに茎を洗濯バサミでとめ、
よこに倒す巻き下げ方法を考案しました(下の図の右)。
これで一挙に巻き下げが省力され、栽培可能面積が拡大しました。
従来のスイートピー農家には思いもしなかった画期的な省力ワザ。
図 スイートピーの枝の巻き下げ法今昔(井上智昭「スイートピーをつくりこなす」農文協
左:旧産地では丸い輪にして茎をさげた
右:野菜農家が考案した巻き下げ法。
茎を倒して低くする。立って作業ができるので、早いし楽である。
また、スイートピーは光を好み、湿気を嫌うので、
ガラス温室でなければ栽培できないと考えられていました。
ところが、この常識を野菜から参入したひとたちはくつがえし、
ビニルハウスで
いとも簡単に高品質なスイートピーをつくってしまいました。
技術革新は「これまでの枝の先端から生まれる」のではなく、
「あらたに伸びてくる枝から生まれる」、
その代表例がスイートピーです。
花の生産が一挙に拡大したのは、
1970年から稲の減反政策がはじまり、
優秀な多くの農家が花に参入したからです。
このひとたちは、稲作技術をもたらした弥生人のように、
花づくりにあたらしい技術、経営をもたらしました。
花生産の衰退の一因は、
新規参入農家による新陳代謝が減ったことです。
だからといってこの時代に、野菜から花にかわるひとはいません。
そうならば、自分たちが新陳代謝して、技術を革新するしかありません。
「花は特殊だから」と花の世界だけを見ていても術革新はありません。
野菜の世界、果樹の世界、稲の世界、畜産の世界にも目を向けましょう。
そこからなにが見えてくるか?
1.品種が多すぎる、品種のちがいがわからない
スイートピーの特徴は、自分でたねが採れることです。
というよりも、1株当たりの採種量が少なく、
種苗会社では採算があわないので、
農家自身がたねとりをしなければならないというのが実情。
かんたんにたねが採れるため、それぞれの農家が自家採種しています。
自家採種=農家育種といっても過言ではありません。
ということは、家ごとにオリジナル品種がある。
究極の多品種少量生産。
しかも、去年と今年、品種名はおなじでも、
花の色やカタチが明らかにちがう。
これはネットの時代、量販の時代、輸出の時代の流通に適応できない。
産地での共同採種などで、持続性のある品種に統一し、
品質の変動をなくすことが必要です。
4月になり気温が高くなると、花はすぐにさやになり、たねをつける
2.最大の技術革新は「育種」
育種が時代を変えるのはすべての花共通。
日本人はピンクが大好きだが、
ピンクが濃い淡いだけの新品種ではもう飽きた。
花色の変異は農家育種にお任せし、
研究機関は本質的な育種にとり組んでほしい。
農家の経営安定のためには「多収」と「省力」品種。
多収のためには、落蕾(花落ち)しにくい品種。
スイートピーの弱点は、曇天などの天候で落蕾すること。
それが全国一斉におこるから、突然、市場からスイートピーが姿を消す。
スイートピーはお天気任せの代表。
樹勢が強い夏咲き系、春咲き系はとくに落蕾しやすい。
ということは育種で落蕾しにくい品種を育成できる?
スイートピーのもうひとつの弱点が「花しみ」。
早春になり湿度が上がりはじめると、しみが増え、出荷できなくなる。
原因は、灰色かび病+α
対策はハウスや輸送の環境改善と薬剤散布。
加えて、耐病性品種の育成が必須。
画像 スイートピーの花しみ(灰色かび病)
省力は宮崎県で育成がすすんでいる「巻きひげがない品種」。
巻き下げとともに、葉の先端につく「ひげ」とりに労力がかかる。
3.扇形の束は芸術品だが・・
50本を扇形に束ねるのは、まさに職人ワザ。
スイートピーが輸出の花形になれたのは、
この扇形に欧米人が驚いたことも一因。
たしかに美しいが、手間がかかりすぎる。
50本を扇形に束ねる
1ケースに2束、100本入り
丸束でコスト削減の時代です。
そのためには、全国のスイートピー農家の意思統一と
市場の協力がかかせません。
丸束は何本がよいのか、
流行りのミックスについては別の機会に述べます。
今回は紙面がつきました。
宇田明の『まだまだ言います』」(No.159. 2019.1.27)
2015年以前のブログは
(http://ameblo.jp/udaakira)でご覧頂けます