小説K,氷 -29ページ目

ホストの恋愛6~8P

千尋は週に四日程度はお店にきてくれる。

残りの二日の穴を埋める客だけで、今のぼくにはよかった。

今のぼくに二人以上の客を接客するスキルがなかったし………

なによりも、ぼくは千尋に溺れていた。

千尋の前で他の客につくことが後ろめたい気持ちになっていた。

千尋もいい顔しないし、家に帰れば喧嘩になることもあった。

だけど一人の客では給料の3倍どころか給料分にならない。

まして、好きな相手からそんなに売上をあげられるはずもなかった。

だから千尋にはセット料金以上かからないように心掛け、できるだけ、キャッチのお客でまかなうことを心掛けた。

この日につかまえたキャッチの客は四人組の団体だった。

繁華街をぶらついて、何気なくビラだけ渡した人達だった。

「カラオケに行くからごめんね」

そう言った彼女達だった。

だからビラだけを渡し、番号も交換しなかった。

その彼女たちがおもむろにやってきたのだ。

来た瞬間、ぼくは胸を撫で下ろした。

ホッとしたのだ。

平日ということもあり、客入が少なかったからだ。

年齢は二十代後輩といったところだろう。

女性に年齢を聞くのは失礼だというが、数多くの女性に聞いたが気を悪くする人などいなかった。

ここにくる女性がきかれたくないことは彼氏がいるか、仕事のことのほうが断然におおかったからかもしれない。

野いちごに連載中ホストの恋愛4~5P

千尋のおかげで余裕をもつことができた。

キャッチにでて繁華街を歩く。

光り輝くネオンが星の輝きのように見える。

この界隈だけでもボーイズバーは十数テンポある。

その数だけ、ぼくたちのようなくず星が存在している。

そのくず星たちが繁華街を歩く女の子たちにむらがり、自分自分の店と自分を精一杯アピールする。

余裕のなかったぼくは、必死にアピールしすぎていた。

余裕をもつことで、キャッチのしかたもかわった。

普通に会話して盛り上がったとしても、お店に連れて上がろうとしなくなった。

今までは、好感触を感じたらすぐに店に連れて上がろうとしていた。

だけど、それで店にあがってきてもリピーターになる客は少なく、他のスタッフの顧客になることが多い。

千尋もそうだ。

勇作が連れてきたのに、ぼくの顧客になった。

だからぼくは、店のビラを最後に渡し、こう言う。

「よかったら携帯番号教えて」

この方法が正解かはわからないけど、今までよりは確実に来店する確率があがった。

ホストの恋愛1~3P

千尋という顧客をつかんだことによって、いろんな事がかわった。

1番に驚いたのは、常連のかわりようだった。

入りたての頃は、それはひどい有様だった。

まるで空気のような扱いも受けることもしばしばあった。

しかたない事だと受け入れるしかなかった。

彼女達はお金を払い好きな男にあいにきてるのだから。

コンサートに行って前座がながかったらぼくでも嫌になる。

そう言い聞かしていた。

それが顧客がついた途端に常連の態度ががらりと一遍したのだ。

今まで、お酒をくれなかった人が優しくなり、「グラスを持っておいで」

と、お酒をくれたり、会話すらしてくれなかった客が急にべらべらと話しかけたりしてきたのだ。

何故だかわからなかった。

その答えがわかったのは、一緒に入った流星が教えてくれた。

「先輩達、俺達に客がつくまで無視するように言ってたらしいよ」

「なんで?」

「認める結果をだすための試練」

流星はそう言って怪訝な顔をした

「むかつくよな」

吐き捨てるように言った。

今まで、されたことを思えば、むかつくと思うのは自然なことなのかもしれない。

だけど、ぼくは流星ほどむかつくといった感情がわかなかった。

感情に欠落した部分が少しあることは認識している。

先輩が入りたてのぼくに言った。

「おまえ、壁をつくるのな」

ぼくはただの人見知りだと思っていた。

壁をつくるということは人見知りとは違っていることに気付けなかった。